ノアはそういう国家
ー ノアはそういう国家 ー
― 特別隔離室 ―
コンコン……
静かなノック音が部屋に響く。
「入りますね。」
自動扉が開きタカヤが姿を現した。その後ろにはモックもいる。
イザナとエリオはソファに腰掛けたまま視線を向けた。
張り詰めていた空気の中エリオが口を開く。
「……私達の処遇が決定したのですか……?」
イザナも小さく笑う。
「どんな刑でも受け入れよう…これが捕虜となった者の末路だ。」
二人は目を合わせ頷いた。
タカヤは数秒黙った後、口を開く。
「よし、その言葉に二言は無いね。じゃ…」
タカヤは二人を指差した。
「イザナ・グレイブ。君は俺の下に付け。」
「……は?」
「エリオ・ヴァイス。君は神帝モックの下で。」
モックが軽く手を上げる。
「はーい!よろしく〜!」
タカヤは続ける。
「部屋に案内する。ついて来い。」
二人は完全に固まっていた。
「…ついて来い?部屋?」
イザナが聞き返す。
「あぁ。君達には神帝直属として働いてもらう。
それが刑や。」
エリオは言葉を失っていた。
「……意味がわからない……」
モックが笑顔で話しかける。
「エリオさん!これからよろしくね!」
「いや…よろしくねじゃなくて…」
エリオの頭が追いついていない。
「私達…敵ですよ…?」
「まぁ…そやけどさ…?いいやんか!」
タカヤが即答する。
イザナは呆れたように額を押さえた。
「あなた達…頭おかしいのか?」
「通常運転だけど…」
タカヤとモックは平然としていた。
エリオがふと思い出したように聞く。
「…私の部下達は?」
「ん?もちろんそのままよ。」
「そのまま……?」
「せっかく助けたんやし、まとめて面倒見わ。
その方が動きやすでしょ?」
エリオは絶句しイザナが苦笑した。
「……信じられないな。」
ソファにもたれながら天井を見る。
「宙帝なら確実に処刑よ……少し甘いんじゃないの?」
タカヤは少しだけ真面目な顔になる。
「甘い…か。まぁ…これがノアやからね。
じゃ、行こうか…部屋に行く前に少しだけ寄り道な。」
タカヤがそう言うと部屋の扉を開けて歩き出した。
「寄り道?」
エリオが首を傾げる。
「ノアは国家だ…その証拠を…」
数分後隔離区域のゲートを抜けた瞬間に二人は言葉を失った。
― ノアコロニー中央区
広大な人工空間。
青空が広がっている。
人工太陽が優しく照らし風が吹き木々が揺れる。
公園では子供達が走り回り犬が散歩している。
噴水の周囲では老人達が将棋を指していた。
三両編成のモノレールが頭上を走る。
パン屋からは焼きたての香り。
そのパンを食べ学生達は笑いながら帰路につく。
どこを見ても―戦争の匂いが無い。
イザナが立ち止まった。
「……なに…これ…」
タカヤは振り返る。
「ん?」
「ここは…軍艦でしょう?」
エリオが聞く。
「まぁ…軍艦やけど?」
「嘘を言うな。」
即答だった。
「こんな軍艦がある訳ないでしょう!」
エリオが珍しく声を荒げる。
「公園がある。」
「あるね。」
「学校がある。」
「あるね。」
「パン屋もある。」
「うん。」
「なんで?」
「国やからパン屋ぐらいあるやろ?」
イザナは頭を抱えた。
モックが笑う。
広場の中央。大型モニターにはニュースが流れている。
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「戦争中なのよ?」
「うん。」
「敵地に向かってたのよね…?
なんでこんなに平和なの?」
タカヤは少し考えた。
「さー?わかんない?」
エリオは返す言葉が無かった。
その時 「タカヤ様ー!」
小さな女の子が走ってくる。
「おっ。」
「お仕事おつかれさま!」
「おぉ!ありがとね。」
頭を撫でる。
女の子は嬉しそうに笑った。
その光景を見たエリオは目を見開く。
神格再編機関では神と幹部は恐れられる存在、それは宙帝でも同じ。
だがここでは違う。まるで近所のお兄さんだった。
「ねぇ、私は今まで…何と戦ってたんだ?」
タカヤは少し笑う。
「さぁね…」
エリオとイザナは黙って歩き出した。
見上げた空は人工の空。
それでも崩壊したケプラーの空よりはずっと綺麗に見えた。
(続)




