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ノア・アーク ― 神々と人が生きる方舟 ―  作者: ヤノチャン
十五章 アルタイル防衛戦

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海ごと焼き払え


ー 海ごと焼き払え ー


― ノア艦橋 


「そろそろかな……」


ヒメナはそう呟くと、いつも使っている無線機ではなく、その横に置かれた有線通信機の受話器を手に取った。


プツッ……


回線が繋がる。


『こちらスレイプニル…仕事か?』


低く落ち着いた男の声が響いた。


「あぁ。近いうちに神帝達を地上へ運んでほしい。」


『報酬は?』


「前報酬で五千万、成功報酬で五億や。」


一瞬の沈黙。


『…前報酬は一億。』


ヒメナは苦笑する。


「五千万や。」


再び数秒の沈黙が流れる。


「…はぁ…わかったよ。じゃ、頼むな。」


『契約成立だ。』


ガシャ……


回線が切れた。


受話器を置くと、アマギが驚いた様子で口を開く。


「ヒメナ様……今の方は?」


「あっ、アマギさん。聞いてたんや。」


ヒメナは笑いながら椅子へ座る。


「今のはね。運び屋”スレイプニル”。

ノアの地下ドックを拠点に活動しとる運送会社や。」


「運送会社…。」


アマギは首を傾げた。


「ですが…今の報酬は膨大でした。」


「まぁ、ノアは一つの国家やからね。」


ヒメナは当然のように答える。


「国には軍だけやなく民間企業もあるやろ?

