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君は水泳という名の青春に飛び込めるのか  作者: 柏木京介
一年生編-県大会-

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21/21

21話「いざ、県大会へ」

 部活動激励会から数日が経過した頃、県大会が来週に迫るなか、清流高校水泳部は相変わらず過酷な練習をしていて、部員全員の目が真剣さを増したように感じられる。

 武田佳織里は、桜木春香、秋空楓の指導で着々と50m自由形の泳ぎが形となってきており、2人曰く「将来、化けそう」と言っているのを聞いて、一年生は「真面目にちゃんとした練習積めば速くなれる」と羨望の眼差しで見つめ、二年生は「恐怖の対象」として見つめていた。

 桜坂花蓮、南條愛美は共に50m自由形では武田佳織里に勝てない日がくるのかもしれないと内心で冷や汗を書いているわけだが、「二人でメドレーに出る」ことは友達の武田佳織里であっても譲れないこと。

 もし、立ち塞がるのであれば全力で相手をすると心に決めている。

 「花蓮ちゃん、ちょっといいかな?あ、南條さんもいい?」

 「はい、どうしましたか?」

 「なんでしょう?」

 練習終わりの放課後に宵宮夏美に呼び止められる桜坂花蓮は「何事か?」と頭の中を駆け巡って試行錯誤して考えたが、呼び止められる理由は見つからない。

 「今日、この後、暇?」

 「まあ、暇ですね」

 「私も時間的余裕はあります」

 「じゃあ、この後少し話があるんだけど、いいかな?真冬も来るんだけどさ」

 「いいですよ」と桜坂花蓮と南條愛美は答え、昇降口で武田佳織里と別れた後に、学校からさほど遠くはない場所にある、とある有名なファーストフード店に訪れていた。

 四人はそれぞれ注文をし終えた後に、「奢ってあげるよ。わざわざ時間作ってくれたんだし」と宵宮夏美の発言で、霜月真冬も「私も出す」と対抗して、最終的には二人で仲良く割り勘で奢ってもらうことになり、四人は席に座るとタイミングを見計らって、宵宮夏美が口を開く。

「今日はわざわざ集まってもらってありがとうね。時間も時間だし、手短に済ませるからさ」

 店の外は夏に向かっていく季節のなかで暗くはならない時間帯ではあるが、桜坂花蓮はふと携帯で時間を確認してみれば、19時15分を余裕で過ぎている時間ではあった。

「じゃあ、単刀直入に聞くけど、二人は先輩である私とか他の先輩でもいいんだけど、先輩よりも選ばれたことを気にしてない?」

 そのことに関しては気にしていないといえば「嘘」になると桜坂花蓮は思う。

 桜坂花蓮には中学時代のトラウマが頭の中で、鮮明に映像として映し出された。桜坂花蓮は中学時代に、当時の先輩から県大会の出場の機会を奪い目をつけられた。

 それは、機会を奪ったのではなく本来であれば自分の努力不足であり、ちゃんとした練習を怠ったことが原因だが、言っている本人でさえも心のどこかで理解はしているが、それを正当化できない。

 「負けを認めたくない」「こいつさえいなければ」と目の前にいる桜坂花蓮という少女を、「先輩」という職権を乱用すれば勝ち取れる、という逃げる方に舵を取るのが悪いことだとは思いつつも「大会に出たい」という思いが、そうさせたと言える。

「私は気にしていません」

 何も言えずにいた桜坂花蓮の隣で南條愛美はそう答えた。

「自分の努力と実力で勝ち取った県大出場です。先輩に対して失礼ですが、県大会出場できないのは自分自身の努力不足と練習不足、そして、自分に足りないものがわかっていないのが原因ですので、私はこの先も先輩だろうと後輩だろうと負けるつもりはありませんし、気にもしません」

 はっきりと堂々とした姿で言いきった姿は、とても度胸があると感じざるおえない。目の前にいるのは種目は違えど二年生の先輩だ。普通の人なら険悪なムードになるはずだが、この二人な場合はそうはならなかった。

 逆にその言葉を褒め称えたのだ。

 桜坂花蓮のその行為に驚いてしまった。「悔しくないのか?」と疑問にも感じたが、悔しくないわけがない。

 100m自由形で大会に出る霜月真冬と違って、宵宮夏美は今回の県大会で名前を呼ばれていない。と言うことは、宵宮夏美は県大会には出れないことを意味にする。

 桜坂花蓮達の目の前にいる宵宮夏美は冷静な顔をしているが、内心では舌を噛みちぎるほどに悔しい思いをしていた。こんなにも悔しい思いをするなら、「もっと早く水泳を始めるべきだった」と後悔をしているが、そんなことは言い訳にしかならない後悔だ。

