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君は水泳という名の青春に飛び込めるのか  作者: 柏木京介
一年生編-県大会-

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20/21

20話「部活動激励会」

 タイム測定という名の嵐は簡単に過ぎ去り、いつも通りの厳しい練習へとまた戻っていく。

 県大会へと出れなかった者達への慰めの言葉もなく、いつも通りの日常へ帰還した、ただそれだけのことだ。

 しかし、それは言葉にかけ方がわかないだけで、変な言葉を言ってしまえば喧嘩にも発展しかねない雰囲気さえも持ち合わせており、その気持ちは桜坂花蓮も同じだった。

 リレーに出れなかった南條愛美に対して、50m自由形に出れなかった武田佳織里に対しても、何も言えなかった。寧ろ、二人は何も言ってくれない方が幸せと感じてしまっている。

 それは、県大会に出れなかったのは自分自身の実力が足りてないから、と本人は理解をしているし、桜坂花蓮も同じ立場ならそう思うと考えなかったわけではない。

 ここで言うべきことは「次頑張ればいい」という言葉ではない、それは大会に出たいと思った瞬間から頑張らないといけないのは確定している。今年の大会は今年しかなく、次はないのだ。

 だからこそ、言うのは違うだろうと思ったから、ここは「何も言わない」でおくのがいいと感じた。それは、酷いと感じる人もいるかもしれないが、言わないことも必要な時がある。何に対しても言わなきゃいけないわけでは決してないだろう。だから、放っておくのが正解な時もある。

 南條愛美に限らず、今回の大会で落ちた部員全員に対して言えることで、三年生に関してはここで部活動引退にはなってしまう。しかし、正式な引退は県大会が終わってからになるのが、清流高校の部活動のルールだ。

 そして、二年生で落ちた部員は今の時点で泳ぎが足らないところを改善し、更に体力をつけて来年の県大会に出場すべく準備を進めている。今年入ってきた一年生と来年入ってくる新一年生に勝つためには、今のこの段階から練習をしっかりと積んでいなければ、勝てないと踏んだからだ。来年三年生となるからには是が非でも県大会には出場したいと思っている部員は山ほどいた。

 逆に考えればわかることで、二年生がそう考えている裏で一年生達も同じことを考えていて、上級生とか来年入ってくる新一年生とか関係なく、全員出し抜く気持ちで練習をしている。

 これに関して言えば、一年生も二年生も恐怖をしているのだ。

 先輩となったのに、新入生に対して後輩に対して勝てないで負けることが、目の前の現実として起こってしまうかもしれないことを。

 そんな悪夢のようなことが起こってしまったら、先輩としての威厳も尊厳もなくなり、ただの「先輩」という形だけのちっぽけな存在として部活を終える。そんなことは嫌だと、部活での練習はもちろんのこと、自主練も欠かさずに行われていた。

 清流高校水泳部では、県大会での残り日数が短いためにフリーリレー、メドレーリレーの練習を急ピッチで行っている。

 リレーでの練習は何をしているかといえば「飛び込みのタイミング」「一連を通しての確認」というこの二つだ。

 「飛び込みとか泳ぎならいつも練習をしているからいいだろう」と思う人もいるかもしれないが、この二つを練習するかしないかでリレーの泳ぎは格段に変わってくる。

 「飛び込みのタイミング」というのは、普通の人が考えるタイミングとは少し違う。第一泳者は個人種目と同じように笛の音のタイミングで飛び込みを行うまでは一緒だが、第二泳者からは違くなっていく。それは、前を泳ぐ泳者がタッチするタイミングを見計らって飛び込みをすること。

 これは、予測して、飛び込みをすることになるのだが、一つ間違えると前を泳ぐ泳者が壁にタッチをしていないのに飛び込みをしてしまうケースが発生してしまう場合があるが、その場合は失格となる。

