2-21話:井戸端会議
「んで、妾に意見が欲しいと。ひとつ聞くがソナタは妾が他の者に口を滑らすと思わんのか?妾そこまで口が固くないぞ。」
「もし漏らしたらその時は寝返ったと見なして殺すだけだ。いや頼むんで漏らさないでくださいジェヘラしか相談出来る相手がいないんです。」
「あの誇り高き勇者がこの有様とは。哀れじゃのう村田優希。」
作戦会議の次の日である月曜日。現在時刻17時35分。俺は自分で作った倉庫の下にある違法練習場の休憩室で茶菓子を口にしながら熱い緑茶を飲んでいた。暑くなり始めたこの時期に熱いお茶を飲むものではないが、冷房のかかった部屋でなら至福の1杯だ。そのお茶会のメンバーは3人。人類の希望であった勇者である俺と、絶望を体現したかのような忌々しき魔王であったジェヘラ。そして……。
「優希は弱りました。世間体を気にし、弱者を守り、一騎当千の力は衰え、魔王なんぞと仲良くする。私は悲しいです。」
モモ先生である。
モモ先生とジェヘラの顔合わせは俺の家が燃えてから3日後の夜。用事があると言って二条家の送迎を断り、尾行をまいて練習場まで来た後にジェヘラを呼んだのだ。そしてモモ先生を召喚し、今に至る。
「それジェヘラの前で言いますかね?そんなことよりも今は百鬼夜行についてです。ふたりはどう思います?」
「百鬼夜行なんて現象は聞いたことがない。モンスターパニックに似ておるが、それはダンジョンからモンスターが溢れる現象じゃ。優希の説明にあった百鬼夜行とは似ておるが、発生源を考えるに全くの別物じゃろう。」
「私も同意見です。ただ、その魔力溜まりという現象があることより、魔力の容量が漏れてモンスターという形で溢れ出たと考えることも出来るかと。」
モモ先生には喋れる知識に縛りがある。縛りの内容は俺の知っている知識の関連しか話せないことだ。例えて言うなら、江戸時代の人間と話す時に銃剣やアサルトライフルの話はできるがスマートフォンや二酸化炭素の話はできないといったところだろう。
「モンスターも言わば魔力から生成された生き物ですもんね。」
「その仮説に間違いがないとして、問題はその容量としての容器が何であるかじゃな。」
「モモさん、容器が何か知っていますか?そもそも話せる内容ですか?」
「話せる内容ですよ。残念ながら話せる知識はありませんが。」
「それでは意味がないではないかモモ殿。」
「そこまで言うのであれば、ジェヘラさんは何か知っているのですか?」
「何も知らん。何が何かさっぱりじゃ。」
「そうですか。」
清々しいほどの回答にモモ先生は冷たく言い放つ。ただそこには落胆や失望などはなく、慣れ故の抑揚のなさを感じられた。
「百鬼夜行の正体はわからないって事で、次は戦略だな。ジェヘラには影にモンスターを潜ませて、いざと言う時に戦わせて欲しい。出来るか?」
「出来はするが、影に潜んでいることが二条隊にバレるのではないか?少なからず隊長には見破られるであろう。奴は特殊じゃ。何せ1キロ先の儂の視線に気付く男じゃからな。」
「私の優希なら5キロ先でもわかりますけどね。」
「弟子自慢は辞めよ。」
「5キロ先は流石に無理ですよ。二条さんに気付かれるのであれば、電柱の影にでも忍ばせといてくれ。それくらいならいけるだろ?」
「それくらいなら可能じゃ。たく、ソナタは妾をよう便利に使ってくれよるのぅ。」
「その調子ですよ優希。もっと魔王をこき使いなさい。」
「オヌシは少し黙っててくれんかの?」
モモ先生とジェヘラの漫才のような会話を聞き流しながら地図を眺める。
昨日の作戦会議を思い出しながら、熟考する。百鬼夜行の目的は、モンスターの進路を考えるに、間違いなく邪神の核の破片だろう。そもそも百鬼夜行自体に意志や目的があるのかは不明だが、もしあるとするのなら邪神の核の破片以外に理由がない。
俺とジェヘラ、そしてモモ先生との結論の出ない雑談という名の話し合いはモモ先生の召喚終了時間まで続くのであった。
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