17話「君をみつめて」
リレーのタイム測定が目前に迫っているなか、清流高校水泳部の部長である小島順菜は個人種目の100m自由形と50m自由形の調整に日々の神経を注いでいた。
50m自由形にはいくら得意で自信があるといえど、今回相手をするのは田崎怜奈、南條愛美、桜木春香、秋空楓の4人の他に複数人いることはいるがこの4人以外に選ばれる人はいないだろうと思ってはいる。
この中でリレーのメンバーに選ばれると感じているのは田崎怜奈、桜木春香、秋空楓の3人。
そして、南條愛美に至っては、どう50m自由形をどう泳いでくるのかがわからないために未知数だけど「リレーの席を譲るつもりはない」のが本心だ。
『怜奈と一緒に泳ぐのは私』
心の中でいつもそのことを思いながら部活の練習をしている。
何故そこまで思っているかといえば、小島順菜は少なからず田崎怜奈に憧れを抱いているからだ。
憧れるきっかけになったのは、清流高校水泳部に入部してすぐに行われたタイム測定の泳ぎを見た時だった。
高校に入学しても小島順菜は水泳部に所属することを決めていて、いざ泳いでみれば中学時代よりも、少しいいタイムを叩き出して喜んでいたそんな時に田崎怜奈が泳ぎ始めたのを見て、小島順菜は喜びなんか忘れて田崎怜奈の泳ぎに釘付けになっていた。
田崎怜奈が泳いでいたのは200m自由形で「飛び込み」「泳ぎ」「ドルフィンキック」「クイックターン」が完璧で「どれだけの努力をしてこの技術を習得したんだろう?」とその場にいた水泳部員全員が思ったことだ。
そのタイム測定の結果は田崎怜奈が3年生や2年生といった上級生よりも明らかな大差をつけて1位を独占し、県大会の出場をかけたタイム測定でも「200m自由形」「フリーリレー」「メドレーリレー」を出場を獲得したが、そのせいで上級生達に目をつけられ田崎怜奈を集団で脅迫のような形で、県大会出場の権利を剥奪しようとしていた。
その頃の清流高校水泳部は引退を控える3年生がメインで県大会の出場メンバーになるように優先することが多く、2年生や1年生がどれだけ速くても3年生達が言葉や態度で圧をかけて、後輩がせっかく獲得した「県大会出場」というチケットを剥奪するのは当たり前。
その光景を見ても顧問の先生も見て見ぬふりをするが日常の風景となっていて、誰も不思議には思わないのが普通になっていた。
そして、田崎怜奈の元に3年生がやってくる。
その時の部活では、学校のプールでの練習の期間に入っていて練習が終わり着替えが済んだところを待ち伏せていた。
小島順菜はたまたま近くにいて物陰から見ていると、3年生数人に囲まれて色々な言葉ではない脅迫に近いことを田崎怜奈に対して言っている。
何も言い返さずに3年生達に対しての目が哀れんだ表情のまま見つめていながら、遂に口を開く時がきて田崎怜奈は、はっきりと一言一句を相手に叩きつけるような感じで喋り始めた。
「はっきりと言わせていただきますけど、貴女達の水泳は本気を一切感じませんし、私にタイムで勝ててないしで、私は貴女達を含めた3年生全員に譲るつもりはありません。そもそも私に譲るメリットがない…それに本気でもない人に何故譲る必要性があるのですか?逆に聞きたいんですけど、なんで貴女達は水泳を部活に選んだんですか?ここまで本気でなければ無駄な時間ですよね。だったら、部活なんてやめてしまえばいいんではないですか」
田崎怜奈を囲んでいた3年生が田崎玲奈の言葉の暴力により、一歩引く形となってしまっていた。
これは、3年生が少し圧をかければ田崎怜奈が簡単に折れるとそう思って鷹を括っていたが、その理想は簡単に剥がれ落ちていく。
何も言い返せずに3年生が黙っていると田崎怜奈はふと独り言を呟いた。
「君は水泳という名の青春に飛び込めるのか」
その場にいた3年生全員と小島順菜は田崎怜奈の言葉を聞いて目が点になった。
「彼女は何を言っているんだ?」と不思議を通り越して不気味に感じてその場を去ろうとした時に続けて言葉を話す。
