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君は水泳という名の青春に飛び込めるのか  作者: 柏木京介
一年生編-県大会-

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23/28

23話「県大会開幕!」

 更衣室から、周りを見渡せば人だらけで「これはロッカーの場所ないかもな」とそう思えた時に、遠くから宵宮夏美の声が聞こえる。

「おーい!こっち〜!」

 水着に着替えた状態で桜坂花蓮達に向かって、手を振っている。そっちに向かってみると、宵宮夏美のいるあたり一面で清流高校水泳部の面々が着替えている姿があった。

「来るのが遅かったけど、他校の友達とでも喋ってた?」

「まあ、そんなところです」

「そっか、ロッカーの場所は取ってあるから好きな場所を使ってね。じゃあ、先に行くから」

「ありがとうございました」

 と、頭を下げたのと同時に宵宮夏美は去っていく。直ぐに水着に着替えて、プールの出入り口に立つと、プールサイドの周りも、プールの中も、観客席も人だらけで埋まっていた。

「わかっていたつもりでしたけど、こんなに人がいるんですか…」

 武田佳織里はあまりの人の多さに驚いた顔をしながら、人だらけになった会場をを見る。特に驚いた場所は、プールの中だ。人がおしくらまんじゅうのような状態で敷き詰められており、泳げていないでただ浮いている状態に近く、「これでは泳ぎたくない人も納得だ」と素直に感じた印象。

 そういう風に感じたとしても、武田佳織里にとってこの景色が今までの短い人生の中で見たこともない景色であることは確かで、勇気を出して水泳部に入らなければ見れない景色であると同時に、将来で大会に出た時にこの中で戦う相手がいるかもしれないと思うと緊張を感じた。

「凄い人でしょ」

「はい。圧巻ですね」

「誰と戦うかもわからないけれど、このアップの時間で見ると負けられないと思うんだよね」

「本当そう。ここに立つと思ってしまうのが本当に不思議」

 武田佳織里は思う。桜坂花蓮と南條愛美は同じ種目を選択しており、戦うかもしれない。二人が言った言葉は、この場にはいなくてどこの学校かもわからない人に向けた言葉だが、それと同時に隣同士でいる友達であり、戦友に向けた言葉でもあった。それを、隣にいながら肌で感じる。

「では、行こっか。取り敢えずは、一番端っこのコースに入ろう」

「佳織里は焦らないでいいから、自分のペースで泳いで。ここでは、遅いから色々と言ってくる人はいないから」

「はい」

 南條愛美が言ったことに対して、少し不安であった。

 ここは県大会で自分自身よりも他の学校で水泳部に所属している人達の方が圧倒的に速いはずと考えていた。だからこそ、アップの時間でさえも「遅い。速く泳げよ」とか思われるのではないかと感じてはいたが、アップの時間は準備運動の時間なんだと思うと、心が少し軽くなってきた気がする。

 そうこうしている内に、一コースの手すりがある近くまで行き、プールの中で泳いでいる人が丁度出る瞬間と重なり、入れ替わりになる形で三人はプールの中に入っていく。

 体にプールの水の冷たさと、鼻に塩素の香りが同時に襲ってくる。そして、足がつかないほどに下までの距離が長く、いつもの大会を想定した練習の時と同じ感覚が体を泳ぎへと、大会へと研ぎ澄ませる。

『愛美にも、田崎先輩にも絶対に負けない!』

『気持ちを切り替えて、集中しよう…私は、全国大会で一位になるから、ここは通過点だ』

『私は大会に出るわけじゃない。なら、ここで何ができるのだろう…』

 それぞれの思いを胸にアップの時間は始まる。

 アップという時間は、体を動かさないで凝り固まっている筋肉を動かす時間でもある。だからこそ、ウォーミングアップと言えるわけで、「どのくらい泳ぐのか?」と聞かれれば、人によって様々だがアップの時間ギリギリまでいる人は少ない。

 軽く体を動かし、調子を整えたら出る人も多い。それは、アップの時間は基本的にちゃんと泳げる時間ではない。武田佳織里がプールに来て感じたように人が多すぎるために泳げるわけがないからだ。多くの経験者はそれがわかっているため、少し流す感じで泳いで立ち去るのが普通となっている。