 すなわち簡単に纏めると、前を泳ぐ泳者が壁をタッチをしてしまえば、その前に飛び込んでもいいということだ。ずっと同じ人とリレーに出続けている人であれば、阿吽の呼吸で簡単にできてしまうということもある。

 次に「一連を通しての確認」というのは名前から連想される通り、第一泳者から第四泳者まで通して泳ぎ、タイムの確認と飛び込みのタイミングを確認する作業も行うことを指す。

 ここでも飛び込みのタイミングを確認する理由としては、一連の流れでする飛び込みと飛び込みのタイミングだけの練習とでは、緊張、飛び込みの瞬間などの体に伝わる感覚が違うために、練習することは必須条件となっている。

 そのリレーの練習を桜坂花蓮、南條愛美は真剣な面持ちで見つめていた。

 「将来の自分自身がその場に立てているのか?」という疑問が身体中を駆け巡るなかで、二年生での不安と三年生での不安がある。

 将来の後輩という存在が、今は一年生であるにも限らず恐怖を加速させるのは容易だった。

 だからこそ、悪い部分を全て直して対抗しなくてはいけない。気を引き締めなければいけないのだ。

 リレーの練習を抜きにして考えると、全員の泳ぎとしてのレベルは上がってきている。特に初心者の人達の上達の速度が凄まじかった。飛び込み、ドルフィンキック、泳法、どこを見ても真っ直ぐ伸びるところはちゃんと伸び、足も曲がらずに蹴り上げることもできるようになっている。

 これはタイム測定がきっかけで全員の心に火がついたのだ。

 だから、あの時に武田佳織里は桜木春香と秋空楓に「泳ぎを教えてほしい」とお願いをした。

 あんな泳ぎをしてみたいと誰もが思い、先輩達と同級生の泳ぎに目と心が釘付けになるのと同時に「早く泳ぎを覚えたい」と心に火がついて、将来こんな泳ぎがしたいと誰もが感じたことだ。

 全部の出来事を纏めるとこんな感じとなる。

 清流高校水泳部はタイム測定が完全に終わりを迎えた後に、一年生と二年生が来年以降の準備を行いながら県大会に向けての練習、リレーメンバーのための練習時間を多めに用意している感じとなった。

 今年のリレーは、特にフリーリレーは速く。「もしかしたら、全国行けるのでは?」と言われているくらいにいいタイムを毎回叩き出している。なんていっても、メンバーは田崎怜奈を抜かせば50m自由形の精鋭が揃っている、遅いわけがない。

 そんな時間的にも余裕がない水泳部は、一年生だけ練習の終わりの時間にいつもの空き教室に集められ、教室内にはダンボール箱が何箱も置かれており、部員全員が着席したのを見計らって小島順菜が教壇で説明を開始した。

「はい、皆んな注目。今日、わざわざ集まってもらったのは前に注文したユニフォームが届いたので、サイズが上下合っているのかどうか確認をお願いします」

 部活を正式に入部する際、大会などに使うためのユニフォームの試着を行っていて、それが今到着してやっとこ手元に届いたことになる。

 一人一人が名前を呼ばれて取りに行き、男子は隣の教室で女子はここでジャージからユニフォームへと着替えていく。

 ユニフォームはデザインはシンプルで、プールの色をイメージした水色を基調したデザインで、上は半袖のポロシャツのような服に小さいワンポイントで「清流高校水泳部」と書かれてあり、下は短いミニスカートとまでは言わないが、学校指定の制服とはまた違う涼しそうな可愛らしいデザインとなっていた。

「結構、可愛くていいかも」

 桜坂花蓮の隣にいる南條愛美がそう言ったのをきっかけに武田佳織里も「ですよね〜部活動のユニフォームって感じがしません」と好評なようだ。

 水泳部の大会がちょうど、六月、七月、八月と気温が暑い時期に大会が重なるためにこれぐらい涼しそうな格好がちょうどいいのだろうとも思えたが、ここまでデザインが凝ってて可愛らしいとは思いもしなかった。

