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君は水泳という名の青春に飛び込めるのか  作者: 柏木京介
一年生編-序章-

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18/21

18話「気持ちと言葉」

 桜坂花蓮は圧倒的な速さで他者を蹴落としていく、田崎怜奈、桜木春香、秋空楓の3人を見て「私はここに立つ資格はない」と再確認をすることになった。

 200m自由形ならばなんとかなるかもしれないが、50m自由形のようにほぼ一瞬で勝敗が決まる泳ぎは実のところあまり得意ではない。

 中学の頃の部活は、ただ単純に速い人がいなかったから不真面目な自分でも選手として選ばれていたことをちゃんと理解はしているし、そんななんとなくで水泳をやっているような人に今はなりたくはなかった。

 50m自由形の泳ぎは理解はしているが、頭で理解はしていても体を動かす実践の方とでは話が別だ。

 今は200m自由形の方に集中していき、いつかはフリーリレーで選ばれるような人になりたいとは思ってはいる。

 そして、南條愛美と一緒に泳いでみたい。

 そんな夢を今は持っている。

 待合室のようなところから吉岡理恵が出てきた少し後に小島順菜、南條愛美が出てきた。

 緊張している素振りも見せないような気迫で満ち溢れたような表情をしているなかで一瞬だけ、南條愛美は桜坂花蓮のことを見る。

 ここで何か一言を言うのは空気的にも、どこかで緊張しているかもしれない南條愛美にもやってはいけない行為に感じて、桜坂花蓮は手をグーにして突き出した。

 「行ってこい」「かましてこい」そんな意味を込めているように南條愛美は感じ、「ありがとう」の意味を込めて首を一回動かす。

 そのまま飛び込み台の前に立ち、吉岡理恵の笛の合図と共にゴーグルとキャップを取れないようにきつく被り飛び込み台の上に立つ。

 最後の吉岡理恵の笛の音を待ちながら、桜坂花蓮と武田佳織里は固唾を呑んで見守り、田崎怜奈はいつも通りのように見ていた。

 今年からの清流高校水泳部は実力主義であり、どちらが勝っても負けても恨みっこはなし。

 全ては今までの自分の努力と磨き上げてきた泳ぎが勝つか負けるかを決める。

 小島順菜は飛び込み台の上に立つといつも以上の緊張感に包まれるのは、今までとは違う「最後の大会」という場所に立つためのタイム測定だからか、吉岡理恵が笛を鳴らすまでの時間が非常にゆっくりに感じた。

 遂にタイム測定が始まる、その時が来た。

 吉岡理恵の笛の音が鳴り、飛び込み台から蹴り上げプールの中に空が沈む。

 両者共に綺麗な飛び込みのラインが見え、水飛沫を上げずに消えていくのは上級者の証である。

 変なポージングを取らず「力が力んでいない」「腹打ちをしていない」という事がこの飛び込みを見てわかることだ。

 誰もが理想とすべき飛び込みであり、その領域に行くためには幾重の練習の積み重ねがあり、理想とするべきところに行くまでどの程度練習したかは想像をするだけでも嫌になってきてしまいそうになる。

 ドルフィンキックの動きも両者共に互角でちゃんと前に進むんでいて、15m付近で両者共に浮上し、後は泳ぎでの直接対決となった。

 泳ぎでの直接対決と言っても南條愛美の方には少しでも利点はあるわけじゃない。

 それは、普段の練習で50m自由形を泳いでいないからだ。

 南條愛美の個人種目は200m自由形しか選んでいない、ということはすなわち、200m自由形以外の練習しておらず完璧に泳げる状態にしていないということになる。

 これは、秋空楓と南條愛美が200m自由形のタイム測定で戦ったのと極めて同じ状況となった。

 今回は逆に南條愛美が50m自由形に対してちゃんと練習してないのに対して、小島順菜は50m自由形を個人種目にしているためにちゃんと練習を積み重ねている。

 だから、経験の差が生まれるということに繋がるわけだ。

 タイム測定の方に戻っていくと、同じ15mのタイミングで浮上したのにも関わらず、南條愛美よりも小島順菜の方が少し前に出てしまっている。

『私よりも前にいるの…やっぱり、専門で泳いでいる人は違うな』

 2人の泳ぎに対してはほぼ互角で、どちらが速いとかは決してないに等しい。

 小島順菜が前に少し出ているのは、単純に力の使い方が50m自由形を何回も泳いでいるからこそ慣れているので、人が呼吸をするのを無意識にするのと同じような感じで泳ぐことができるだけの違いだ。

