軍神と方舟
ー 軍神と方舟 ー
― アルタイル歴史博物館・特別保管区画
「ボイジャーに関しての展示や資料は博物館に展示しております。後ほどゆっくりとご覧ください。」
アマギ・セレナの案内で一同は再び歩き始めた。
背後には静かに眠るボイジャー。
遥か昔に地球を旅立った人類最初の旅人は、今もアルタイルの地で大切に保存されていた。
「この先には何があるんや?」
ヒメナが尋ねる。
「八代目がお待ちです。」
アマギは微笑む。
長い廊下、壁にはアルタイルの歴史が描かれた絵画が並びその先に巨大な扉が現れる。
「博物館の裏手には宮殿区画と軍事拠点がございます。」
アマギは歩きながら説明する。
「ここが八代目彦星様の執務室です。」
扉の前で立ち止まりアマギは姿勢を正した。
「八代目!太陽系人類の皆様をお連れしました!」
数秒の静寂…やがて重厚な声が返ってくる。
『ご苦労。入室を許可する。』
門兵達が一斉に動いた。
巨大な扉がゆっくりと開く。
ゴゴゴゴ……
その先は会議室にも似た広い空間だった。
奥に立つ一人の男は二メートル近い長身の鍛え抜かれた肉体に黄金色の長髪…
まるで神話から抜け出してきたような存在感に誰もが一瞬言葉を失う。
「初めまして、太陽系人類の皆様。」
男は静かに一礼した。
「八代目軍神彦星"アルトリウス・アルタイル・レグナス"です。」
圧倒的なオーラに空気そのものが重くなる。
ヒメナですら目を細めた。
「これはまた…えらいのが出てきたな。」
彦星はゆっくり歩み寄る。
そしてヒメナへ手を差し出した。
「遠路遥々ようこそアルタイルへ。」
「こちらこそ。宇宙空母"ノア"統合司令キドウ・ヒメナです。」
二人は握手を交わす。
その瞬間だった。
ふらっ――
後方でミナトがよろめく。
「えっ…」
倒れそうになる身体。
しかし次の瞬間には彦星が目の前にいた。
誰も動きを見切れなかった。
「大丈夫か!」
彦星はミナトを支える。
「あ…」
至近距離。
ミナトと彦星の視線が交わる。
「本当に申し訳ない。」
彦星は苦笑した。
「少々威厳を出そうと思いオーラを解放していた。」
「あ、ありがとうございます…」
「いや、それより……」
彦星は一瞬だけ言葉を失う。
「……美しいな。」
誰にも聞こえないほど小さな声だった。
「え?」
「いや、何でもない。」
彦星は慌ててミナトを降ろした。
妙な沈黙。
ヒメナはニヤニヤしている。
「ほほぉ…」
「ヒメナさん黙って。」
タカヤが即座に突っ込む。
空気を変えるように彦星が奥へ向かった。
厳重な保管ケースを開きそこから黄金色の円盤を取り出した。
「これを見ていただきたい。」
一同の視線が集まる。
「これは……」
ヒメナが息を呑む。
「ボイジャーのゴールデンレコードか。」
「その通り。」
人類の声、音楽、言葉、様々な画像データ…地球の全てを詰め込んだ宝物。
彦星は静かに頷いた。
「これは我々アルタイル人にとっても…」
その時だった。
ピピピピピピ――!!
赤色灯が点滅する。
「八代目!」
士官が飛び込んでくる。
「宙帝大艦隊です!」
全員が振り向く。
「宇宙防衛を突破し地上都市に対する砲撃を開始!
防衛システム展開中!」
彦星の表情が険しくなる。
「チッ…」
静かに舌打ち。
先程までの穏やかな空気が消える。
「アマギ。」
「はい。」
「客人とレコードをシェルターへ。」
彦星は黄金のレコードを渡す。
「俺は前線で指揮を執る。」
「了解しました。」
アマギは即座に動く。
「皆様!こちらへ!」
しかしヒメナが手を上げた。
「ちょい待ち。」
全員が振り向く。
「タカヤ、メイン。」
「ん?」
「はい?」
「二人は彦星様と行って。」
タカヤが笑う。
「ほんまに?」
「ほんまに…」
ヒメナも笑う。
「私らは一旦ノアへ戻る。」
そしてアマギへ視線を向けた。
「港までの地下通路は?」
「ありますが…しかし…」
アマギは一瞬彦星を見る。
彦星は頷いた。
「案内してやれ。」
「はい。」
「アルタイルとして客人を危険には晒せません。」
アマギが言う。
「まぁ当然やな。」
ヒメナが肩を竦める。
「敵の敵は味方とはよく言ったものや。」
「そうですね。」
ヤマト・ミワも頷いた。
彦星はタカヤとメインを見る。
「二人とも。」
「ん?」
「歓迎する。」
軍神は笑った。
「存分に暴れてくれ。」
タカヤも笑う。
「任せとき。一応俺らも太陽系の最終兵器って言われててな。」
「そーだった?」
「いいやんか…ここだけの話な、メイン…」
アルタイル上空。
数百隻規模の宙帝艦隊が姿を現していた。
砲火が都市へ降り注ぐ。
アルタイル防衛軍が迎撃を開始する。
「最終兵器よ…もし死んでもアルタイルは責任取れないからね…」
「それは困るな…」
三人は笑いながら戦場へ向かう。
アルタイルを守るために。
十四章・完
十五章へと続く…




