↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君は水泳という名の青春に飛び込めるのか  作者: 柏木京介
一年生編-県大会-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/28

22話「再会、そして…」

 急に目の前に現れた中学時代の同級生に目が点になり、頭の中に「何を言われるんだろう?」と、出会えたことの嬉しさよりも怖さが支配していた。

「久しぶりだね、蓮も愛美も。卒業式ぶりだから、三ヶ月くらい会ってないのか。中学時代が懐かしいよ」

 フレンドリーに話しているのは川津桃。髪が肩くらいまであり、先輩後輩関係なく、誰でも話しかけ仲良くなってしまう人だ。だからこそ、誰にでも慕われていて中学時代の水泳部でも相談役になっていることが多かった。

「ひ、久しぶり…」

 中学時代と変わらないようにくるのに対して、桜坂花蓮は一歩、いや、それ以上に身を引いて、身構えている。

 桜坂花蓮の頭の中には、中学時代の水泳部の記憶が蘇っていく。桜坂花蓮は先輩の圧に負けて、なあなあで部活をやってしまってのに対して、目の前にいる二人は違っていた。

 一年生でありながら、先輩に対して反抗し、何をされても決して自分の県大会出場という名の獲得した場所を譲ろうとはしなかったのだ。

 桜坂花蓮はそれができなかった。「水泳は好きだ」「泳ぐことも好きだ」「誰にも負けたくない」と、そう思っていても、先輩の嫌がらせが、先輩の行動が、先輩の言葉が、桜坂花蓮の精神はボロボロで朽ち果てそうになり、抵抗する意思などなかった。

 だから、目の前にいる二人の姿は今も昔も変わらずにとても眩しくて、逞しく見えている。

 そんなことも知らないで、川津桃は桜坂花蓮に近づいてきて、手を握りながら、会えて嬉しいことを口にした。

「私は花蓮が水泳をやってくれていることが嬉しいよ…言いづらいけど中学時代のことがあるからさ、高校では水泳部に入らないんじゃないかって思ってたから…ここで会えて凄く嬉しい」

 川津桃は瞳の奥からじわじわと涙が溢れていき、顔中に涙という雨が降っていた。土砂降りといわれても、否定はできないほどに顔中が涙で支配されている。

 それだけ、川津桃は桜坂花蓮が高校でも水泳部に所属していることが嬉しかったのだ。

 桜坂花蓮はその光景を見て、戸惑いつつも川津桃から言われた言葉は素直に嬉しく、先ほどまでにあった怖さはどこかに消えてしまったのか、心の中にも身体中を探してもないように感じる。

「泣かないでよ。久しぶりに会えただけじゃん」

「だって…だって…」

「あの…」

 川津桃と桜坂花蓮の空間になりつつあったところに、武田佳織里の一声が響く。川津桃が感極まったことによって、他の三人が話に入れないで置いてきぼりにされていたが、今の一声により、二人は我に帰ったのだった。

「あ、ごめんね佳織里ちゃん、それに愛美も。佳織里ちゃんは初対面だったね。左が川津桃、右が小柏海。中学時代の同級生」

「私の名前は武田佳織里です。水泳初心者です、宜しくお願いします」

「ども〜川津桃で〜す。愛美も久しぶり」

「うん。久しぶり」

 そんな和やかな雰囲気に包まれつつある中で、桜坂花蓮は小柏海が一言も言葉を発していないことが気になってしょうがなかった。

 「内心、何か思うことがあるのではないか?」と勘づいてしまうくらいに、フレンドリーな雰囲気を醸しだす川津桃と打って変わって、小柏海は思わず唾を飲み込んでしまうくらいに重たい雰囲気を出している。

 川津桃は、久しぶりかつ桜坂花蓮が水泳をやっている嬉しい空間を壊したくないために、無理矢理雰囲気を明るくしてはいるが限界にきていた。

「佳織里ちゃん、凄いね。高校から水泳を始めるなんてさ。壁には沢山ぶつかるとは思うけど、水泳は楽しいスポーツだから前へ向くことを忘れないでほしいな」

「はい!ありがとうございます」

『海が余計なことを言う前にここからさっさと、いなくなった方がいいか。喧嘩とかになったら、めんどくさいしね。多分、海は花蓮に対して何か思うことがあるんだろう…さっきから、ずっと睨みつけるように見てるし…』