 その経験の差の違いが、小島順菜が有利な方向に傾いているだけで南條愛美の50m自由形が決して遅いというわけではない。

『今のところ、私の方が少し前にいる。このまま勝つ!私は怜奈と一緒にリレーに出るんだ!』

 心の中で叫んだ後、小島順菜の速度が更に上がり南條愛美を離していく。

 南條愛美は確認してから速度を上げたが、小島純菜には追いついていけないで逆にもっと離されていく勢いだ。

 そのまま南條愛美が肉薄しそうになっても、小島順菜は速度を上げることをやめない。

 「誰れも寄せ付けることを許さない。リレーは私の場所」と言っているようにも感じる泳ぎで南條愛美は途中から「勝てないな」と下向きな思考になっていた。

『これは私と小島先輩のリレーに賭ける気持ちの違いで追いつけないのか』

 そう思うと自然と納得できる自分がいて、小島順菜が火事場の馬鹿力のように泳いでいる姿を見ると輝いて見て羨ましいと感じてしまう。

『こんな風な関係っていいなぁ…』

 方向性は違うが、田崎怜奈と小島順菜の関係は南條愛美と桜坂花蓮の関係に少しばかり似ていると思った。

 相手は何も知らないのに、一方的に憧れている点なんてそっくりだ。

『私は花蓮に伝えなきゃいけない気がする…このリレーで一緒に出たい気持ちとか…吐き出したいことがいっぱいある』

 伝えたい、でも言葉として伝えるのは恥ずかしい、だから、言わない。

 そう思っていたのは別に南條愛美だけではない。先頭を泳ぐ小島順菜も同じことを考えていた。

『このままだと私が勝ちそう。勝てたら、怜奈に伝えなきゃいけないことがある。ずっと、憧れていたんだって…私は、今年、怜奈とリレーで全国行きたいんだって…』

 言葉って、言うまでに「相手にどう思われるのか?」という恐怖の概念が襲ってくる。

 それでも、言わなければ何も相手には伝わらない。私達、人間は超能力者じゃないのだ。

 気持ちを伝えて、人間は前へ進める。行動だってそうだ、失敗の怖さを理由にしていたら進めない。

 青春も人生も藻掻いて、苦しんで生きていくのが生きるということなのではないか?

 楽に生きる道なんて決してないのだ。

 2人が超能力のように同じことを考えていながらも勝負の終わりが近づいてくる。50m自由形はクイックターンでの折り返しがないために決着がつくのがとにかく速いのが特徴だ。

 結果は小島順菜が僅差どころではなく大勝し、南條愛美と小島順菜の戦いはこれで終わりとなった。



「今日はどうもありがとうね」

 南條愛美が飛び込み台などに足をかけて上に上げるとそう言われながら、握手を求められ、泳いで疲れた息を整えて握手を返す。

「こちらこそ、ありがとうございました」

 お互い一例をしながら、南條愛美は桜坂花蓮の元に、小島順菜は田崎怜奈の元に向かった、隠していた自分の気持ちに洗いざらい吐くために。

「花蓮」

「愛美…」

『なんて言ったらいいんだ…負けた人に対して、「次もあるよ、頑張って」とかそんな禁句なことは言えないし、それに1年生の大会は今年しかないんだ…次があるわけじゃない…私が田崎先輩に負けた時は、何も聞かずにそっとしておいてくれたんだから…そうしてあげよう』

 と心の中で葛藤が渦を巻く。

 隣には武田佳織里がいて、彼女も彼女で南條愛美に対して「何を言ったらいいのだろう?」と考えたが、直ぐに考え直して「水泳に対して浅い私は何も言わないで黙っていた方がいい」と思い、桜坂花蓮に委ねることにして様子を伺う。

 桜坂花蓮は泳ぐ前には小島順菜には悪いと思いながら南條愛美の圧勝で幕を閉じると勝手に思っていた。

 だから、心配なんてしていなかった。

 タイム測定がいざ始まると、小島順菜の速度に南條愛美が追いつけないで負けた。小島順菜の圧勝だ。

 南條愛美が普段から50m自由形を個人種目としていないために、練習は軽くしかしていなかったが、中学時代の南條愛美を知っているために負けたのが信じられず、夢なのではないかと頬をつねったら、普通に痛く感じて現実なんだと、それで実感した。

 中学時代の南條愛美はフリーリレー、メドレリレーは1年生からメンバー入り、他に速い人こそいなかったから大会ではいいところまではいけなかったが圧倒的に速く、桜坂花蓮のような小粒な人間がいないでちゃんと速いベストメンバーがいれば全国大会へ行けたことは事実。

