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2-22話:VS付喪神ペルセウス像




「あら、本当にダンジョンゲートがあるわね。まったく竜ちゃんはいつから預言者になったのかしら。」



白い髪を靡かせながら美術館前に発生したダンジョンゲートの前に九十九里蘭華が立つ。そして無線機を取り出した。二条信虎に無線機を繋ぐ。



「こちら九十九里。ダンジョンゲート確認。モンスターの出現の有無は不明。以上。」



『了解。動きがあれば報告。』



「了解。」



無線機を腰に付けたホルダーに戻し、黄金色の棒を取り出す。



「アーティファクト、起動。聖鉄槌ウルカヌス」



黄金色の棒から粒子が飛び、柄の長い戦鎚の形へと収束した。黄金色の戦鎚は細やかな装飾がされており、まるでひとつの美術品。王笏のようであった。



片手で弄ぶようにくるりと回し、重りの方を上に向けて肩にかける。



「動きなし、モンスターなし、うーん。もうモンスター出ちゃったかしらね?困ったわぁー。」



肩に掛けていた戦鎚を浮かせ、重りを下に降ろす。重りを地面に落とし、木琴のような高く重い音を鳴らした。アーティファクトである聖鉄槌ウルカヌスの能力のひとつ、重りを物体にぶつけることによって魔力の場所がわかると言う能力を使い、モンスターの場所を探る。脳内に潜水艦のソナー探知画面のような感覚が浮かぶ。



「生き物の魔力ひとつないわね。不気味なくらい静かだわ。」



再び肩に戦鎚を掛け、ダンジョンゲートを横目に、優雅に歩き始める。すると、ダンジョンゲートが消滅した。



「あら、終わり?不気味だわ。」



ダンジョンゲートの消失に不吉さを覚えながら無線機を取る。



「こちら九十九里、ダンジョンゲートの消失を確認。」



『了解、異常の有無を確認しだい本部へ帰隊。』



帰隊せよ、と二条信虎が言い終わる前に無線機を投げ出して、地面を蹴り、その場を離れた。その後すぐに、何かが飛んできて、近くで轟音が鳴り響かせた。何者かによる投擲を利用した攻撃だ。魔力を感じぬ攻撃に驚きながら辺りを見回すと、美術館の屋上に人影が見えた。



指で輪っかを作り、視覚を良くする魔術を眼球に掛けてから覗くと、人影がはっきり見えた。全身が白い身長150センチほどの男がそこに居た。白い男に注視していると、白い男が背を向け、回転し始めた。魔力の察知ではない第六感のような物を感じ、再び地面を激しく蹴ると、また爆音が真隣から響く。九十九里にはハッキリと真横を白いフリスビーのようなものが落ちるのが見えた。間違いなく、白い男が投げているのだ。まるで円盤投げの選手のようであった。



「付喪神ってそういうことなのね。納得だわぁ。打ち返したくなるのだけど、あの威力を2度も見ちゃうと好奇心よりも恐怖が勝つわねぇ。」



距離の離れた場所で遠距離攻撃が得意な敵と戦うのは愚策。九十九里は美術館に向けて走り出した。



ダンジョンゲートが現れた美術館の名前は川岡市作田美術品。作田製薬と言う会社がスポンサーとして資金提供をした世界的な美術品のレプリカが展示してある美術館だ。沢山の絵画や彫刻がレプリカとして展示されてある。そこを踏まえて、フリスビーのようなものを投げてきた白い男は、恐らく彫刻家ミケランジェロが制作した円盤投げの選手を彫った作品であるディスコボロス像のレプリカに付喪神が宿ったものだろう。付喪神は道具に宿るイメージだが、この付喪神は何にでも宿れるらしい。



低く長く跳びながら戦鎚を振り上げ、美術館のドアを叩き割り、中に入る。戦鎚の柄を短くしながら床で身体を回転させ、着地する。



着地し終えて前を向くと、そこには沢山の生き物が空中を舞っていた。銅で作られた魚が宙を泳ぎ、紙の鳥が室内を飛んでいた。舞っていた偽物の動物たちが一斉に九十九里目掛けて体当たりするかのように飛んでくる。偽物の動物たちがミサイルのように飛んでくるのに対し、九十九里は戦鎚の柄を再び長くさせ、重りを軽く下げてから振り上げた。振り上げたことにより発生した衝撃波が空気に伝わり、偽物の動物達に伝わることで全身を破壊した。



「不思議ね。この子達には魔力がまるでないわ。破片すら魔力を感じない。まるで電池が入ったラジコンね。」



呟きながら小さな生き物の彫刻だった物の破片を踏み歩く。目指すのは二階への階段。様々な生き物の彫刻に注意を払いながら前に進むと、廊下に接している部屋の扉から見えるダイオウイカの模型に違和感を感じて足を止めた。瞳が僅かに動いた気がしたのだ。



瞬時に動けるよう戦鎚の柄を短くし、視線を向けながら歩く。視界からダイオウイカが消えかかったその時、ダイオウイカの脚の一本がボクサーの構えのように収束した。攻撃に身構えていると、扉と繋がっていた壁ごと貫いて脚が伸びてきた。脚を戦鎚で叩き壊し、避ける。



九十九里が柄を伸ばして両手持ちに持ち方を変え、横に戦鎚の重りを下ろしてから壁に向けて振り、壁を壊す。壁に穴を開けることでダイオウイカがいる部屋に侵入した。



ダイオウイカが破壊された1本以外の9本の脚を収縮させ、九十九里に向かって伸ばす。その脚を柄を短くした戦鎚でかわし、距離を縮める。そして、ダイオウイカの脚を足場に跳び上がる。空中で戦鎚の柄を伸ばし、そのまま頭部へ向けて重りを振り下ろした。



