未踏宙域へ
ー 未踏宙域へ ー
― 宇宙空母ノア・艦橋
「ヒメちゃん…久しぶりね…」
モニター越しに現れたパンドラは柔らかく微笑んだ。
モニターを通しても威圧感は伝わってくる…
「お久しぶりです……パンドラ様……」
ヒメナも自然と背筋を伸ばす。
「あぁ……私の可愛い神帝達はいないのかな?」
「申し訳ございません。今は休んでもらっています。呼んできましょうか?」
「いやいや…大丈夫だよ。休ませてあげて…」
パンドラは小さく首を振った。
「それよりヒメちゃん…神帝マック・ファイヤから聞いたよ。随分と遠くに行ったみたいだね…」
「あはは…お陰様で。」
ヒメナは苦笑する。
「敵を追ってきて気がついたら太陽系人類未踏の宇宙の手前でした。」
「ふふ…」
パンドラは楽しそうに笑った。
「流石の私も行った事ないよ…それでどこまで行くの?」
「さぁ…今は何とも。」
「そーかい……」
パンドラは少しだけ寂しそうな表情をする。
「まぁ遠くに行くのはいいけどさ…また元気な顔を見せに来てよね…神殿で待ってるからさ…」
「承知致しました。」
ヒメナは満面の笑みを浮かべた。
その笑顔を見てパンドラも安心したように頷く。
「やっぱりヒメちゃんは笑顔が可愛いね…
あ、あとさ…」
「はい?」
「堕天のルシファーに言っておいて。」
艦橋の空気が少しだけ変わるがパンドラは笑顔のまま言った。
「“方舟”が沈めばお前の責任だ、私の代わりに死ぬ気で仕事をして来い…とね!
まぁ、神は簡単には死ねないんだけどね!ハハ!」
パンドラだけが楽しそうに笑い艦橋は静まり返る…
「今のは笑う所だよ?」
「ハハ……」
ヒメナは苦笑いしかできなかった。
(神のジョークは難しい…)
「それじゃ長話もなんだから、そろそろ切るね。」
パンドラは最後に優しく言った。
「必ず生きて帰れ。」
ヒメナは力強く頷く。
「はい!」
ブツッ… 通信が切れる。
モニターはホワイトノイズへ戻った。
艦橋にいた全員が敬礼したままその余韻を見送る。
静寂の中でリリア・ヘリオスが呟いた。
「ヒメナ…あの方が絶対神パンドラ…」
「あぁ。」
ヒメナは前を見据える。
「そうだよ。あの人が私達の象徴。」
そして椅子から立ち上がる。
「さぁ!そろそろ先へ進もう!」
ヒメナは艦長席へ向かって叫んだ。
「オダイさん!」
「ん?」
オダイが振り向く。
「はいよ!」
艦長は操艦席へ視線を戻した。
「総員準備!」
管制官達が一斉に動き出す。
「主機関正常!重力航法装置正常!」
「通信衛星の回収急げ!一機は置いとけ後々役に立つ!と思う!」
「了解です!」
「作業区、居住区、全区画異常なし!」
オダイが静かに前を見据える。
その先にあるのは誰も見たことのない宇宙。
「…さぁ行こうか…ノア前進…」
その一言で巨大な船体が震えた。
ゴォォォォ… 主機関が唸る。
近くでは機関士達が主機の様子を見守る。
宇宙空母ノアは再び動き始めた。
ボイジャー航路…太陽系人類到達圏。
艦橋中央モニターには数字が映る。
太陽系人類最遠到達記録まで……残り一光年。
誰も声を出さずにただ前を見る。
その先にあるものは元宙帝幹部のイザナ以外に誰も知らない。
やがて艦橋の窓の向こうの星々の海がゆっくりと姿を変え始める。
(続)