「確かに結構、デザインいいかも」

「ですよね!私、普段使いしたいです」

 そんなやりとりをしている時に、小島順菜が「確認し終えたなら着替えてください。話の続きをします」と言われたので、部員は大急ぎで着替えを終えて、男女全員が揃ったのを確認して話をし始める。

「えっと、そのユニフォームは今週の金曜日に行われる「部活動激励会」で使うのでその時に持ってきてください。絶対に忘れないでね」

 「部活動激励会」というのは清流高校で毎年行われている「県大会に出場する部活を応援しよう」という内容で、どこの学校でも行われるような一般的な行事だ。

 参加する部員は全員がユニフォームを着用して、体育館に部活動毎に整列をして各部活の県大会に出場するメンバーを発表されたり、部活の部長が代表して軽いスピーチを行うのが伝統。

 その時にだけ結成される応援団があり、そこに選ばれるのは名誉なことだとかで、練習もかなり厳しいことで有名だ。

「何か質問はある人はいますか?」

 誰も手を挙げる人はおらず「いないようなのでこれで終わりにしたいと思います。今日はお疲れ様でした」と言い終わったのと同時に今日は解散となった。



 いつもの練習に明け暮れていると気がつけば、部活動激励会が行われる日になっていた。

 部活動激励会はちょうど、六時間目の授業を潰して学年集会として体育館で行われるため、部活に入っていない一般生徒は早めに移動させて、部活動に所属している生徒は空き教室でユニフォームに着替えている。

 空き教室でも部活動毎に決められている区画があり、桜坂花蓮は人でごった返しているの見て少しうんざりとなってしまったが、つべこべ文句を言わずに着替えて体育館へと向かった。

 各部活動が体育館の出入り口付近から、人気レストランの行列でもあるかのように長蛇列になっており、各部活動の顧問の先生方が二列になるようにと声を挙げているのが聞こえ、吉岡理恵の指示で小島順菜は全員が揃っているか確認をしている。

「全員いますか?」

「大丈夫です、全員います」

「わかりました。後は、他の先生方が指示をしていただけると思います。変に緊張しないでください」

 吉岡理恵がそう言い残し去っていく。他にやらなければいけないことがあるそうだ。

 この場にいる一年生の大半は初心者でそもそも部活動に関連する行事は正直にいえば退屈でしかないのだが、今回からはそんな感情を持つ人は一人もいなかった。

 遠くの体育館の方から、司会者の「選手達が入場するので大きな拍手でお迎えください」との掛け声から、吹奏楽部の金管楽器の心地よい音が聞こえたと同時に部活動激励会が始まる。

 野球部から順番に人気のある部活が入っていく、小島順菜を先頭に綺麗に整列をしたら誰もふざけて話す人はいなくなり、体育館から聞こえてくる拍手の音と金管楽器の音だけがこの場を支配していた。

 少し待つと「水泳部の皆さん行ってください」との指示があり、体育館の中に入りながら少し待っていると文化部の入場も終わり、正式に部活動激励会が開始される。

 校長先生の話から始まり、先ほどの入場の順番で前へ出て、部長が日頃からの練習や大会に対しての思いと、顧問の先生方に対しての感謝の言葉を述べる部長が後をたたず、瞳から涙をこぼす者と堪える者が多かった。

 水泳部の出番が回ってきて、小島順菜、田崎怜奈は「はい」と返事をして壇上に上がり、小島順菜は手に持っている文章が綴られている手紙を一言一言を、部員やクラスメイト、そして顧問とここにはいない親に向けて語り出す。