 当時メドレーのメンバーでもあった桜坂花蓮でさえ「高校に行っても水泳を続けて1年生からメドレーも個人種目もメンバーに選ばれるんだろうな」と中学時代から思っていたこと。

 しかし、それは目の前で小島順菜に敗北したということが現実におき、もうメンバー入りは厳しいのが明らかとなった。

「私、負けちゃった」

「うん」

『何を言えばいい。何を言えばこの状況に対しての正解なんだ?愛美を傷つけないように言える言葉の正解はどれだ?わからない』

 そう頭の中で自問自答を繰り返し混乱する桜坂花蓮に対して南條愛美は自分自身が今したいことに行動を移した。

「話があるんだけど、いい?」

「うん、いいけど」

「できれば、2人っきりがいい」

 武田佳織里はその発言のおかげで「この重い空気から解放される」と少しばかり失礼だと思いながらも感じてしまっていた。

 でも、これは将来的には自分自身にも降りかかるかもしれない出来事だから他人事でもないと感じて、身が引き締まる思いを感じる。

「わかりました。私は別なところにいます」

「ごめんね」

「いえいえ、大丈夫です」

 武田佳織里が遠くの別な友達のところに行ったのを確認してから話し始めた。

「話って言うのは、その…」

 いざ話そうとすると恥ずかしさが滲み出てきて、言葉が上手く続かない。

『ダメだ、ダメだ…言葉にしないと伝わらないんだ』

 深呼吸をし再度恥ずかしさを捨て、もう一度、言葉を繋げる。

「私は花蓮とリレーで泳ぎたいんだ」

「え?私と?」

 その発言すらも予想はできておらず、心構えができていないで急に言われたその言葉をちゃんと受け止めるのには時間がかかりそうだった。

「なんで、私なの?私よりも速い人はたくさんいるよ。県大会ぐらいなら私でも戦えるかもしれないけど、全国目指すなら私じゃない方がいいんじゃないかな」

 「私を選ばない方が愛美のためになる」とそう思い発言した。

 南條愛美の心の声とか考えとは桜坂花蓮は何一つ知らないからこその南條愛美のことを思っての発言だ。そこに悪気は一つもない。

『愛美は全国大会へ行ける、絶対に。リレーのタイム測定では小島先輩に負けちゃったから、今回は厳しいかもしれないけれど。個人種目は確実にいけると思っている。でも、これは私の理想を押し付けているだけかもしれない。それに、躓いて燻っている私なんかに頼らなくても…速い先輩は2年生にもいる…それに、来年は速い1年生がくるかもしれない…私なんか必要ない日がくるかもしれない』

 そう思ってくると、心の中で涙が止まらなくなっていた。

 「本当の気持ちはなんなの?」

 「本当は南條愛美と泳ぎたいんじゃないの?」

 そうもう1人の桜坂花蓮が話をかけてくるたびに「自分自身が嘘つきになっている」ことに気がつき始めた。

 「本当は一緒に泳ぎたい!」

 「リレーだって一緒に出たい!」

 もう1人の自分自身の胸ぐらを掴む勢いで心の中で叫ぶ、叫んで、叫んで、叫びまくる。

 そしたら、気持ちが軽くなるのを感じた。

 南條愛美のためとか言っておきながら、自分自身の気持ちに蓋をして臆病になり、嘘つきになり、自分自身の本当の気持ちから逃げてきた。

『これではダメだ…愛美が言ってくれたんだ…私だって…言わなきゃ!』

 意を決して口を開き、桜坂花蓮の本当の気持ちを喋り出す。

「さっきはごめん、あれは嘘」

「え?嘘?」

「うん。私も愛美と一緒に泳ぎたい。今は200m自由形をメインに練習したいけど、将来的にリレーやるなら少しづつ練習しようかな。あまり、50m得意じゃないからさ」

「う、嬉しい」

 南條愛美の瞳から小雨のように涙を流すと、急に土砂降りな雨に変わり顔を埋め尽くさんとばかりに涙が止まることを知らない。

「もう、涙を流すのは速いよ」

 近くに置いてあった自分のタオルで涙を拭いてあげると多少はマシにはなったが完全に涙を流した後は消えなかった。

「この先だから言っとく。私が花蓮を水泳部に誘った理由」

「誘った理由?」

 誘われた当初は気にはなっていたが、水泳部での練習が過酷になっていき頭の中からすっかりと抜け落ちていた事柄だった。

「それは中学時代に私と似て水泳に一生懸命な人がいるなぁって印象だったんだけど、水泳に対して熱くて、水泳の練習が楽しそうで私は気になっていたんだ」

 少しだけ「そんな風に見ていたんだ」と驚かされたが、あの頃を思い返してみれば、小学生から中学生になったばかりで上級生とか周りのことをあまり気にしていなかったし、常識が少し欠けていたなと後悔はしている。