「貴女達ような人からは一番遠い言葉だよ」
これ以上言っても無駄と判断したのと1秒でも早くこの場から立ち去りたかった3年生の集団は逃げるようにいなくなっていく。
残されたのは物陰に隠れている小嶋純菜だけだが、そのまま帰ればいいのにしなかった。
それは、田崎怜奈という1人の少女に興味が湧いてしまったからこそ「ここで話をかけてみよう」と感じてしまっていた。
「田崎さん」
「ん?あ、小島さんだっけ?さっきの見られてた?恥ずかしいなぁ」
と言いながら頭を掻く姿は先程と打って変わって可愛らしい姿に見える。
3年生に対して言葉の暴力をしていた時は顔が笑っていなかったが、今の姿のギャップは「どちらが本当の素の田崎怜奈なのか?」と疑問に思ってしまうくらいに違っていた。
「ごめんなさい、話を盗み聞きしてしまって…」
「別に構わないよ。私は普通のことを言っているだけだから」
「普通のことか…」
最初に言っていたことは確かに普通のことではあったが、その後にいった言葉は小島順菜にとって聞きなれない言葉ではあった。
「君は水泳という名の青春に飛び込めるのか」なんて言葉は記憶を探しても聞き覚えがない。有名な誰かが言った言葉ではないことは確かなことはわかってはいる。
「ちょっといいかな?」
「ん?別にいいけど」
田崎怜奈は体操服などが入っている鞄を持ち直し帰ろうとしたところで、小島順菜は意を決して話をかけた。
「さっき言っていた「君は水泳という名の青春に飛び込めるのか」ってどういう意味?」
「あ、それ気になる?」
「うん、気になるよ」
田崎怜奈は一瞬だけ悲しそうになりながらも、口を開いた。
何故、悲しそうな表情をしたのかは「どうせ私の考えなんて理解されない」と他人に対して思っているからだ。
「言葉通りの意味だよ。「他の全てを投げ打ってあなたは水泳という青春に捧げることはできるのか?」っていう感じかな」
「なるほどね、いい言葉だね。私は好きだよ」
「え?」
一瞬、田崎怜奈は思わず自分の考えが受け入れられると思わず驚きつつも嬉しくて表情に出てしまったが直ぐに気持ちを切り替えた。
「小島さん、あなたは水泳に対して真面目なんだね」
「私は水泳が大好きだよ。1秒タイムが縮むために今までやってきたんだから…それに私のことは順菜でいいよ。私は田崎さんのことを怜奈って呼びたい」
「別に構わないけれど…」
それが小島順菜と田崎怜奈の出会いだった。
昔の出来事から少しづつ現実の世界へと戻ってくる感じが小嶋純菜を襲う。
小島順菜の部屋で時計のアラーム音が鳴り響くと「さっきまで見ていたのは夢だったのか」とわからされた。
「うーん、なんか昔の出来事の夢を見ていた気がするな…」
小島順菜は寝ぼけてそんな独り言を呟きながら、気を引き締める。
今日は、リレーのタイム測定の日だ。
「誰にも負けない!」と思いながら、寝ぼけている体に気合を入れるために頬を叩く。
「よし!」
気合を入れ直した小島順菜は、朝食を取るために部屋を後にした。
桜坂花蓮はリレーのタイム測定を行うために清流高校の昇降口の近くで水泳部員が集合していた。
今日の送迎の当番は宵宮夏美、霜月真冬でミニバンタイプの車が2台停めてあり、近くに母親と一緒にいるのが見え桜木春香と秋空楓もいて仲良く喋っているのが見える。
周りの水泳部員を見て見ると、先週までの緊張感が漂っていた空気とは違い。今日はリレーのタイム測定と練習が主なメインになっているために穏やかな雰囲気が流れている、一部の人を除いて。
その一部の人とはリレーメンバーの候補者である、田崎怜奈、小島順菜、桜木春香、秋空楓、南條愛美の5人だ。
吉岡理恵が昇降口から出てくるのを見て、友達と喋っている水泳部員は静まり返り、小島順菜の「集合してください」の声で全員が集まっていった。
今日の「練習メニュー」「タイム測定」の話を順次していく。
