神獣の名を持つ船
― 神獣の名を持つ船 ―
― アルタイル沖 海中
高速輸送艇"スレイプニル"は、地下ドックより勢いよく沸き立つ海へ飛び出した。
その瞬間艦内に甲高い警報が鳴り響いた。
ピピピピピッ!
「艦長!海水温が高過ぎる!」
機関士兼通信士のミミがモニターを見ながら叫ぶ。
「冷却システム起動するね!」
「あぁ、頼む。」
艦長は操縦桿を握ったまま前を見据える。
「全く…なんていう海だ。割に合わない仕事だ…
海上運航モードに切り替え!」
ミミは左手を挙げる。
「了解!スレイプニル、海上運航モードへ移行!」
船体各部から圧縮空気が噴き出し姿勢制御翼が展開される。
次の瞬間……ドォンッ!!
スレイプニルは海中からイルカのように飛び出した。
海面を滑るように走り始める。
左右では宙帝軍の揚陸艦が何十隻もアルタイルへ向かって進軍していた。
その隙間を縫うように黒い船体が駆け抜ける。
速度百五十ノット。
海面を切り裂く白い航跡だけが一直線に伸びていく。
通常の高速艇では到底到達できない速度だった。
「あいつ何だ!?敵か!?」
宙帝兵達が驚き振り返る。
しかし速すぎる為、双眼鏡で追うことすらできない。
「艦長!」
ミミが再び声を張る。
「敵艦隊、超高密度放射砲第二波!
あと十五秒で海に着弾予測!」
艦長は小さく舌打ちした。
「ちっ…またか…」
モニターに映るネヴァ・アビスを中心に再び青白い反応が集まり始めている。
「回避は?」
「進路上全部着弾予測!」
「なら突破する。」
艦長はスロットルを限界まで押し込んだ。
「全出力!」
ゴォォォォッ!!
スレイプニルの後方から白い飛沫が一直線に伸びる。
「速度二百ノット!」
「海上航行はこれが限界です!飛行モードにしますか?」
「まだだ…指示を出すまでこのスピードを維持しろ!」
その瞬間だった…ズドォォォォォン!!
一本目の放射砲が海へ突き刺さる。
巨大な水柱が立ち上がり、スレイプニルの真横を衝撃波が駆け抜けた。
船体が大きく跳ねる。
「うわぁ!」
「姿勢維持!」
「了解!」
続いて二本目、三本目と…
海そのものが爆発し白く沸騰しているようだった。
「艦長!」
「前方、揚陸艦!」
前方に巨大な揚陸艦が真正面に現れる。
「よし…今だ、飛行モードに移行、最高出力で突き抜けろ!」
「了解!」
スレイプニルは飛行モードに移行し横滑りするように旋回し揚陸艦の艦首すれすれを通過する。
「何だあの船は!速すぎる!」
宙帝兵達が叫ぶ。
その直後、ズガァァァン!!
今度は放射砲がその揚陸艦へ直撃した。味方ごと吹き飛ばされたのである。
巨大な炎が上がり、艦体は真っ二つに折れて海へ沈んでいく。
「ワァオ…」
ミミはモニターを見つめたまま息を呑んだ。
艦長のリクは表情一つ変えない。
「帝神ってのは噂以上の化け物だな。」
その時、レーダーに新たな反応が映る。
「艦長!ノアから通信!」
艦長は受話器を取る。
『こちらノア統合司令ヒメナ。聞こえる?』
「あぁ、聞こえてる。」
『大丈夫か?』
艦長は海上を見据えたまま答える。
「あぁ…仕事はやりきるさ…
ただ超高密度放射砲が厄介、他は予定どおり進んでいる。」
『了解。頼んだで。』
「任せとけ。」
通信が切れる。
ガチャ……
艦長は前方を見据え静かに笑う。
後方の客室からタカヤが声を掛ける。
「艦長!期待してるよ!頼んだで!」
リクは振り返らず右手だけを軽く上げた。
「はぁ…どいつもこいつも……おい、ミミ。」
「はい!」
「何があっても神帝達を地上へ送り届ける。
それが俺達"スレイプニル"の仕事…」
「そんな事わかっとるよ…」
飛行モードへ移行した高速輸送艇”スレイプニル”は、ついに音速を突破する。
(続)