 出番を迎えた水泳部員は身が引き締まる思いを感じた。

「清流高校水泳部は四月から吉岡理恵先生を新たに顧問として迎え、後輩先輩関係なく全国大会出場を目標として日々練習に明け暮れていました。朝練の追加や体力作りでランニングを多めにしたりなど、練習メニューを変え一人一人が大会に出場してほしいと願いを込めた気持ちがひしひしと伝わってきました。水泳というのは個人種目の競技で、一人一人の泳ぎに対して「何が足らないのか?」と親身に考えてくださって結果、私達水泳部員は去年よりも速く泳げるようになり、全国大会にも手が届きそうな部員もいるようになったのは吉岡理恵先生のお陰です。この場を借りてお礼を言いたいと思います。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 隣で同じように言葉をいい頭を下げている田崎怜奈を見て、小島順菜は驚いたのと同時に、壇上下の水泳部員達も「ありがとうございました」と言うと感極まって小島順菜の瞳から涙が溢れ始める。

「水泳部の応援をどうぞ宜しくお願いします」

 そう言ったはずなのに涙のせいでよく聞き取れないで演説は終わってしまう。壇上からは田崎怜奈が背中をさすりながら降りてきて、締まらない演説となった。

 こうして部活動激励会は終わり、ユニフォーム姿のままいつもの空き教室に集められ、涙目を擦りながら小島順菜が壇上に立っており、その隣に田崎怜奈が立っている。

「もう、泣き止みなって…締まらないでしょ」

「だ、だって…」

 小島順菜にとって先ほどの「ありがとうございました」と声を挙げたのは予想外で、部員全員の気持ちは一緒なんだと思わず感じて涙が雨のように流れてきてしまっていた。

「怜奈はなんか言いたいことはあるの?」

「私?」

 急に話を振られて「どうしたらいいか」と考えてみても、小島順菜に話したいことは全部話されてしまっているので、話すことが特にないのが本音。

 周りを見回してみると、教室に座っている水泳部全員の視線が教壇の田崎怜奈に集中していた。

 「話をしないと終わらない」そんな雰囲気に空き教室は支配されて、自分自身の気持ちを吐き出す恥ずかしさが込み上げ、身体中を支配されながらも口を開く。

「えっと、順菜が全て言ってしまったから、私から言えることはほとんどありません。それでも、強いて言うなら今の皆んなには水泳に対しての本気と情熱が伝わってきます。私は、見てわかる通りに本気で水泳をやってない人が嫌いです。水泳は楽しいスポーツであるのと同時に、自分自身の限界へと挑戦できるスポーツだと思っているから。でも、今は皆んなからは昔みたいにやる気のない感じと違い、一人一人が大会に出場したいと心の底で眠っていた思いが爆発したように見えて、私は嬉しいです。だから、練習して自分の糧にした泳ぎは必ず答えてくれるはずです。自分の泳ぎを最後まで信じて大会に臨んでください。私からは以上です」

 この場にいる全員がその言葉に驚いた。田崎怜奈といえば、他人に対して褒めるところをあまり見たことがなく、他人に対しても自分に対しても厳しいそんなイメージを持っている人が多いが実際は違う。

 厳しいのは水泳に対しての気持ちが甘い人達だけだ。

 初心者の人を除いて本気で水泳をやっている人に対して褒めるのは逆効果であると考えていて、それは全てが出来て当たり前と考えているから、あえて言わない。

 田崎怜奈が何故、急に自分自身でも恥ずかしいと思えてしまうようなことを言ったかと思えば、それは直近で小島順菜から言われたことが原因だった。

 部員達の練習している姿を見て、感心して心が動かなかったわけでは決してない。

 だったら「その気持ちを素直に言うべきだ」と、そう思ったと同時に、田崎怜奈としては「らしくないことをしたな」と言った後に思えたが、不思議と後悔はなかった。

「私の話は終わったし、最後に順菜が締めてよ」

「え、うん、わかった。それでは皆様、ご唱和ください」

 田崎怜奈に発言に心を奪われたていたが、現実に引き戻されながら涙で腫れた目を擦り、手を上に突き上げて言う。

「清流ファィト〜」

「「おー」」

 全員が手を上げるのと同時に、県大会への思いは熱くなるのを肌で感じた。

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感情の描写も丁寧でこの先が気になりました!お星さまとブクマさせていただきますね(*´▽`*)
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