練習メニューは主にリレーのタイム測定をやるのは勿論だが、この前の個人種目のタイム測定とは違い、人数が少ないため時間がそんなにかからないことから練習メニューは普通通りのきつめで行われることが吉岡理恵の口から説明があった。
タイム測定に関してはこの前の個人種目と同じで「自分自身で泳ぎたい相手を選んでいい」との説明があり、特に3年生は気を引き締めていている部員が多く、それは今年で部活が終わってしまうから「清流高校水泳部の代表に選ばれたい」と表情がそう告げている。
説明が終わった後に送迎の方に対して挨拶をした後に車の方に乗り込んで行く。
「花蓮ちゃん、乗りなよ」
宵宮夏美は桜坂花蓮、南條愛美、武田佳織里を誘い車に近寄った時に桜坂花蓮は南條愛美の手と足が震えていることに気がついた。
「大丈夫?愛美?」
「え?」
「手と足が震えているよ」
その言葉の後に南條愛美は手と足を確認してようやく自分が震えていること気がついて、深呼吸をして無理やり止める。
南條愛美は今日のリレーのタイム測定が物凄く怖くて、本音を言えば「やりたくない」と思ってしまっていた。
別に直前まで緊張なんていう気持ちすら起きなかったし、いつも通りの冷静な泳ぎをすればいいってそう思っていたが、当日の今日に体のどこかに隠れていた緊張感が大量に溢れ出てくる。
それは1人の水泳部員の気配が違くて、怯えてしまったからであり、その水泳部員とは小島順菜だ。
小島順菜の目が表情から滲み出てくる、誰にも寄せ付けない「私は負けない」という気持ちが外に溢れ出しているように感じて、怖くなってしまっている。
「こんな、感情は初めてだ」とそう感じて、今までの水泳をしてきた人生の中で、これだけ手や足が震えるほどに恐怖を感じた経験は、初心者の頃を除けば思い出してみてもなく、逆に言えば今回のタイム測定で緊張感を与えてくれるいい出来事になってくれた。
「手を出して」
「うん」
南條愛美は素直に手を出すと、桜坂花蓮は手を握りしめてくれる。
その手には力がこもっておらず痛くはなく、凄く安心するほどに心地いい感じで手や足の震えが止まっていくのを感じた。
「ありがとう」
「どういたしまして、じゃあ乗ろうか」
「うん」
そして、車はリレーのタイム測定の舞台へと動き出していく。
南條愛美はそこで激闘があることをこの時はまだ知らない。
今日の練習で使うプールの会場に着くとこの前と同じように受付の人達に挨拶をして、吉岡理恵の話が終わった後に男女別で更衣室に別れた。
そこで、南條愛美は桜坂花蓮と武田佳織里と共に着替えていると唐突に話をかけられる。
「ちょっといいかな?南條さん」
「いいですけど」
後ろを振り返るとそこに立っていたのは小島順菜だった。
その瞬間に南條愛美は悟った「この人は今回のタイム測定で私を対戦相手に選んだ」ということを。
「今日のタイム測定で私と泳いでほしいの」
「わかりました。先輩だからといって手を抜いたりしないのでそのつもりで」
そうはっきりと宣言をする。
今年が最後の大会になる3年生に対しての発言。
それは万が一でも南條愛美が勝ったりすれば部の内部が荒れる予感さえもしたが、それを跳ね除けるくらいに小島順菜の口から出る次の言葉が耳に残り、それが張り付いて離れない。
「大丈夫だよ、南條さん。勝つのは私だから、手を抜いたりして譲るとかしないで先輩である私を潰しにくるぐらいの気持ちがないとダメだと思うんだよね…そうしてくれないと私が納得できないから…それじゃあ、タイム測定の時に」
そう言い残して去って行った後ろ姿を見て「小嶋純菜のイメージがガラリと変わった」とこの場にいる3人はそう感じ、今までの小島順菜からは想像がつかない言葉と行動だと感じた。
どう声をかけていいのかわからずに立ち尽くす2人だったが、南條愛美が「練習に遅れるから着替えよう」と言ってくれたのをきっかけに動きだす。
だけど、桜坂花蓮は南條愛美が不安になっているのはわかっていた。
だって、南條愛美は小島順菜に怯えていたように感じたからだ。