 久しぶりに会ったのだから、笑顔でいたい、笑いたい。そう思えてしまうのは、川津桃が単純に周りに敵を作りたくないから、喧嘩をしたくないから、無駄な争いをしたくないからだ、といえる。

 だけど、小柏海は違う。

 川津桃の隣にいる少女、小柏海は敵を作っても、喧嘩をしてもいいから、嫌なものは嫌といい、嫌いなら嫌いといいたいタイプだ。

 だからこそ、小柏海は今この場で、泣いている川津桃のことも意味がわからないと思えたし、中学時代に水泳を舐めた態度で部活をやっていた桜坂花蓮は嫌い。今この場においても、言いたいことがあるのに嫌われたくない、久しぶりに会えたこの雰囲気を壊したくない、という作り笑いを見てるのが嫌で嫌でしょうがなかった。

「じゃあ、海、もうそろそろー」

「あのさ」

 川津桃がこの場から立ち去ろうとした時にずっと小柏海が遂に口を開いたのだ。

 桜坂花蓮をはじめ、南條愛美も川津桃も嵐が急に来てしまったかのように身構えてしまう。それは、小柏海という少女が何をいうか見当がつかないから、ただ単純に怖い感情が頭の中を支配している。

「なんで、花蓮は水泳部にまた入ったの?」

「え?ダメかな?」

「ダメとかの話じゃない。中学時代になあなあで適当に部活をやってたのにさ…一年生のときはしょうがないかもしれないけど、二年生からはちゃんと真面目に部活ができる環境になってたのにさ、やらなかったじゃん。私はそれを間近で見てるから、不思議に思うんだよね」

『あ、佳織里ちゃんに過去のことがバレてしまった…』

 小柏海が喋り始めた時に頭の中で浮かんだ言葉がそれだった。

 今まで、色々と水泳のことに対していってきたし、教えてもきたが、小柏海の言葉を聞いて、桜坂花蓮が言った言葉の意味も重みも変わってきてしまう。

「ちょっと、待って、久しぶりに会えたのにさ…そんな喧嘩腰にならなくても良くない…まずはこうして花蓮が水泳をやってくれてるんだしさ、再会を喜びあおうよ」

 川津桃が慌てた様子で間に入ってきて、この場をなんとかしようとしているのが目に見え、その態度が行動が小柏海に油を注ぐ形となってしまった。

「桃も桃だよ!なんで、水泳に本気でやってこない人と馴れ合ってるのさ!私は、大嫌いなんだよ!水泳を適当にやってるやつを見るのが!」

 小柏海の大声での叫びが、反響してどこまでも聞こえそうな勢いで桜坂花蓮の耳の中にこびりついてくる。

 「何も言えない、言い返せない」だって、小柏海の言っていることは普通のことだ。水泳を本気でやっている人間にとっては普通のことなんだ。

 今の桜坂花蓮は本気で水泳に打ち込んでいるといえるけど、清流高校に入学してからそうなったことを、河津桃も小柏海も知らない。言葉で言ってもきっと、伝わらないなら、伝える方法が一つだけある。

 それは、「泳ぎで証明すればいい」ということだ。

「昔の自分しか知らない私が何をいっても説得力がないのはわかってる。だから、泳ぎで証明する。昔と変わらないなら、200m自由形だよね」

「うん、そうだけど」

「そう」

 中学時代は二人して、200m自由形と100m自由形を選んでいたのを覚えていたが、高校に入って種目を変えるわけがないと思っていたが、その予想は当たっていたようだった。

