シャッターの向こう側
ー シャッターの向こう側 ー
― ノア報道記録区画
(俺の名はクロウ・レンズ――)
静かな部屋の片隅の机の上に並ぶ無数の記録媒体。
古い戦場写真や壊れたレンズ。
(宇宙空母ノア所属、公式戦場カメラマン…)
クロウは椅子に深く腰掛けたまま窓の外を見ていた。
今日のノアは平和だった。
「…仕事は無いが平和が一番だ…」
ボソリと呟く。
「ねぇ、暇だね〜」
後ろから軽い声。
ショートヘアの女性ミナト・ローウェルが入ってくる。
「……ミナト、お前は別に戦場専門じゃないだろ」
クロウは振り返らない。
「つーか俺は暇じゃない…今日は装備点検の日だ。」
「えっ!じゃ、クロウさんの装備見れるの!?」
ミナトの目が輝く。
「いいけど触んなよ…」
「やったね。」
ミナトは机へ駆け寄る。
「私さ、艦内記録とか住民映像専門だからさ!
最前線専門の人の装備気になるんだよね〜!」
(いつも死線にいる人の装備…
気にならないわけがない。)
「少し見たら仕事に戻れよ。」
「わかってるって〜」
クロウは無言で装備を並べ始める。
黒い軍用ケース。
防弾加工されたカメラ、弾痕の入ったヘルメット、擦り切れたグローブ…
「…カメラ二台?」
「一眼は二台。」
クロウは淡々と答える。
「ヘルメットに小型一台、コンデジが一台。」
「四台体制なんだ…」
「戦場じゃ壊れるのが前提だからな。」
カチャ…
次は防弾チョッキ。
「これが防護装備。」
「重そう〜…」
「総重量はリュック込みで五十キロくらいだ。」
「えっ!?」
ミナトが固まる。
「それ背負って走るの!?」
「走れなきゃ死ぬからな。」
あまりにも自然に言う。
ミナトは少しだけ黙った。
「…あと、こいつら。」
クロウは腰の拳銃を抜く。
黒い大型拳銃二丁。
「護身用?」
「まぁな。」
クロウは銃を見つめる。
「…もう一つは自決用だ。」
部屋の空気が止まる。
「ちなみに戦地では…」
クロウは机のカメラを軽く叩く。
「俺が死んだらデータごと爆発する。」
「…え?」
「前線の兵士に迷惑はかけられねぇ。」
静かな声。
「戦場カメラマンは生きて帰って一人前。
けど無理な時もある。」
クロウは窓の外を見る。
「だから最後は記録ごと消える。」
ミナトは何も言えなかった。
戦争を撮る。それは戦場を見ることではない。
“死ぬ覚悟ごと持ち歩く”ということだった。
「…意外と命懸けなんだね。」
「あぁ。」
短い返事。
「よし!」
ミナトが突然カメラを構える。
「一枚撮らせて!」
「は?」
「仕事仕事!」
「俺なんか撮るな。」
「はい、撮りまーす。」
カシャッ…
シャッター音。
ミナトは撮った写真を確認して笑う。
「うん、いい顔。」
「……。」
「ありがとね。」
ミナトはカメラを下ろす。
「これで死んでも貴方はノアの記録に残る。」
その言葉だけ残して歩き出す。
「じゃ、またね。」
クロウはしばらく無言だった。
カシャ…
去っていくミナトの背中を一枚撮る。
モニターに映るその姿。
クロウは小さく呟いた。
「…これでお前も記憶に残る。」
クロウはカメラを拭きレンズの蓋を閉める。
(続)
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公開情報
・クロウ・レンズ 三十二歳 男性 from地球
宇宙空母ノア公認の戦場カメラマン
・ミナト・ローウェル 二十四歳 女性 from地球
宇宙空母ノア公認の艦内風景住民視覚媒体記録員