「その言葉、南條さんらしいね。本来ならそう考えて欲しいところなんだけど、今年の一年生は少し遠慮しているところがあってさ、私達と一部の二年生と三年生の人達は一年生で選ばれた人達に話をしに回っているわけ。県大会にせっかく出場できるんだから、全力で臨んでほしいし」

「私も同じ意見。去年までとは違って実力主義になったんだから、それでどうこう思うのは違うんだよね。気にするなって言うのは言葉として簡単だけど、思うなって言って、「はい、そうですか」って直ぐにならないのはわかりきってる。けど、少しぐらいその気持ちが軽くなればいいなって思うし、県大会出場をしたことを誇りに思ってほしい。だって、大会に出たいから努力をしたのは自分なんだから、嬉しいことでしょ普通はさ」

 宵宮夏美、霜月真冬の気持ちと考えは目の前にいる、桜坂花蓮と南條愛美の心の中には届いてはいた。

 桜坂花蓮は先輩の二人の言葉を聞いて「中学時代にこんな先輩がいてくれたらもっと水泳が楽しめたかもしれない」とそう思えたが、今この瞬間に清流高校水泳部に入部して出会えたことを嬉しく感じて、やはりあの時に南條愛美の誘いを断らないで正解だった、と思えた。 

 最初は少し不安だった実力主義だけれでも、「実力で勝ちたい、大会に出場したい」と皆んなが同じ方向を向いて、前へと進む行為は最終的に色んな人とぶつかり合って実力で負けて、泣いてしまいこともあるかもしれないけど、桜坂花蓮は気持ちがいいとさえ、感じてしまっている。

 だって、大会に出れないのは自分の努力不足だと自分自身に言い訳できないからだ。

 後ろ向いて逃げれないのは苦しいけど、その苦しい道のりを突破してこそ、その先にある関東大会や全国大会出場の切符を掴むのは、「今の自分の夢だ」と自分自身を鼓舞した。

「花蓮ちゃんはどうなの?」

「え?私ですか?」

「南條さんの話は聞いたからさ、実のところを言うと花蓮ちゃんが一番心配だったんだよね。考え込むタイプだと思うからさ」

「は…はぁ…」

 図星を疲れて、言葉に詰まる。

 「そんなに顔とか行動に出ていたのかな?」と思ってしまうが、本人は隠している通しているつもりでも、周りには完全にバレバレであった。

 宵宮夏美は特に自分の実力を理解しているために、周りをよく観察する癖をつけた。水泳を高校で始めた時から後輩に負けるのはもうとっくに理解しているわけで、だからこそ、こうして大会に出場する後輩達に対して積極的に気にかけるようにしたのだ。宵宮夏美にとって「先輩としてこれぐらいしかできない」とそう思えたから。

「そうですね」

 桜坂花蓮はこの清流高校でなら、この先輩達となら、切磋琢磨してもっと高みへ行けると思えている。

 全員が水泳に対して真剣で、先輩も後輩も関係ない実力主義ならば、不安も持つこともないのかもしれない。

 「考え過ぎか…」そう思えた時もあった。

 目の前にいる宵宮夏美だって、急に豹変し県大会出場の枠を奪ってくるかもしれない。

 そう思えてしまうのは中学時代に信じていた、仲良くしていた先輩に県大会の出場枠を奪われたからだ。

「私達二年生はもちろんのこと、三年生だって誰も後輩が出場することに対しては何も言ってないよ。だから、心配することはないから、花蓮ちゃんものびのびと自分の実力を発揮していってほしいな」

「そうですか…」

 そんな先輩に対してそっけない返事をしてしまうほどに、先輩という人達に対して恐怖のようなものはこびりついて離れなかった。

 それだけ、桜坂花蓮にとって中学時代のトラウマは心と体、そして、記憶の中に残ってしまっているということになる。

 いくら清流高校の先輩がいい人達だとしても、言葉を投げかけられても信じきれないでいて、「嘘の仮面を着け、嘘の言葉を喋っているのではないか?」と信じきれないでいる自分自身が嫌になってきてしまう。