小島順菜は直接言ったわけではないが「お前のことを叩き潰す」とさっきの言葉はそう宣言しているようなものだ。
不安になっている心を落ち着かせるために、深呼吸をし顔を思いっきり引っ叩く。
『何を怯えているんだ!しっかりしろ!』
と自分自身を鼓舞をして、一度冷静にできた頭で考えを巡らせる。
『小島先輩はきっと、リレーのメンバーとなり全国へ行くつもりなんだ…私だって、個人種目だけでなくリレーでも全国へ行きたい…いや、行くんだ!絶対に!それに、これは私に対しての挑戦状だし、本気で勝つ!』
気持ちがいい方向に進み自分自身の気持ちの整理がついたおかげで、今日の朝の小嶋純菜に対しての恐怖で一杯だったのが嘘みたいに晴れやかな気分となった。
『いい泳ぎができそう』
更衣室でいい音が鳴り、事情を知らない部員が不思議そうに見つめるなか「南條愛美は先程の不安はどこにいったのか?」と疑問に思ってしまうかのように、ゴーグルとキャップを手に取り更衣室を出ていく。
「大丈夫ですかね」
「うん、大丈夫だよ。愛美は強いから」
「強いですか?」
「強いっていうのは別に水泳で速いから言ったわけじゃなくて、気持ちが強いってことだよ」
「そうですか、なら大丈夫ですね」
見送ることしかできないのが2人とって辛いところであるが「何もできないのが本音」だった。
少しくらい安心させることができても、恐怖を振り払い前へ進むのはいつだって自分自身だからだ。
そこに、他人の助けなど必要はないだろう。
だって、これは水泳で個人競技。
先輩も大会で出会う見知らぬ水泳部員も、練習してきた己の泳ぎの技術で勝つのが当たり前の世界。
優しい世界などでは決してない、仲が良い友達も尊敬している先輩も全てが敵なのだ。
それを忘れてはいけない、決して。
水泳部員が全員集まりいつも通りの練習をこなしていき、遂に待ちに待ったリレーのタイム測定が実施される時が来た。
今回のリレーのメンバーは公式大会でのルールの上限の人数である4人を決めるタイム測定ではあるが、ここで公式大会でのルールを説明したい。
公式大会でのルールは、フリーリレーとメドレーリレーの4人に加えて各種競技で補欠を2人ずつ決めることが明記されている。
それは、病気や怪我などの突発的な出場辞退に備えるためだ。
基本的には補欠が出ることは少ないが、インフルエンザなどにかかっているのに大会に出て、それが広まり補欠が出場することになったり、補欠もインフルエンザなどにかかり出場できる人がいない、ということが多発した大会も存在する。
そんなことは稀ではあるが、万が一ということもあるので補欠を決めることも大事というわけだ。
今日のタイム測定で一番最初に泳いだのは、桜木春香と秋空楓で安定した泳ぎで自己ベストは更新し、県大会よりも上の大会を2人共に狙えるのは確かで今回のフリーリレーでの最有力。
次は田崎怜奈が泳ぐ、相手は「誰でもいいよ」と言ったので吉岡理恵が選び、泳ぎでは圧倒的な速さを見せつけたが、50m自由形を専門としている桜木春香と秋空楓にはほんの少しだけ及ぼなかったが、それでも専門で泳いでいないのに肉薄しているのは本人が今までの努力の証だろう。
そんなタイム測定が続くなか、田崎怜奈のタイム測定をしている最中で次の順番を待っている小島順菜と南條愛美はベンチで控えている。
3年生として今年が最後の大会を控えるとか、清流高校水泳部の部長であるとか、を抜きにしても小島順菜はリレーという部活の顔となる場所を誰にも譲りたくはないのが本音。
それに本人には決して恥ずかしいから言わないが憧れている田崎怜奈の隣を奪いたくはないが、だけどこれは一方的なわがままなことだろうと小島順菜は考える。
ふと、小島順菜は隣にいる南條愛美の顔を見るとそこには更衣室の時のような恐怖でいっぱいな顔はしていない。
寧ろ、覚悟が引き締まったいい表情をしていた。
「南條さん、更衣室ではびっくりさせちゃってごめんね」
「いえ、全然」