「中学時代の自分を知っている二人に対して、怯えるのはもうやめる。高校で愛美と出会って、水泳を本気でやろうと決意した自分の泳ぎを二人に見せるから」

 二人に出会った頃の怯えた表情から、一変し決意で引き締まった顔にも見え、逆にその表情に二人は圧倒されてしまう。

 その発言を聞いたからか、この大会で絶対に負けれない人が決まってしまった瞬間だった。それは、桜坂花蓮に対して思うことがある小柏海だけではなく、川津桃にも負けれない火がついたのだ。

「行こう。愛美、佳織里ちゃん、アップの時間がもったいないよ」

「うん。わかった」

「はい」

 そのまま、二人の真横を通り過ぎていく。その姿をただ、二人は眺めていくしかなった。

 「何か言おう」と思っても、水泳に対しての決意が固くなった桜坂花蓮に対して言っても意味がないことがわかりきっているから口が開かないでいただけだ。ここで何かを言っても、水泳に対してちゃんと向き合っている人に対して失礼だと思ったからでもある。

 そんな思いを抱いていた時に南條愛美は二人の目の前で急に立ち止まり、そのまま真っ直ぐ前を見つめて喋り始めた。

「あんまり花蓮のことを舐めない方がいいよ。中学時代とは比べ物にないくらいに、水泳バカになっているから…いい意味でね。それじゃあ」

 そのまま早歩きで立ち去っていく姿を、二人は見つめながらこう思った。

『絶対に私が勝つ!』

 この県大会で、絶対に負けられない戦いがもう既に始まっている。



 前を歩く桜坂花蓮の数歩後ろに、南條愛美と武田佳織里が肩を並べて歩いてるのは珍しい光景だが、ただ単純に桜坂花蓮に話しかけるのが怖いだけだろうと南條愛美は思っていた。

「先ほどの二人とは中学時代の同級生なんですね」

 桜坂花蓮に聞こえないように小声で武田佳織里は南條愛美に話しかけてくる。先ほどの川津桃と小柏海との会話で知られたくない過去はバレているけど、南條愛美は自分の口から中学時代の桜坂花蓮の過去を話すのは違うと思いながら、口を開く。

「うん、まあね」

「さっき話していた花蓮の過去も、私は聞くべきではなかったんでしょうね」

「幻滅した?理想とは違う人だなぁて」

「いえいえ、そんなことはないです。誰にだって、嫌な過去の一つや二つありますから」

 武田佳織里はそんなことを言いながら、過去のことを思い出す。

 何をやっても続かない習い事や趣味、できなければ直ぐにでも諦めて違うことをしてしまうのを、いつも自分自身に対して「できなければ直ぐに逃げるところが嫌いだ」と思っていたときに水泳に出会い、いざやってみたら諦めることなく続けている自分がいることに気がついた。

 ただ単純に自分自身は、自分にあう趣味や習い事に出会えていないだけだとそう思った時に、あの時にテレビで水泳をやっていたことに今は感謝すらしている。

「そう思ってくれているなら、嬉しいかな」

 南條愛美は先ほどの発言で武田佳織里が桜坂花蓮のことを変な目で見るのではないかと思ってはいたが、そんなことはなく安心はした。

「着いたよ、二人とも。何こそこそ話しているの?」

 目の前にはプールの入り口があり、男子更衣室と女子更衣室に別れている暖簾が見え、近くにはスリッパが置いてあり、それに履き替えながら武田佳織里は声をあげた。

「えっと、花蓮」

「うん?何?」

「私は花蓮の過去に何があっても、気にしないですから。私に水泳のことを沢山教えてくれたのは花蓮であり、愛美であるから…私にとっては感謝してもしきれないからです。だから、過去のことを気にしないでとは言いません。ですが、先ほどのことを聞いても、私はいつも通りですよ。私にとっては、花蓮は大事な友達ですから」

 武田佳織里から、真っ直ぐに真剣な顔で見つめられながらそう言われて、自分自身の中で溜まっていた不安は毒気が抜かれたかのように消えていった。

 不安だった。凄く。物凄く。

 高校で水泳部に所属することを決意した時から、いつかは出会うことはわかりきっていた。それでも、中学時代の消してしまいたい過去の過ちを知られ、水泳を適当にやっていた事実を知られ、怯えに怯えていた。