「それで、上級生のいじめがあってさ…私は何もできなかった…助けることも…声をかけることも…どんどんとやる気がなくなっていくのを間近で見ていて…凄く後悔して、私は「一緒に泳いでみたい」と思ってた気持ちに蓋をした」

「そうなんだ…」

「だから、そのごめんなさい。今更、なのは分かってるんだけど」

 隣で頭を深く深く下げていく南條愛美を途中で手で止めて、桜坂花蓮の瞳に向き直させる。

「それは私の問題だから…気にしないでよ」

 そうあの時の上級生からのいじめに対して、何も出来ず、水泳のやる気を失ってしまったのは桜坂花蓮の問題。

 過去として消化されてしまっている今は関係ない。今、こうして水泳をやって、いい水泳部に入れて、いい先輩や友達、顧問の先生にも巡り会えた。

 過去はもう変えられないけど、現在はこうして楽しく本気で水泳をやれているから、それで充分だ。 

「続きを話してよ」

「うん。それで、この学校を入学した時に花蓮を見つけて「あ、今度は一緒に水泳やれたりできるかな?」って思って、私は放課後に後を付けたんだ。それで、あの時、話しかけたの」

「あーなるほど、そう言うことか」

 中学時代に南條愛美を推薦入試で受け、桜坂花蓮は一般入試で受けたために中学校で清流高校の説明される時も別々だったからお互いも清流高校を受けたことすら知らないでいたということになる。

「ありがとう、話してくれて。あの時はまだ私の気持ちがちゃんとしてなくて断っちゃたけど、今となっては誘ってもらったことが、私が水泳をまたやりたいと思ったきっかけになったから、私からもありがとうって言いたいよ」

 あの時の部活動掲示板で見ていた時にかけられた言葉。

 「水泳部に入らないの?」

 中学時代の後悔を胸に抱えて、高校でも間違いを犯すくらいなら水泳部に入らないと決めていたのに、南條愛美の言葉で自分の中にある「泳ぎたい」という感情が、南條愛美との出会いと言葉で背中を押されて、水泳部に入った。

 水泳部に入ったことは後悔はしていない。

 入ったことが高校生として、水泳をやるものとしての青春が始まった、そんな気さえした。

 そんな感情が体を巡り、水泳部に入らない青春なんて考えらないほどに桜坂花蓮は水泳をするのが当たり前であり、青春の一部とかしている。



 ほぼ同時刻に小島順菜は田崎怜奈の元に向かっていた。

「怜奈」

「うん?」

 誰かと喋っていないで1人でベンチに座って、居たところを話しかけたがとぼけた顔をして返事をする。

 今ここで何を伝えたいか、言いたいかということはわかっているのにあえて「私は何もわかりません、興味ありません」みたいな顔をしている。

 「他人に興味がないのか」と疑ってしまいかねないような態度に思わないこともないが、そういう他人とは少し違うところが水泳をやるのにあってるなとも思えてしまう。

「話があるんだけど、いいかな?」

「別にいつでもウェルカムだけど…愛の告白とかではないよね」

「違うよ」

 小島順菜の真剣な眼差しを見て、ふざけてやり過ごせる空気じゃないのは理解はできた。

 「私に話すことなんてあるのか?」と頭の中で思考を繰り返すが「特にない」のが答えだ。小島順菜とは喋るし仲がいい方だとは思うが、桜坂花蓮と南條愛美みたいに四六時中一緒にいるわけでもない。

 だからこそ、今から言われることに対して「何を言われるか検討がつかない」のが本音になってくる。

 少し覚悟を入れて聞いてみた。

「何を話したいの?」

「じゃあ、話させてもらうね。私、怜奈のことずっと憧れていたんだ」

「憧れ?私が?」

 何を言われるかわからないから身構えていたのに、小島順菜の口から飛んできた言葉は「憧れている」と言ってきたのだ、そんなことを急に言われて驚かないわけがなかった。

 そんな素振りなんて一度も見せなかったし、いや、見せなかったんじゃない、恥ずかしくて、見せていなかっただけだと解釈した。

 他人から「憧れている」なんて素敵な言葉から程遠い「何を考えているかわからない」とは何度も言われたことがある。言われすぎて、耳が痛くなることもあったが、そのうち気になんなくなった。