「ねぇ、桜坂」

 自分自身の中でぐるぐると考えが回り始めた時に、霜月真冬が喋り出した。

「過去に何があったのかは聞かないけどさ…私達のことを…いや、清流高校水泳部の先輩を信じてよ…私達は大丈夫だから、そんなに不安にならないで」

 霜月真冬は桜坂花蓮の心の中でも覗いてるみたいに言い放つ。

 不思議なことに、清流高校水泳部の先輩達には言葉を投げかられると安心してしまう、特別な暖かさを感じる時がある。信じきれないでいるはずなのに、安心する自分も存在していて、それは中学時代とは違い、部員全員が水泳を本気でやっているからじゃないかと思っていた。

 過去のトラウマは桜坂花蓮の中から消えはしないけれど、清流高校の先輩達のことは信じて、前に進もう。こんな言葉をかけてくれたのに信じないのは失礼だとも考え、心の中で「信じられなくてごめんなさい」と言いながら、口を開く。

「先輩達の気持ちが私にも伝わってきました。だから、私は全力で勝ちに行きます」

「うん。その意気だよ、いい顔になったね」

「はい。先輩達のおかげです」

 過去は過去かもしれないが、桜坂花蓮にとって過去は重い鎖だったのだ。

 それを、清流高校水泳部の先輩が過去のトラウマから背中を押してくれて、「感謝してもしきれない」とそう思えた。

 



 県大会の日付となり、水泳部員全員は校舎の前に集合していて、駐車場にはマイクロバスが一台停まっている。人数がそれほど多くない水泳部にとっては一台で充分だった。

 水泳部員達が少しばかり外で待っていると、吉岡理恵が県大会のプログラムを手に持ちながら現れ、吉岡理恵が現れたことにより一瞬で緊張感が漂う空間となった。

 各学校の水泳部にはプログラムが一枚渡される。

 「県大会」「関東大会」「全国大会」は二日間に渡り行われるため「泳法」「距離」「予選」「決勝」の四つと「各種目の参加する人の集合場所」「会場の案内図」「県大会のルール」が細く書いてあり、あくまでの予定でのタイムテーブルが書いていたりするが、時間は前後することが多い。

 しかし、予選だけは「参加する人」「泳ぐコースの番号」「組数」が既に書かれており、水泳部員は必ず最初にここを確認し、「何時何分に集合場所に行かなくてはいけない」と頭の中にいれておくのが一般的だ。

 決勝の方は空白になっており、あくまで予定のタイムテーブルだけは書いてあり、だったら「どこで確認をすればいいのか?」という話にもなってくるが、それは予選が終わった後に該当者でタイム順で組とコースが選ばれる。

 組とコースには選ぶ基準があり、組に関しては最初の一組目から順にタイムが速い順に決まっていき、最初で泳ぐ人は関東大会には確実に行ける人達で、下になればなるほどにそうではない人達が泳ぐことなっていても、決勝に行けるだけでも凄いことなのに組とタイムで悲しむ人も少なくはない。

 コースに関していえば、8コースで例を挙げてみると「4」が組で最も速い人、「5」「6」が組で速い人、「2」「7」が組で少し速い人、「1」「8」が組で遅い人がそれぞれ選ばれ、頭上から見た全員が泳いでいる姿が三角形に見えるような形で選ばれることが一般的になっていて、「4」に選ばれることは嬉しいことだったりもする。

「おはようございます!」

「「おはようございます!」」

 小島順菜の一言により始まり、吉岡理恵の方に注目が集まった。

 吉岡理恵は全部員からの視線を受けて、自分が出場するわけでもないのに県大会という舞台に行くことに緊張してきてしまう。自分がした水泳の指導や練習メニュー、一人一人のアドバイスは適切だったか、など頭の中で不安が募る。

 そう思えてしまうのは部員に対して、「後悔をするような結果に繋げてほしくない」、「水泳を嫌いになってほしくない」、と思えるからであり、「一人一人が水泳を続けてよかった」、と心の底から笑える結果になってほしいと常日頃から思っているからである。 

 全部員に不安にさせるような姿を見せないように、いつもの表情で隠しながら口を開いた。

「皆さん、おはようございます。今日は、皆さんが待ちに待った県大会の日です。私から言えることはあまりないですが、皆さんの練習の力を存分に発揮してください。私は皆さんの泳ぎを信じています。勝ちに行きましょう」

「「はい!」」

 空高くどこまで聞こえてしまうような大声を放ち、清流高校の駐車場に停車していたマイクロバスに乗り込んで、県大会の会場へと向かっていく。

 マイクロバスに揺られること2時間くらいだろうか、県大会の会場に到着し窓の外から見てみると、県大会に参加する高校のマイクロバスから降りてくる生徒を数多く見かけて、「今からこの人達と戦うんだ」と身を引き締めるのには充分な光景だった。

