2-21話:VS牛鬼
【54話】世界救ってから10万年。死ぬほど頑張って世界救ったのに眠りから覚めたら知り合いみんな死んでて10万年経っていた件 ~魔王倒したのに報酬が未だに払われない
二条さんとの会議から5日が過ぎた土曜日、百鬼夜行当日の17時半。川岡駅周辺は静まり返っていた。理由は明白。川岡市大田町、つまり川岡駅周辺に一週間前から緊急避難警報が掛かっているからだ。緊急避難警報が掛かっているのにモンスターが一体もいない中、自衛軍と呼ばれるこの世界の自衛隊が配置についている。
そんな中、俺は川岡駅から徒歩10分の場所にある公園前の路地に来ていた。
「村田は僕の見える安全な場所にいろ。僕が一体倒すごとに解呪。もちろん僕も自分で解呪するがな。正直僕はお前を必要としていない。だが、これは信虎隊長の命令だから仕方無く従ってるだけだ。足手まといにだけはなるなよ。僕は君を助けてやらんからな。」
「了解です。」
これ以上話していても無駄なのでただ返事をするだけにとどめておく。
「来たな。」
ダンジョンゲートが公園の中心に現れる。
「こちら三好。作戦通り公園内にダンジョンゲート発生。」
『おう、こちら二条。了解。早かったな。こっちもモンスターの群れが来たぞ。デカいダンジョンゲートからうじゃうじゃとモンスターが沸いてやがる。おっと、作戦班長が儂をお呼びだ。こりゃ勝手にお前らを動かしたのがバレたな。まぁいい。とにかく、ダンジョンゲート了解だ。牛鬼で間違いなさそうか?』
三好さんが無線機を取り出し、二条さんらしき声と話す。
ダンジョンゲートが蠢き、中から六本足で歩行する鬼が3匹現れる。
「ちょうど今現れました、間違いなさそうです。」
『そうか。では、頼んだ。』
「了解。」
無線機を腰ベルトの入れ物に戻し、腰に付けた鞘から刀を引き抜く。
「戦闘開始。」
そう、自分に喝をいれるため口にした瞬間。明後日の方向を向いていた牛鬼の一匹が三好さんの前に現れ、前脚を上げて振り下げる。その動きに瞬時に反応し、剣で抑える。突然の奇襲によって出来た隙を見逃さず、前から別の牛鬼が三好さんの横に迫り、さらにもう一匹の牛鬼が跳んで迫る。俺が魔術で衝撃波を作って跳んだ牛鬼に当て、剣で横の牛鬼を抑えた。
「乱戦は避けたい。二匹お願い出来ますか?」
あまり会話のしたくない相手ではあるが、状況が状況な為、俺が指示を出す。三好さんとしては俺に指示を出されて気に食わないだろうが、飲んでもらうしか無い。
「わかった。」
「では、俺がマンションの上に行きます。」
「了解。」
素直に指示を飲んでくれたことに驚きつつ、一体の牛鬼に対し魔術の火球を撃って気を引きながらマンションに向かって走る。作戦通り1匹の牛鬼が俺を追う。まるで餌を追う虫だ。牛鬼の速度に合わせて俺は重力に逆らってマンションを走る。
壁を走る技術は魔術では魔力の使い方によるものだ。靴底に魔力を集め、壁に流れている魔力と繋ぐ。ありとあらゆる物体に魔力が流れているので、当然壁にも流れているのだ。その魔力を利用してマンションの側面を走っている。
俺と同じように、牛鬼も側面を走る。鋭い爪を壁に刺して走っているのだ。まるでロッククライミングだ。
マンションを登り、屋上に着く。そして後ろに下がると数秒後に牛鬼が到着した。
「ここなら見てないだろ。」
このマンションは30階建て。人の目はなく、防犯カメラは見当たらない。もしかすると小さく写っているかもしれないが、拡大しても魔術の正体が何かはわからないだろう。
「仮装・聖剣エクスカリバー、起動。」
内部の魔力を遮断する結界を作り、仮装・聖剣エクスカリバーを剣に宿らせる。世界最強を誇る俺の聖剣を模した魔術だが、偽物でも効果は絶大だ。
地面を蹴って前進し、剣を振り下げる。牛鬼が前脚で剣を防ごうとしたが、あまりにも鋭い切れ味を持つ仮装・聖剣エクスカリバーを宿らせた剣は前脚を爪ごと斬り、道を開けるみたいに牛鬼の身体を縦に一刀両断した。
縦2つに分かれた身体は煙のような何かを発しながら爪を残して消える。この煙のような何かはきっと二条さんが言っていた殺した相手を牛鬼に変える呪いの正体だろう。俺が牛鬼にならずに済んだのは仮装・聖剣エクスカリバーのお陰だ。試しに煙のような何かに向けて上級の解呪魔術を放ってみると、見事に消えた。解呪魔術は効きそうだ。
