ノア潜航せよ
― ノア潜航せよ ―
― 艦橋
深淵大艦隊は惑星アルタイル目前で一斉に停止した。
宇宙に浮かぶ百を超える戦艦。
その光景をノア観測隊、そしてアルタイル軍部の軍人達は固唾を飲んで見守っていた。
「深淵大艦隊、全艦停止しました!」
観測員の報告が艦橋に響く。
大型モニターには、静止したまま隊形を維持する敵艦隊が映し出されていた。
「全艦停止…。」
ヒメナは腕を組み、モニターを見つめる。
「何か考えでもあるんか…?」
数秒考え込んだ後、小さく笑った。
「まぁええわ。ありがたい時間や。」
そのままオダイへ振り返る。
「オダイ艦長。一度ノアを隠そうか。」
「……。」
オダイは一瞬固まる。
「ノアを隠す……?」
次の瞬間、何かを察したように目を見開いた。
「あっ、統合司令…ま、まさか…あれを?」
「そうや。」
ヒメナはニヤリと笑う。
「ノアの深海潜航。
こんな港に停めたままやと、デカい的になるだけや。
あとさあれだけの宇宙戦艦を相手するなら洋上でも厳しい。なら見えん所へ隠れた方がええ。」
オダイも静かに頷く。
「まぁ…確かに……。
アルタイルの海なら水深も十分あります。」
その会話を聞いていたタカヤ達が驚く。
「えっ!ノアが潜るの?」
タカヤが思わず声を上げた。
「知らなかったの?」
ヒメナが笑う。
「いや…知らんかった。」
メインも驚いた表情だった。
「まさか…ノアにそんな機能があったなんて。」
モックも目を丸くする。
「初耳だよ。」
オダイが説明を始めた。
「ノアは宇宙空母だが建造当初から海上国家としての運用も想定されている。
有事の際には完全潜航し海底基地として活動できます。」
ウォンも資料を開く。
「潜航中も主機関、通信、ミサイル発射設備は全て使用可能です。流石に航空機は使えませんが滑走路には潜水艦を付け乗員の乗り降りが可能。敵から見れば海そのものが要塞になります。」
アマギは驚きを隠せなかった。
「宇宙空母が…海底へ?
そんなの…聞いた事がありません。」
ヒメナが肩をすくめる。
「私も聞いた事無かったよ。作った人らは変人やな。」
艦橋に笑いが起きる。
そしてヒメナは真剣な表情へ戻った。
「帝神もすぐには出てこんやろ。」
「なら艦隊相手には深海からミサイル攻撃。
見えない所から撃って、撃って、嫌らしくいこか。」
タカヤが苦笑する。
「そんな上手くいくかな?」
「さぁね。」
ヒメナは笑った。
「やってみんと分からん。てか少しやってみたい…
あとさ巨大ドックの無いこの星でノアを傷付けたく無いからな。」
そして艦橋後方にいた一人へ視線を向ける。
「リリア。」
「対艦ミサイルやけどさ…出せるだけお願いな。」
リリア・ヘリオスは小さくため息をつく。
「はぁ…言っとくけど高いわよ。」
「了解。あと誰かアルタイル軍部にも連絡入れといて!」
「了解致しました!」
ー 数分後
ノアの潜航が始まろうとしていた。
運用員の指先がコンソールを走る。
「全浮力制御システム起動。海水注入開始。」
「耐圧隔壁、全閉鎖。」
艦内放送が流れる。
『総員に告ぐ。これよりノアは深海潜航を開始する。各員は耐圧配置につけ。』
ノアがゆっくりと港から離れていくアルタイルの海面に静かな波紋が広がった。
「潜航開始。」
艦隊のオダイが静かに告げる。
巨大な方舟は、その巨体からは想像もできないほど滑らかに海へ潜り始める。
艦首がゆっくりと水面へ没し、続いて飛行甲板、艦橋が海に包まれていく。
やがて海面に残った波紋すら消えていた。
アルタイル港にいた人々は、その光景を息を呑んで見つめていた。
「……消えた。」
誰かが呟く。
ノアは何事もなかったかのように深い海の底へ姿を消した。その頃、宇宙ではなおも深淵大艦隊が静かに惑星アルタイルを眺めていた。
彼らはまだ知らない。
目標の一つである巨大な方舟が
すでに海の闇へと姿を隠したことを。
(続)