運送屋もあれば建設会社もあるし軍需企業も飲食店もある。必要な時だけ仕事を依頼する。

業務委託みたいなもんや。」


アマギは感心したように頷く。


「つまり今回は…神帝様方の輸送を?」


「あぁ、戦場まで運んでもらう。」


「ですが…。」


アマギはライブ映像へ目を向けた。


海上では砲撃が続き海面は絶えず爆発している。


「こんな荒れた海を、ですか?」


ヒメナは不敵に笑った。


「あぁ。」


「奴らにしかできへん仕事や。」


「どんな船なのです?」


「それは見てのお楽しみ。」


ヒメナは意味深に微笑む。


「ノアには軍部にも保安部にも属さん連中がおる。

危険な荷物、人、情報…何でも運ぶ。」


アマギは静かに息を呑んだ。


「…ノアという国は本当に底が見えませんね。」


「まだまだ序の口やで。」


ヒメナはそう笑うと、再びモニターへ視線を戻した。


その頃ノア地下ドック最深部居住区

一般人は決して近づかないノアの最深部…


ドックでは一隻の漆黒の高速艇が静かにエンジンを始動させる。船体側面には銀色の文字が刻まれていた。


《SLEIPNIR》


ノア最速と謳われる伝説の運び屋が静かに動き始める。


「お前達…仕事や…いつでも出れるように準備」


株式会社スレイプニル代表兼高速輸送艇"スレイプニル"艦長 リクの姿がそこにはあった。


― 深淵大艦隊旗艦《ネヴァ・アビス》


艦橋中央に置かれた黒い玉座のような指揮席に腰掛ける帝神ゼル・アビスは静かにモニターを見つめていた。


海底へ潜んだノア。

その位置を示す推定海域が赤く表示されている。

ゼルは薄く笑みを浮かべた。


「帝神様…ご指示を。」


副官が一歩前へ出る。


「あぁ…。」


ゼルは頬杖をついたまま答えた。


「超高密度放射砲を海へ撃ち込め。」


艦橋の空気が一瞬止まる。


「…アルタイル上陸は、その後だ。」


「ハッ!」


命令は即座に全艦へ伝達された。


「ネヴァ・アビス主砲準備!超高密度放射砲の発射準備!」


「出力四十パーセント!照準はアルタイル港沖!」


巨大な砲身がゆっくりと海面へ向きを変える。


青白い光が砲口へ集まり始めた。


艦橋全体が低く唸る。


ゴォォォォ……


副官が小さく呟く。


「帝神様…海上には我が軍の揚陸艇と兵士達もおります。」


ゼルは視線すら動かさない。


「だから何だ?目的はアルタイル制圧だろ。

多少の犠牲で作戦が成功するなら安い。

兵士はまだまだいる…運がいい奴なら生き残るだろ…」


その冷たい一言に誰も口を開けなかった。


「発射十秒前!九!八!」


海上では何も知らない宙帝兵達がアルタイル海岸へ向かっていた。


「もう少しで上陸だ!敵は砲撃で混乱している!」


兵士達は笑い合う。


その頭上で自軍の主砲が静かに彼らを照準していることも知らずに。


「三!二!一!」


「超高密度放射砲……発射!」


ドォォォォォォォン!!


旗艦ネヴァ・アビスの主砲から青白い極太の光線が一斉に海面へ降り注いだ。


海が爆発した。


轟音と共に数百メートル級の水柱が次々と立ち上がり、海面そのものが抉り取られていく。


揚陸艇は爆風で宙へ舞い上がりそのまま粉々に砕け散る。


「うわああああ!!」


「味方だ!味方がいるぞ!助け――!」


悲鳴は爆音に飲み込まれた。


海は白く沸騰し、衝撃波は海底へと突き抜けていく。


― ノア艦橋


警報が鳴り響く。


「衝撃波接近!海底震動確認!」


「各潜水艦と通信ができません!位置の確認も不可!」


「復旧急げ!確認しろ!」


ノア全体が大きく揺れた。


ガゴンッ!!


天井の照明が一瞬消え、再び点灯する。


「くっ…!」


ヒメナは手すりを掴み体勢を保ち無線を持つ。


「保安部隊!コロニー、居住区の被害調査!確認でき次第報告!」


『了解!』


シャルルが叫ぶ


「敵は味方ごと海を焼くつもりです!」


ヒメナはモニターに映る白く沸き立つ海を見つめ、小さく息を吐いた。


「チッ!なるほどな…。これが帝神ゼル・アビスか。」


その目から笑みは消えていた。


「自軍すら駒として切り捨てる…」


艦橋に重い沈黙が流れる。


「次元潜水艦との通信、まだ回復しません!」


ヒメナは拳を握る。


「……ほんまに頼むで…」


数秒後


『こちら一号艦!応答遅れました!』


『二号艦、健在!』


『全艦無事です!』


「よし!」


「復帰!次元潜水艦は全艦無事です!」


「それならよかった!全潜水艦へ伝達!」


「これより作戦は第二段階や!相手は容赦せぇへん。なら、こっちも遠慮は無しや。」


有線通信機の受話器をあげる。


「スレイプニル!行けるか?」


『行けるが今の揺れはなんだ…?』


「敵の砲撃や!」


『砲撃…今のが…ま、まぁいい先程神帝四名、大神官三名、他二名が乗艦いつでも行けます。』


「目的地はメールで送ったとおりや。頼んだで…

誰でもいい…神帝に代わってくれ。」


『あぁ…

……

こちら神帝ヤザキ・タカヤ…』


「タカヤか…みんなに伝えて…死んだらあかんで!」


『あぁ…当たり前よっ!』


地下ドックの巨大隔壁がゆっくりと開く。


海水が勢いよく流れ込み、漆黒の高速輸送艇スレイプニルの艦首が静かに海へ向いた。


艦橋では航海士兼操舵手のランがスロットルへ手を掛け小さく笑う。


「最速ルートで行く。艦長!いつもの…」


「あ、そーだな…」


リクはマイクを持つ。


『あ、あ…こちらスレイプニル艦長リク…

ノア最高幹部の皆様…スレイプニルへの乗艦歓迎致します。シートベルトには数に限りがございますので何かに掴まりの上ぜひ"ノア最速"をお楽しみください…』


深海に潜むノアの反撃が、今まさに始まろうとしていた。


(続)



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