仮装・聖剣エクスカリバーを解除して、落ちるように降りる。三好さんと戦っていた2匹の牛鬼のうちの1匹が俺に向かって来て、勢いよく俺に爪を振り下ろしたので、剣で受け止める。やはり仮装・聖剣エクスカリバーを宿らせない剣では切れ味が足りない。
無詠唱で岩の弾丸を放つ。体に傷は入ったが、致命傷には至らなかった。それでも飛びかかってくるその勢いを殺すには十分な威力であった為、岩の弾丸が当たった位置で落ちていく。
空中から落ちた牛鬼とは少し離れた場所に着地した俺は空中に岩で作られた魔術の剣を展開し、一斉に放つ。大量の魔術の剣に抵抗するかのように牛鬼の口から強酸の毒を吐くが、溶かしきる事が出来ずに数本の剣が牛鬼の体を貫く。そして、俺が大きな岩の塊を牛鬼の上に展開させ、身体を押し潰した。黒い煙のようなものが俺に向かって飛んできた為、上級の解呪魔術で消す。
これで残る牛鬼はラスト1匹。三好さんに駆け寄ろうと足を進めた時、違和感を感じたため振り返る。
するとそこには、複数の牛鬼が俺を狙っていた。
油断していた訳ではない。ゲートから出てきた牛鬼は三体。これは間違いない。別の場所にゲートが出来ていた可能性はあるが、もし出来ていたとしたら俺が見逃さない訳がない。
そうなれば、やはり俺が今さっき倒した牛鬼が何かしたのだろう。何をしたかはわからない。
身体を新たに生まれた牛鬼に向け、ジェットエンジンのように風魔術を使うことで牛鬼と距離を取る。
三好さんと背合わせになった。
「どうやら牛鬼は殺された相手以外にも呪いを押し付けることができるみたいです。いや、もしかすると牛鬼は単体で増えるのかも。」
「そうか。牛鬼は自分を殺した相手を牛鬼にする呪いを持つ。その前提が崩れないのだとすれば、きっと何によって殺されたかを選べるのだろう。または、かすり傷でも共闘に含むだとかだろうな。」
「蚊に刺されただけで一緒に殺した認定にするとかですか?」
「そうだ。村田、四匹の牛鬼を殺さずに足止め出来るか?ここら一体を吹き飛ばす。」
「いけます。」
三好さんが魔術で上空に浮く隙を作る為に、俺は四方に土壁を作る。その土壁を牛鬼が登ってきたのと合わせて、土壁を爆破させた。それにより四匹の牛鬼が四方に吹き飛ばされる。
四方からの敵。乱戦の中では、背後の安全を確保するのが1番大切だ。
牛鬼の脚と足の間を滑るように抜けて距離を取る。牛鬼の身体によって俺が見えなくなったことで牛鬼の興味が空中に浮いている三好さんに向いた。俺は牛鬼に岩の弾丸を放つ。
「こっちだ牛鬼!よそ見してんじゃねーぞ!」
人間の言葉がわかってはいないだろうが、自分らに向けて声を掛けているのはわかるのだろう。俺が背後にいることに気付いた牛鬼が俺に向かって襲い掛かる。知能の低いモンスターの相手は単純で助かる。
仮装・聖剣エクスカリバーを宿らせていない剣で牛鬼4体を相手するのは骨が折れるが、できないことは無い。
右から左からと切り込んでくる牛鬼の爪を剣で払い落としながら攻撃を避ける。顔から正面に傷を入れて殺しても良かったが、殺したことによるトリガーで牛鬼が増えられても面倒だ。
牛鬼の脚と爪の間の部位に刃を入れて切り落とす。後ろに回った別の牛鬼からの噛みつきによる攻撃を避けつつ、距離を取る。このままでは三好さんの魔術の射程圏外に移動してしまいそうだ。
息を吐き、思いっきり息を吸う。勇者時代からの癖だ。集中を促す合図でもある。一瞬だけなら、人間離れした実力を出して良いだろう。どうせ三好さんは魔術の詠唱に集中しているのだから。
「五重複身体強化魔術、三重複物体強化魔術、起動。」
五重複身体強化魔術で身体の馬力を上げ、三重複物体強化魔術により剣の強度を上げる。三重複に留めているのは物体強化で乗せる魔力によって剣が壊れないようにだ。
柄を握ったその握りこぶしの部分を腰まで持っていき、体勢を低くする。一歩踏みだし、二歩目で強く地面を蹴った。蹴り上げた勢いで宙に浮くのと同時に刃先を低く上げて、下ろす。下ろした刃先になぞられるように牛鬼の足は胴体から離れて単体の肉となる。ホースを振ることにより出ていた水が弧を描くように、剣を振るうことで刃に通していた魔力が弧を描いて飛ぶ。今、足を切られた牛鬼の足は全て切られ、他の牛鬼は数本の足が跳んだ。
「三好さん!」
「よって、我が力とする。滅べ!上級魔術、ホーリーテンペスト!」
辺り一面が光に包まれるのであった。
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