 そして、三人も軽く泳いだ後に着替えてプールを後にし、アイススケート場までプールバッグを置いた後に開会式に臨んだ。



 開会式は関東や県の水泳連盟の偉い人の話から始まり、選手宣誓の時間がやってきて、男子と女子が並んで声を上げる。

 女子の方は先ほど、桜坂花蓮達に話しかけた川津桃、小柏海と同じ服装だった。高校の名は聖良高等学校。水泳部が強いと有名で、清流高校よりも設備がよく、昔から全国大会も常連で先生も水泳の顧問としてはベテランの人がいる高校。

 さっきは会えたことで驚いて、しみじみと考えもしなかったが桜坂花蓮は二人はよく強豪校と名高い高校に進学したと驚きを隠せないでいる。

 二人は中学の頃から確かに水泳に対しては真剣ではあったが、部活の中では速い方ではあったが強豪校に進学するほどの速さではなかった。中学の水泳部において一番速かった部員は南條愛美だ。彼女が一番強豪校に進学するのに値していると言えた、彼女はそうはしなかった。その決断と行動に対して、二人は心底驚き、自分達が行った場違いな挑戦が果たして正しい行動だったのかと自問自答してしまうほどに。

『啖呵は切ったのは私だ。強豪校に行って速くなったのがどうした。私だって、変わったんだ。やれる。勝ってみせる』

 そう心の中で強く念じた。そうすることでしか、緊張している自分自身を落ち着かせる方法が思いつかなかったから。要は暗示をかけているのと同じだ。

 そうこうしているうちに、開会式は終わるのと同時に周りの他校の生徒達はそれぞれの指定された応援席に散っていく。応援席というのは、大会の運営から学校ごとの場所わけがされており、レジャーシートが用意されていて応援席の場所はプログラムの場所に書いてあったりする。

「清流高校は一旦ロビーの方に集まってください」

 吉岡理恵の声が響きながら、清流高校水泳部は他校の生徒と混雑しているところを嫌々混じりながら進んでいくと、桜坂花蓮は宵宮夏美が手提げバックを持っていることに気がついた。

 宵宮夏美は今回の県大会で泳ぐことはないからその線は薄い、なら応援するためのメガホンが入っているのだろうと解釈はしたが、先ほどの時に応援席置いていけばいいはずなのでその線も薄い、「ならなんだろう?」と疑問に思ってしまう。

「宵宮先輩、それなんですか?」

「ん?これ?」

「はい、それです」

「うーん…今は内緒」

 唇に人差し指を当てながら、そう呟いた姿はとてつもなく可愛い宵宮夏美がそこにいた。



「忙しいのはわかっていますが手短に終わらせます。それでは、宵宮さんお願いします」

「はい。それじゃあ、皆んな前に言った通りに並んで」

 宵宮夏美の一声により、一年生から三年生の県大会に出場していないメンバーが集まっていき、桜坂花蓮の隣にいた武田佳織里も並んでいる。

「え〜私達は見てわかるとおり、県大会に出場しないメンバーです。チーム名は、水泳部にちなんでチームブレスって言っています。それで、私達は日々練習に励んでいるうちに、県大会に出場して頑張る人達に対して、県大会に出場しない私達にできることはないかと日々話し合ってきました。県大会出場する人達を応援したい気持ちは前からありましたけど、言葉として言ったりするのでは県大会出場する人達に心身共にプレッシャーをかけてしまうのでないかと考え、それで話し合いを幾度なくしました。何回も話し合いをした結果、出場する人達に対してお守りを作ることにして、今お渡ししたいと思います。是非、受け取ってください。皆さんのいい泳ぎができることを心から願っています」

 そのまま深々とお辞儀をして最後にそう締めくくった。

 宵宮夏美の背後にいる人達が持っている手提げバッグを抱えながら、色んな人に手作りで作られたお守りを渡しに周りはじめ、「ありがとう」や「頑張って!」という声が響き渡るのを尻目に、桜坂花蓮と南條愛美の元には武田佳織里が訪れる。

