迫る深淵
― 迫る深淵 ―
― 宇宙空母ノア・中央会議室
「帝神か…この距離やとすぐには来ません。
とりあえず艦橋に移動しましょうか。」
副司令シャルルは冷静にそう告げた。
慌てる者は一人もいない。
幹部達は素早く立ち上がり、それぞれ資料や端末を持って艦橋へ向かう。
会議室を出たその時…タカヤは歩きながらデバイスを耳に当てる。
通信相手は、元宙帝深淵三羽烏イザナ・グレイブ。
「イザナさん、今大丈夫ですか?」
『大丈夫です。ボス。』
通信越しから落ち着いた声が返ってくる。
『今はリリア様とお茶をしています。』
「あぁ…そうか。休みの所悪いな。」
タカヤは少し申し訳なさそうに笑う。
「今から艦橋に来て欲しいんやけど来れるか?
リリアさんも一緒でええから。」
通信の向こうで少し間が空く。
イザナの声色が変わった。
『了解致しました。すぐ向かいます。』
「頼むね。」
ガチャ……通信は切れた。
― ノア艦橋 ―
艦橋では既に観測員達が慌ただしく動いていた。
巨大スクリーンには、アルタイル宙域外縁部の戦術マップ。
無数の赤い光点。
その数は刻一刻と増えている。
「敵艦隊、減速。超空間転移終了。」
「戦闘隊形を展開しています。」
管制官達の報告が次々と飛ぶ。
その時後方の自動扉が開いた。
「失礼します。」
イザナとリリアが艦橋へ入ってくる。
イザナはスクリーンを見た瞬間、表情が凍りついた。
「…あれは。」
拳が自然と握られる。
「深淵大艦隊…ゼル…。」
その一言に、誰もがイザナへ視線を向けた。
ヒメナが静かに頷く。
「やっぱりそうか。」
イザナはモニターへ歩み寄る。
「さっきの宙帝艦隊が応援を呼んだのでしょう。」
赤い光点の中心を指差す。
「この巨大な反応が深淵大艦隊旗艦ネヴァ・アビスよ。」
その名を聞いたアマギも息を呑む。
イザナは続ける。
「あそこにいるのは深淵の帝神ゼル・アビス。」
司令室が静まり返る。
「惑星ケプラーで最高幹部はほぼ全滅しました。
ですが深淵大艦隊は別です。
戦闘員は全員、精鋭。
三羽烏が率いていた直属部隊より、更に上。」
その説明にオダイが腕を組む。
「厄介やな…」
タカヤが隣へ歩く。
「帝神はイザナさんがやる?」
イザナは苦笑した。
「無理ですよ。」
即答だった。
「ゼル・アビスは…私の上位互換よ。
能力も戦闘技術も統率力も…全てが上です。」
少しだけ目を伏せる。
「ですが…」
握った拳に力が入る。
「私を切り捨てた事だけは後悔させる。」
タカヤは笑った。
「その時が来たら俺も手伝うよ。」
その時だった。
「ならばその時は我も共に戦おう。」
全員が振り返る。
彦星は堂々と立っていた。
「ゼルが帝神なら。
こちらも神帝と軍神!負ける理由は無い。」
その言葉にタカヤも顔を伏せ小さな声で呟く。
「さぁ…それはどうかな?」
その一言に気がついたのは隣にいた神帝モックだけだった。
彦星はヒメナへ向き直る。
「我は軍部へ戻る。」
「アマギ。」
「はい。」
「お前はノアへ残れ。ノアの戦い方を学んで来い。
外交だけでは見えぬものがある。」
「…承知しました。」
彦星はヒメナを見る。
「良いかな?ヒメナさん。」
ヒメナは笑顔で頷いた。
「もちろんですよ。」
そして通信を入れる。
「輸送部隊。」
『はい。』
「彦星様をアルタイル軍部まで。」
『了解しました。』
艦橋横のヘリポートでは既に輸送ヘリのローターが回り始めていた。
隊員が敬礼する。
「彦星様、こちらです。」
彦星はゆっくり歩き出す。
出口で一度立ち止まり、振り返った。
「ノアの戦士達よ。」
その場の全員を見る。
「また会おう。」
最後にその視線は、記録員ミナト・ローウェルへ向けられる。
目が合う。
彦星は優しく微笑み小さく頷いた。
ミナトは敬礼を返す。
静かに自動扉が閉まり艦橋には再び緊張が戻った。
モニターにはなおも接近を続ける深淵大艦隊。
その艦橋では、深淵の帝神ゼル・アビスが静かにアルタイルを見据えていた。
「タカヤ?随分と自信が無さそうね…」
モックが話し始めた。
「いや、そんな事はないけどさ。
多分彦星さんは負けた事が無いんだよ…
帝神ってさ、そんなに甘く無いからね。」
「帝神とはそんなに手強い者なのですか?」
「あぁ…恐ろしいよ…」
そう言い椅子に深く腰掛けた。
ー 深淵大艦隊旗艦ネヴァ・アビス 艦橋
「帝神様!惑星アルタイルを目視で確認!
情報では宇宙空母ノアがいます。」
「あぁ…下がれ…」
ゼルはモニターを見つめ不適な笑みを浮かべた。
「アルタイルは我ら宙帝の物となる…」
(続)