唐突に話をかけたのが、これは小島順菜が更衣室での発言は3年生として上級生としては大人気ないことをしたなと反省をしたからである。
それでも、言ったことは真実だ。嘘は一つもない。
「南條さんはさ、私のことどう思っている。怒らないからさ、どんなことでもいいから言ってよ」
急にそんな質問をされて驚き何を言おうかと迷ってしまったが、ほとんど話したことがないが、いつも部活で見ている印象と思っていることを話した。
「私は「誰に対しても優しい」「周りが見えている」「気配りができる」ことが小島先輩を見ていると感じました」
「そっか…」
少しばかりため息をつく小島順菜を見て南條愛美は「余計な一言を言ったか?」と思ったが、小島順菜はそのことが気がついたかのように続けて話した。
「でもね、それは私が臆病なだけなんだよ」
「臆病?」
「うん。「言い返せば何か言われるかもしれない」「困っている人がいたら助けなければ何か思われるかもしれない」とかね。私はいつも思っているんだよ、私なんて表面上は優しいだけだし、それ以外に何もない。水泳部員、皆んなも思っているんじゃないかな?私よりも玲奈の方が部長に向いているはずなのに、何故私なのって?」
「そんなことは…」
しっかりやってくれているのを南條愛美は知っている。
部活で使うビート板などの用意も片付けも本来は1年生の役目の筈なのに、率先して用意したり、プールの鍵もいち早く開けたりとやってくれていることは多い。
それでも、本人からしてみれば「誰かに何かを思われるのが怖い」からなのだろうと思い、南條愛美は余計な発言はしなかった。
「あるよ。私が部長になった時に色んな人が陰で言っていたのを聞いているから。怜奈は泳ぎも、考え方も完璧でそんな怜奈が清流高校を引っ張っていけばもっと早く変われたはずなんだよ。私は、人の顔色ばかり伺って自分の気持ちに蓋をしているのが臆病以外に言葉が思い付かない…それに、こんな私が部長をしているのが恥ずかしい…」
「そんな気持ちで部長をしていたのか?」と初めて小島順菜という人間の気持ちを知ることとなった。
だけど、知ったとしても彼女の過去を全て知ったわけではない。
それでも「朝から見せているあのやる気に満ち溢れた表情と気合はどこからくるものなのか?」と疑問に思ったが、その疑問には小島順菜の続きの言葉が答えてくれた。
「ちゃんと自分の水泳に対する考え方があって、誰に対しても言えることも言えて、私はそんな怜奈に憧れている。私は凄く怜奈が眩しくて、追いつきたくても追いつけなくて、でもそんな怜奈と泳げるのはリレーだけなんだ。こんな嬉しいことはないくらいにリレーっていう競技には感謝してる」
思いが強すぎて一歩引かなかったといえば嘘にはなるが、憧れな人と泳ぎたい気持ちは理解はできる。
小島順菜は今年で高校生活最後の大会で、ここで誰かに負ければもう大会には参加できなくなり、すなわち、それは引退を意味していた。
憧れてもある田崎怜奈とはそもそも出る個人種目が違うために、勝負もできない、だから、リレーでの一緒に参加することに誰よりも一生懸命で本気だった。
この先の人生で田崎怜奈と一緒に水泳をやることは、全くないと言っていいほどにありえないことはわかっていたのでここが最後の砦となってしまっている。
ちょうどいいタイミングで、吉岡理恵が呼びに来たと同時に小島順菜は立ち上がった。
「そんな私だけど、本気でリレーのメンバーを取りにいくから。そして、全国へ行く、それが私の目標。だから、負けないよ」
そのまま、歩き去っていくのを南條愛美は見ていることしかできなかった。
南條愛美は「自分なんてただ選ばれただけでここにいる」なんて小島純菜に比べればちっぽけな理由でここに立っていることが、恥ずかしくなったがリレーのタイム測定で負けるつもりはない。
そして、立ち上がり思う。
いつの日か、桜坂花蓮とリレーに出れる日が来てほしいと願いながら、その場を後にした。