「受け取ってください」

「ありがとう」

「大事にするから」

 受け取ったお守りを見てみると、お守りの真ん中に「桜坂花蓮」と縫ってあり、形は歪で決して綺麗でない。でも、それがこのお守りからは二人のことを思いながら縫っていたのだと思うと、逆に愛情を感じ嬉しくなるから不思議だった。

 そして、違う場所では宵宮夏実が桜木春香、秋空楓、霜月真冬に渡していて、一人を覗いてお守りのサイズが普通なのに対して、一人だけおにぎりかと思わせるようなサイズ感のお守りを持つ部員がそれを眺めている。

「なんで私だけでかいのよ」

「ははぁ、おにぎりみたい」

「おにぎりみたいで美味しそう…」

 その正体は霜月真冬だった。霜月真冬が手に持っているお守りは明らかに意図的に大きくしたサイズ感で霜月真冬本人は困惑しつつ思わずつっこんでしまっていて…それを宵宮夏美は見ながらこう答えた。

「愛の大きさだよ。ま、それは真冬だけじゃなく皆んなに込めてるけどね。春香、楓、真冬、応援することしかできないけど、私はいつでも見ているから」

「はいはい」

 少し顔を真っ赤にしながら、そう答える霜月真冬だった。



 お守りを渡し終えたら、その場で解散となりいますぐに泳ぎに行かなければいけない人はプールバックを持ったまま、走り去っていく。

 本番の水着はアップの時間で履いていたものではなく、別の高性能なものを用意する人が一般的であり、清流高校水泳部でも県大会に参加するメンバーはそうしている人しかいなかった。

 時間に余裕がある暇な人は各高校で指定された場所で応援するのが普通で、そのために各学校はメガホンを持っていくことが当たり前になっているが、プールサイドで見るよりも高い位置から見た方がよく見えるし、水泳の泳ぎに関しても様々なことが客観的に見え勉強になったりもする。

 桜坂花蓮はプログラムを部員から受け取り確認する、事前に種目や距離を言われてるので今日は出番がないのは知ってはいるが、どの学校の人と戦うのかを知るためにプログラムのページをめくった。

 今日一日目と二日目のプログラムの内容と流れは以下のとおりだ。


【一日目】

・50m自由形

・100m背泳ぎ

・400m自由形

・100m平泳ぎ

・100mバタフライ

・800m自由形(女子のみ)

・200m個人メドレー

・メドレーリレー

【二日目】

・200m平泳ぎ

・200m自由形

・200mバタフライ

・100m自由形

・200m背泳ぎ

・1500m自由形(男子のみ)

・400m個人メドレー

・フリーリレー

 

 こんな感じになっていて、泳ぎの種類の順番や距離に関しては、大会の時間のバランス、選手達が連続して泳ぐことを避けるために配置されてはいるが、意外にも選手はあたふたしていることが多い。

 部活の部員の応援や着替え、一日に2種目出る人が着替えた数時間後にまた着替えたりすることも多く、非常に会場も混雑しているために移動するだけでも疲れるし、大変なのだ。

 だからこそ、大会出場者は少しでも休憩できる時はし、小腹が空いた時には弁当とは別に持ってきているものを食べる。そうしないと、勝てる相手にも負けてしまう。

「200m自由形は…あった…えっと、私は…え?」

「どうしたの?」

「私、予選で桃ちゃんと戦うみたい」

 そこに書いてあったのは「五コース、川津桃」の名前が書いてあり、その隣の「六コース、桜坂花蓮」の名前があるのが確認できる。

 つまり、中学校の同級生が隣同士で熾烈な戦いを繰り広げることを意味していた。

「それは、すごい偶然だね」

「本当にね」

 本当に自分自身が言ったことが現実になると思いもしなかったので驚いてしまっているが、ちゃんと中学の頃よりも変わったと思わせるような、しっかりとした本気の泳ぎを見せて、水泳に対して真摯に向き合った自分らしい泳ぎを見せることを心に誓う。

 この大会で勝ち抜けば関東大会、全国大会に出場できるかもしれない水泳部員にとって負けられない大会が今開幕した。

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