歓迎通信
ー 歓迎通信 ー
― ノア・副司令執務室
ピピピー……
静かな執務室に電話の着信音が響いた。
副司令シャルル・レンは資料から顔を上げ受話器を取る。
「はい、こちらシャルル…」
『こちら通信衛星部隊、カンザキ・ミサキ軍曹でございます。』
若い女性の声だった。
『アルタイルに向けた公開通信を行いますが、よろしいでしょうか?』
「内容は?」
カンザキはすぐに答える。
『こちら太陽系第三惑星”地球”の宇宙空母”ノア”。貴星との敵対の意思なし。繰り返す。貴星との敵対の意思なし。港への入港を願う。返答を待つ。…という内容です。』
シャルルは少し考える。
「それでいいでしょう。」
そう答えた。
「頼みますよ、軍曹…」
『了解致しました。五分後に実施致します。』
ガチャ。
通信が切れる。
シャルルは椅子にもたれた。
窓の外にはアルタイルが見える。
(遂にか……)
シャルルはエナジードリンクを飲み干す。
― 通信衛星基地局
「シラサギ司令。」
カンザキが敬礼する。
「艦橋から許可が出ました。五分後に実施致します。」
通信衛星部隊司令シラサギは大きく頷いた。
「おぉ…わかった。」
そして椅子へ深く腰掛ける。
「軍曹…任せたよ…」
カンザキが離れた後シラサギは机の上を見る。
そこには一本の短剣。
(この通信で全てが決まる……)
友好か…敵対か…
もし失敗すればノア全体が危険に晒される。
(失敗したら責任は我々通信衛星部隊だ……)
その覚悟は出来ていた。ふと背後から声がする。
「相変わらず怖い顔してますねぇ。」
そこに立っていたのは外務司令オレサキ・レンヤ中将。
ノア最高幹部の一人だった。
「この作戦が失敗に終わったらさ。」
オレサキは笑う。
「俺も一緒に腹を切るよ。ハハハ!」
「相変わらず中将殿は気楽ですな…」
「これぐらいでないと脳がパンクします。」
オレサキは肩を叩いた。
「シラサギのおじさんもリラックス。リラックス。」
その時通信員が立ち上がる。
「定刻になりました。」
全員の視線が集まる。
カンザキがマイクの前へ座った。
「通信を開始します。」
スイッチが入る。
そして宇宙へ向けて音声が放たれた。
― ノア全域 ―
公開通信、その為この放送はコロニー全域でも流れていた。
住民達は足を止め皆が同じ放送を聞いていた。
「こちら太陽系第三惑星”地球”の宇宙空母”ノア”。
貴星との敵対の意思なし。繰り返す。
貴星との敵対の意思なし。港への入港を願う。
返答を待つ。」
放送は繰り返される。
五回目が終わった直後だった。
通信席のオペレーターが立ち上がる。
「司令!!」
基地局の空気が変わる。
「アルタイルより音声通信!!」
シラサギが立ち上がった。
「早く共有しろ!」
「了解。」
全回線へ接続…ノア全域へ流される。
ザー…短いノイズ。
そして男性の声が聞こえた。
『こちらアルタイル軍部。』
全員が息を呑む。
『貴艦の入港を歓迎する。
メインポートへの入港を誘導する為、誘導艦を送る。その場で待機せよ。』
通信終了。
シラサギが椅子へ崩れ落ちる。
「はぁぁぁぁ…よかった……」
基地局にいた全員が同じだった。
オレサキは笑った。
「だから大丈夫だって言ったでしょう?」
「中将殿…」
「ん?」
「いや、なんでもありません。」
「あっ、そー…」
― ノア艦橋
「アルタイル軍、正式に入港を許可。」
管制官が報告する。
ヒメナは小さく笑った。
「まずは第一関門突破やね。」
前方モニター。
そこには一隻の艦艇が映っていた。
アルタイル軍所属の誘導艦。
その艦はゆっくりとノアへ近付いて来る。
「誘導艦、接近中。」
「通信良好、進路指示受信!」
オダイ艦長が頷く。
「よし。アルタイルへ入るぞ。」
宇宙空母ノアは誘導艦の後ろに付き
アルタイルの港へ向けて進み始めた。
(続)