振り下げた鉄槌によってダイオウイカの頭が破裂した。



「案外脆かったね。作品名は、『夜闇のクラーケン』。クラーケンって脚十本だったかしら?まぁどうでもいいわねぇー。」



一息ついて、ダイオウイカに見えるクラーケンのいた部屋から廊下に抜ける。長い廊下の観光客向けの階段がある方面を見ると、そこには白い人間が立っていた。



上裸に腰布を巻き、麻布袋を片手に剣を持つ彫刻像の男。頭の羽が生えた兜がトレードマークな大理石の彫刻はアントニ・カノーバンの作品であるメドゥーサの頭を掲げるペルセウスだ。恐らくあの麻布袋の中身はメドゥーサだろう。



ペルセウス像と九十九里。お互いが距離を詰めるように歩みを進める。お互いの表情が見えるくらいの距離に達した時、ふたつの足音が消えた。



ペルセウス像が、ハルパーと呼ばれる剣先付近が三日月型に曲がった片手剣で柄を少しだけ短くした戦鎚を受け流す。受け流したことで隙が出来た九十九里目掛けてペルセウス像が突き刺そうとしたが、柄を伸ばして地面を押し退け、距離を取ることで回避した。



長く伸ばした戦鎚を手元に引き寄せる。ペルセウス像は攻撃の速度が早い。さらに、戦鎚の威力を受け止めることが出来る。重い攻撃しか出来ない戦鎚では不利だ。



なら、どうするか。答えは単純だ。先端を重くしなければ良い。



柄を2メートルほどの長さにし、重りを柄と同じ太さにする。すっかりハンマーとしての形状をなさなくなった戦鎚はまるで西遊記の孫悟空が持つ如意棒のようであった。九十九里は戦鎚を槍のように両手で持ち直した。



「久しぶりの槍兵スタイルねぇー。通用すると良いのだけど。どうかしら。」



何も語らぬペルセウス像がハルパー横に振る。その動きに合わせるように戦鎚の柄で流し、再び迫るハルパーとまた叩き流す。何度も繰り広げられる剣と槍の攻防による衝撃で発生した金属音が館内を響かせる。



一歩も引かぬ攻防に動きを見せたのはペルセウス像。麻布袋を剣で縦に切り込みを入れて、何かを見せようとした。その麻布袋の正体は、恐らくメドゥーサの頭部。目が合っただけで相手を石にする魔眼を持つ怪物の頭をこちらに向けてくるだろうと察知した九十九里は戦鎚の重りを床に当てて跳ねさせながら後退する。重りが当たった床から土壁が生えてきて、九十九里とペルセウス像との視界を妨げた。



彼女の持つアーティファクトの聖鉄槌ウルカヌスは鈍器であるが、同時に魔術を行使する杖でもある。聖鉄槌ウルカヌスの重りは、ノーモーションで詠唱無しに魔術を行使することが出来る。通常の魔道具であれば魔力が魔術を完成させるまでの数秒の時間がかかるが、この聖鉄槌ウルカヌスは重りを物体に当てるという条件さえ満たせばコンマ数秒で済む。



視界を遮ることでメドゥーサの魔眼による石化を防いだ九十九里は、複数枚の土壁が遮っている正面から物音がすることに気付く。ペルセウス像が土壁を一枚一枚破壊しているのだ。耳を澄ませて近づくペルセウス像に備える。そして、最後の土壁が壊れた。粉塵が正面の景色を包む。正面の視界を遮るものが無くなったというのに、そこにペルセウス像はいなかった姿を隠せるものは何もない。繋がっている部屋もない。なのにも関わらず、そこにペルセウス像がいない。



数秒思考を巡らせた後、思い出した。ペルセウスの神話には透明になれる兜を持つという。つまり、ペルセウス像は今透明になっているのだ。



砂を床に撒いて居場所を知る方法を思いついたが、ペルセウスには空を飛べるサンダルの話があるため、陽動に使われそうなのでボツ案だ。



床に戦鎚の重しを一度付け、火を灯してスプリンクラーのセンサーに向ける。スプリンクラーから水が放射状に噴射され、ぼんやりと人影が写った。



耳を澄ませる、目の前の不自然な水滴を辿る、息を吐いて感覚を研ぎ澄ます。



後ろから、強い違和感が襲いかかってきた。



反射的に端へ足で床を蹴り、何かを避ける。ほぼ無自覚の行動に自分でも戸惑いながら九十九里は前に視線を戻す。するとそこには白い円盤が刺さったペルセウス像がそこにいた。九十九里が避けた円盤がそのままペルセウス像に当たったのだ。ペルセウス像が倒れ込み、白い破片となって崩れた。



「ラッキーって言うものなのかしらね。」



ボヤきながら後ろを振り返る。屋上から円盤を投げていた白い男が見えた。古代ギリシャの円盤選手の彫刻なのだろう。一息置いて、円盤投げ選手像に向かって走る。円盤選手像は円盤を手元から生成して身体を一回転させながら円盤を投げた。身体を捻って円盤を回避する。再び円盤を作り、円盤選手像が身体を回転させながら投げる。九十九里は身体を低くし、スライディングするかのように体勢を変えてかわす。距離が詰められることに投げてから軌道を読むまでの時間が無くなっていく。再び投げられた円盤を柄を短くして重りを元の大きさに戻した戦鎚で叩く。円盤選手の投げる円盤を叩きながら距離を詰める攻防が何度も続き、そして円盤選手像の目の前まで来た。



「ただの大理石に戻りなさぁ~い!ていや!」



円盤投げ選手像は戦鎚によって粉々に破壊されたのであった。












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