 他人は他人、自分自分。そういう風に線引きをして、水泳も人生も歩んでいくことに決めたからだ。

「初めていうから少し恥ずかしいんだけど、私と違って自分の水泳に対する考え方がしっかりあって、誰に対しても自分の考えに嘘をつかないで言えることも言える姿が、凄く私にはできないことをしてて、私はそんな怜奈に憧れている」

「そうなんだ…」

 聞いているだけで、体の体温が上がっていくのを肌で感じる。熱があるのかと勘違いするほどだったが、プールの熱気で火照ったのだと自分自身を誤魔化すことにした。

「「そうなんだ…」だけなの?恥ずかしい気持ちを堪えて、自分自身の気持ちを全部吐き出したのに、それだけで終わり?」

 恥ずかしいことを目の前で言われてすぐに次の言葉が言えるほどに田崎怜奈は耐性はついていない。いつも自分の考えを言い、自分の泳ぎを見せる機会があると相手は近寄ってこないこと多々あった。

 だから、どう言葉で返していいかわからない。

 それでも、小島順菜の気持ちに対して返さないと失礼だと感じて、必死に頭を掻き回し言葉を絞り出す。

「初めて「憧れ」なんて言葉が言われたからさ…どういう言葉を返すのが正解かわからなくて…いつも私に言われる言葉は「何を考えているかわからない」とかだったから…私はただ水泳に対して本気で向き合っているだけなんだ…それに、私は水泳に対して本気で向き合ってない人が大嫌い。水泳を甘くみないでほしいっていつも思う。泳ぎだって簡単にできるわけじゃない、タイムだって1秒を削るためにどれだけ頑張ってるか知らないくせに、こんなに楽しいスポーツは他にないのに甘い気持ちでする水泳が本当に吐き気がするくらいに大嫌い」

 口からすらすらと言葉が溢れていく。

 これは小島順菜に引き寄せられたからなのか、いつも引き出しの奥に鍵付きで閉まっているはずなのに、小島順菜の言葉で手で奥の方から引きずり出されてきてしまう。

 「おかしい、おかしい」とは思いつつも言葉が止まることを知らないで続けて喋ってしまうことに田崎怜奈は自分のことながら驚いてしまっていた。

「そんな私に「憧れ」なんて言葉から程遠いけど、でも、嬉しいよ。ありがとう」

「気持ちが伝わって嬉しいよ」

「めんどくさいけど、こうやって言葉で伝えないと気持ちは伝わらないからね」

「だね〜」

 不思議な時間だった。

 「気持ちを伝える」なんて簡単に思える行いだけれども、気持ちや感情が邪魔をして伝えらない。

 でも、言う行為、気持ちを吐き出す行為をしなければ人に対して何も伝えられずに、心の中で吹き溜まりとなって溜まっていくだけ。

 気持ちは、考えは、言葉にしないと伝わらない。

 4人の少女は今日、それを学んだ。



 リレーのタイム測定が人数が少ないために早く終わってしまったために、少し軽めに練習メニューを組んで今日の練習は終わりとなった。

 更衣室での着替えをしながらも空気感としては、個人種目での先輩後輩との激しい戦いをしたのとは大違いに空気は澄んでいて、泣いている人もいなく、負けた人は逆にほっとしてしている部員も存在している。

 それは、リレーというのは学校の速い水泳部員を集めた、華のような存在だからだ。

 だから、逆に「泳ぎたくない」と思う人も少なくない。

 水泳部員が全員着替え終わった後、受付の前で施設の関係者の方に挨拶を済ませた後に、一般の方の邪魔にならない場所で吉岡理恵の話が始まった。

「前回を含めて、今日までの2週間タイム測定お疲れ様でした。皆さんの泳ぎは大変素晴らしい泳ぎばかりで皆さんの大会に対して、水泳に対しての本気が伝わりました。ですが、残念なことに全員が大会に出れません。先輩も後輩も関係なく、速い人が大会に出場する権利を獲得します。だから、納得できない人も悔しく思う人もいます。でも、私は3年生だからとかで、上級生だからと言う理由で無理矢理大会に出すことはありません。タイム測定の結果発表は明日の練習後に行います。今日はお疲れ様でした」

 吉岡理恵の話が終わった後に小島順菜の「ありがとうございました」といつもの挨拶をした後に解散となった。

 各々が車に乗り込み、学校までの道へ帰っていく。

 タイム測定の発表という言葉に水泳部員一同は再度真剣な顔になり、笑顔が一瞬消えかけたが今は冷静になろうといつも通りに戻っていった。

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― 新着の感想 ―
RT企画からきました! 花蓮が「ここに立つ資格はない」と感じながらも「いつか愛美と一緒に泳ぎたい」で終わる締め方、青春小説らしくてよかったです。 続きが楽しみです!
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