それぞれの正義
ー それぞれの正義 ー
― アルタイル陸上戦最前線
戦いは"とりあえず"終わった。
吹き飛ばされた宙帝兵達は次々と武装解除され、アルタイル兵によって拘束されていく。
戦場には歓声が響いていた。
「おぉ…凄いな……」
タカヤは目を輝かせながら、巨大な大鉾を肩に担ぐ彦星を見つめていた。
「かっこいいね!メイン!」
「ハハ……そうだね!」
メインが笑う。
「タカヤ君…憧れるのはいいけどさ、外交の場ではしっかりね。」
「わかっているよ。」
さっきまで少年のようにはしゃいでいたタカヤの表情が、一瞬で神帝の顔へ戻る。その変化を見た彦星はゆっくりと歩み寄った。
「神帝達よ…助かった。」
二人は軽く頭を下げる。
「こちらこそ。」
彦星は少し考え静かに口を開く。
「ひとつ聞きたいのだが…
参考までに聞かせてくれ。」
「何でしょう?」
メインが前へ出る。
「太陽系人類の君達は捕虜をどうする?
この場で処刑するのか?」
少しだけ空気が張り詰めたがメインは迷わず答える。
「いいえ。時と場合によりますが、多くは投獄です。ごく稀に処刑、もっと稀には勧誘…ですね。」
「…勧誘?」
彦星の眉が動く。
「敵を…仲間にするのか?」
「はい。本人が望むならね。」
彦星はしばらく黙っていた。
「なるほど……」
その価値観はアルタイルには存在しない。
敵は敵で倒すもの…それが当たり前だった。
「面白い考え方だ…」
その時だった。ゴォォォォォ……
空から輸送ヘリが降下してくる。
「神帝様!」
ノアの隊員が手を振る。
「司令達とレコードは無事ノアへ到着しました!」
タカヤが彦星へ向き直る。
「彦星様。」
「うむ。」
「続きは俺達の”家”で話しましょう。
ノアへご招待します。」
彦星も小さく笑う。
「では、お言葉に甘えよう。」
アルタイル軍兵士達はその光景を見て驚いていた。
自分達の象徴が異星の国家へ赴く歴史的な瞬間だった。
― ノア艦橋・後方統合司令室
「ハハハ!何やこれ!」
司令室へ戻ったヒメナが爆笑していた。
「チョウカちゃん…めっちゃ使ってるやん!」
大型モニターには戦闘記録が映し出されている。
使用弾薬、使用ミサイル、砲撃回数。
そして残された音声記録、ヒメナが再生ボタンを押した。
『今夜は花火大会や!ハハハ!』
司令室は爆笑に包まれた。
「ハハハハ!らしいなぁ!」
シャルル副司令は額を押さえる。
「彼女が味方で本当に良かったですよ…」
その様子を見ていたアマギ・セレナは、不思議そうな表情を浮かべた。
「皆さんは…それでいいのですか?」
笑い声が止まる。
「チョウカ様はキドウ様の許可なく、ノアの三分の一近い弾薬を独断で使用されました。
アルタイルでは考えられません。」
ヒメナはコーヒーを一口飲んだ。
「その考えも分かるよ。」
静かにカップを置く。
「でもね、その時私はノアにはおらんかった。
私がおらん場合の最終決定権は副司令にある。」
「……。」
「私が生きてようが死んでようが関係ない。」
ヒメナは真っ直ぐアマギを見る。
「その責任を背負って判断したチョウカちゃんは立派や。」
オダイも頷く。
「現にノアは無傷。敵艦隊も撤退。
確かに少しやり過ぎだとは思うがしかし結果だけ見ても正しい判断。」
アマギは少し俯く。
「アルタイルには…絶対的な王がおられます。
昔から彦星様が国家そのもの。」
ヒメナは優しく笑う。
「ノアにはおらん。その代わり。
皆で決めたルールがある。私達はそれを"法律"と呼ぶ。そのルールが絶対。」
アマギは静かに呟いた。
「王をルールとする我々が間違えているのでしょうか?」
アマギ・セレナは真っ直ぐヒメナを見つめ部屋は静まり返る。
「いや、間違ってはいないよ。
全て正しい。世の中に絶対の間違いなんて無い。」
アマギは首を傾げる。
「ですが…思想は対立します。」
「するよ。だから戦争が起きる。自分の正義の旗の元戦争は起きるんだよ…宙帝にもアルタイルにも私達太陽系人類にも…それぞれの正義がある。」
誰も口を挟まない。
「アルタイルは彦星という絶対的な象徴がいるから一つにまとまれる。」
「はい。」
「ノアにはおらん。」
ヒメナは司令室にいる幹部達を見回した。
「ルールが王の代わりや。」
シャルルが頷く。
「誰が司令になっても国家は同じ方向を向くように…」
「そう。」
ヒメナは笑う。
「もし今ここで私が今死んでもノアは止まらない。」
オダイ艦長も腕を組む。
「艦長が沈んでも、副艦長がおる。
副艦長が倒れても次がおる。」
アマギはゆっくり息を吐いた。
「…なるほど。」
その時自動扉が開く。
「失礼しまーす!」
タカヤ達が司令室へ戻ってきた。
その後ろには八代目軍神彦星"アルトリウス・アルタイル・レグナス"
アマギは一歩下がる。
「八代目、お疲れ様です。」
彦星は軽く頷いた。
「ヒメナ殿。」
「彦星様。」
二人は改めて笑顔で握手を交わす。
「改めて礼を言わせていただく。
神帝達のおかげでアルタイルは救われた。」
「お互い様ですよ。」
ヒメナは肩をすくめる。
「敵が同じなら助け合う。当然です。」
彦星は司令室をゆっくり見渡した。
巨大なモニターに忙しく動く士官達…
慌ただしい空気の中にも笑顔がある。
「…ほぉ…面白い国家だ。戦争中とは思えぬ。」
「まぁ、いつもこんな感じです。」
メインは苦笑し彦星は静かに呟く。
「強い理由が分かった気がする。」
ヒメナは首を傾げる。
「ん?」
「誰も恐怖で動いていない。信頼で動いている。」
しばらくしてからヒメナが笑う。
「最高の褒め言葉やね。」
彦星も小さく笑みを浮かべた。
「今日一日で太陽系人類を少し理解できた気がするよ。」
そしてゆっくりと窓の外を見る。
「さて…まだ話したいことは山ほどある。
ルールの事など…」
彦星はヒメナへ向き直る。
「さぁ…アルタイルとノア、正式な会談を始めようではないか…」
(続)