 県大会会場は、大きさがどこかのライブ会場かと思わせるほどに大きくて、それでも慣れ親しんでいる桜坂花蓮は「いつもの会場だな」としか感じなかったが、近くの席に座っている武田佳織里にとっては県大会会場というのが新鮮で「とても大きいですね」と声を上げて瞳を輝かせてみている。

 やれるスポーツは水泳だけでなく、テニスやバスケなどメジャーなスポーツもでき、ジョギングコースやランニングコースまでできるように完備されている。流石に大会を開くことまではできるような設備ではないが、体を動かすだけならここで充分だろう。

 部員達はマイクロバスから降りて、県大会会場の中に入っていくとそこには、数数多の他学校のユニフォームを着た水泳部員でごった返しており、窮屈に感じられる。

 県大会会場は一階と二階に別れていて、一階は入り口を入って直ぐに受付がありそこで各学校はまず受付を済ませないといけない。その直ぐ近くを見れば、担当になった学校の生徒が椅子に座っており、県大会のプログラムを売っている場所が存在している。買う人は主に生徒の親ではあるが、記念にと部員ですら、買っている人も少なくはない。

 奥に入れば、男女別の更衣室、50mプール9レーンと飛込競技をするための飛び込み台がそれぞれあり、右側のスタンド席が一つ目の観客席で、2つ目はその更に上で、ガラス張りになったところに二つ目の観客席がある。

 受付を済ませた清流高校水泳部はひとまず荷物を置くために移動を開始した。そのまま、吉岡理恵を先頭に歩いて向かった先は、県大会会場と繋がっているアイススケート場で、中に入ってみると冷気が体を芯から冷やしにかかってきた。

 この会場はアイススケート場が荷物の置き場所とはなってはいるが、会場によって場所は様々で、主に「観客席に置いていい」となってる場所が多いが、時にこの会場のように特殊なケースも存在する。

 そんな荷物置き場だが、置く場所は自由であり学校ごとに「この場所でないとだめ」というルールは存在はしないが、出入り口の近くに陣取ることがほとんどだ。

 各自、荷物を置いて水着が入っているプールバッグだけを、持ちながら出口へと向かっていく。何故、プールバッグを持っていくかといえば「アップ」を行う時間があるからだ。それを知らない武田佳織里は不思議そうな目で皆んなを見つめていた。

「プログラムに書いてあった、「アップ」ってなんですか?」

「佳織里ちゃんは大会初めてだし、知らなくて当然なんだけど。アップっていうのは「ウォーミングアップ」の略で大会前の準備運動のことを言うんだよ。出ても出なくてもいいんだけど、皆んなは恒例行事のように参加してる人が多いかな?」

「花蓮の説明に補足で付け加えると、コースロープには絶対に掴んで休まないこと。怒られるから」

「どうしてですか?」

 ふむふむと擬音が聞こえてきそうな感じで頷く武田佳織里は、初めて聞く話は知らないことばかりで面白いなと話を聞いている。

「人が掴んだり、寄りかかるだけで壊れる原因になるから、大会運営の人に怒られている人を実際に見たことがあるけど、初心者の人は一回は怒られるよね」

「そうだね…私も怒られたことある」

「なるほど…」

 このアップの時間は県大会などの公式な大会だけでなく、県や市区町村で行われる非公式な大会でも開会式前に行われるのが一般的だ。

 基本的にアップの時間は、1レーンにぎゅうぎゅうに人がごった返しているために泳ぐことが困難。その場所に入るためには、飛び込み台から入れてもらうかプールサイドから入れてもらうのが、いいと思える。

 しかし、大会参加者のほぼ全員が集中するために、ろくに泳げないで終わる、なんてことも起こりえてしまうために、泳がない人もいるのは事実。

「じゃあ、説明したし行こうか」

「うん」

「はい」

 3人はそれぞれ、プールバッグを持ちながらアイススケート場を出ていきながら、プール会場へと足を向けて行く。

「あれ?花蓮じゃん」

 桜坂花蓮はその声にどこか聞き覚えがあった。いや、覚えがあったんじゃない、覚えている。自分自身で蓋をして、忘れていたと思い込んでいただけだで完全に忘れていたわけじゃない。

 後ろを振り向きながら、顔を確認するとそこには、中学時代の水泳部の同級生の川津桃(かわずもも)小柏海(こがしわうみ)が立っていた。

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