 武田佳織里には散々色んなことを教え一緒に遊んだ。それだって、もうできないのかもしれないと思うと、過去のことを悔やんでも悔やみきれない。

 それでも、こんな自分を大事な友達だと言ってくれたことに対してー

「ありがとう」

 その言葉が口から勝手に出ていた。

 無意識のうちに口癖のように出てきて桜坂花蓮も自分自身で口にした言葉なのに踊りてしまうが、「ありがとう」という言葉に嘘はない。

 だから、言うのは恥ずかしいが日頃の感謝の気持ちを込めて言えてよかった、とそう思えた。

「はい、どういたしまして」

「じゃあ、行こうか。愛美も行くよ」

「うん」

 涙が出そうになるのを堪えながら、遅くなってしまったアップの時間へと心を入れ替えて、女子更衣室に入っていく。



 アイススケート場の出入り口付近で南條愛美からの一言を言われてから川津桃と小柏海は、三人の背中を見送ってようやく動き出した。二人は桜坂花蓮の一言に圧倒され、南條愛美の一言により、桜坂花蓮が「中学時代よりも変わったんだ」と気がつくと、目の色が変わる。

 心の中から闘志が燃え上がるのと同時に、変わってくれて良かったと安堵する自分自身がいることに二人は気付けさせられた。

 色々と桜坂花蓮に対して思うこともあるし、言いたいことを言ってしまった小柏海でさえも、部活を真面目にやっていた頃に戻った桜坂花蓮ともう一度戦えると思うと、ワクワクしてしまう。何故だろうか?こんなにも嫌いだったはずなのに、と不思議に感じてしまっている。

「なんかさ、海はどう思っているかわからないけど、花蓮が変わってくれて嬉しいな。中学生の時のまんま、高校でも水泳部に入ったのなら、私も多少は思ったかもしれないけど…」

 会えた時には思わず。会えた嬉しさと水泳を続けてくれた嬉しさで泣いてしまったが、冷静な頭でよく考えてみれば中学時代の桜坂花蓮のままで水泳を続けることになっていれば、思うこともあると思えた。

 このことに関して、小柏海は川津桃が考えに行く着く前に既に思っていたことであり、だからこそ桜坂花蓮に対して「会えて嬉しい」とは思わず、二人に遠慮してる姿も腹が立ったために、あんな強気な言葉ばかりを口にしてしまったわけだが、最後の桜坂花蓮の言葉「水泳を本気でやろうと決意した自分の泳ぎを二人に見せるから」がワクワクしてしまう自分に驚いてしまう。

「まあ、最後のあの目を見れば高校に入って、水泳をちゃんとやってるんだなぁてわかるよ」

 真剣で二人の背中をゾクゾクさせるほどの眼差し。

 「怖い」「恐怖」という物騒な言葉が似合いそうな目をこちらに向けるのは、獲物を狙う動物そのものであった。

「そっか…そうだよね…そう思うよね。で、さあ、花蓮って、さっきの言い方だとプログラムまだ見てない感じだよね?」

「ん?そうだと思う」

 さっき桜坂花蓮がいっていた言葉を思い出す。彼女はこう言っていたはずだ「昔と変わらないなら、200m自由形だよね」と。

 一つの学校につき一枚配割れるのは絶対なはずだから、朝早く出発するからバスの中で寝ていたんだろう、と勝手な解釈をした。

「花蓮見たら驚くんだような〜」

「そうかもね」

 少しばかり、ニヤニヤしながら川津桃がいう姿が少し不気味で口から余計な言葉が出そうになるのを堪えながら返事をする。

 先ほどまでの「桜坂花蓮と出会えて嬉しい」とか「水泳やってくれて嬉しい」とかの感情はどこにいってしまったのやら、と疑問に思ったが口にはしなかった。

「うん!絶対にそうだよ!だって、予選で私と戦うんだから」

 だって、川津桃が見せるその顔は「本気で戦えることに感謝」している顔だったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。