2-20話:根拠なき断言
「ではこれより、作戦会議を始める。まずはこの地図を見てくれ。」
地図が描かれている資料を渡され、見る。地図は川岡駅を中心に半径1キロほどの範囲で描かれている。地図には大きな矢印が書かれており、帝都高に先端が向けられている。
「見ての通り、モンスターは二条公園を通り、川岡駅を目指して進行する。最終目標地点は恐らく帝都高だ。魔力の溜まりを頼りに奴らは進行するそうだ。儂らは川岡駅にてモンスターを待つ。他部隊と一緒に叩く形となる。」
「魔力の溜まりって何です?オラぁ初見ですぜ?」
大股を開いて座り、ペラペラと資料の端を摘んで揺らし、また指で曲げて親指を使い形を戻す。
「ワシにもわからん。だが、空気中の魔力の濃さがわかる以上、魔力の溜まりもあるのだろう。蘭華、お前何か知らんか?魔力現象に詳しいだろう。」
「知らないわぁ。そもそも、そんなワード聞いたことないわね。そもそも私からしたらこの矢印ちゃんも怪しいわ。竜ちゃんホントに知らないの?」
足を上品に組んだ九十九里さんが柔らかい口調を崩すことなく尋ねる。柔らかい口調ではあるが、この作戦に対して好意的に感じていない為か、笑顔はない。
「知らんな。」
「竜さんのことあんま悪ぅ言いたくないんですが、戦略課のこと信用しすぎやしません?10年前の悲劇、忘れたんすか?」
悲劇とは何かはわからないが、きっと戦略課の建てた作戦が大失敗したのだろう。五十嵐さんの視線が鋭くなる。
「戦略課は信用せんでいい。だが、儂のことは信じろ。分かったな?」
「信じるわ。竜ちゃんごめんなさいね?疑って。」
「いや良い。疑問点は一緒に解決して行こうぞ。順次郎、それで良いか?」
「あぁ良いですよ。俺は竜さんを信じます。」
溜息をつきながら頬杖を付いて地図が映されたプロジェクターに目を向けた。疑惑の念を向けていた作戦が書かれた資料は膝に置かれている。
「では、続けるぞ。」
二条さんが立ち上がり、ニヤリと笑う。
「読ませておいて悪いが、儂らはこの通りに動かん。儂の独断で動く。儂らはこう動く!」
手に持っていた指示棒を勢いよく伸ばしてからプロジェクターを叩く。するとタイミング良くプロジェクターの地図に複数の丸印が映し出された。その丸印に向けて矢印が複数伸びる。
「時刻にして1730。儂らは分かれて、この場所に向けて発つ。」
「場所の根拠は?」
「ない!儂が夢で見たからだ。不満か?」
「いいえ、それでこそ隊長だ。」
テルツォさんがニヤリとした笑みを浮かべて二条さんを賞賛する。五十嵐さんがニヤニヤと嬉しそうに笑い、九十九里さんは笑みを浮かべた。三好さんは相変わらず無表情だが、先程と比べ会議に興味を向けているように見える。
「次に各敵のポジションと性能だ。情報源は聞くな。儂が正夢を見たとでも思ってくれ。」
プロジェクターの画面が変わり、天狗が描かれた浮世絵に変わる。
「まずはコイツ。ガーディアン内ではウィングオーガと呼ばれているが、普通に天狗だな。ダンジョンでも見るが、コイツはひと味違う。この天狗は魔術を使う。風を操るだけの普通の天狗とはそこが違う。」
「ドラゴンのブレスみたいなものですか?」
「いや、それとは別物だ。この天狗、仮称大天狗は俺ら人間同様魔術を使うのだ。火を操り、風を飛ばし、植物を生み出せる。魔術と言うより妖術だな。奴は手数が多い。ベアトリーチェに任せる。」
ドラゴンのブレスは秋葉原ダンジョンで遭遇したケルベロスと同じ口内の放火器官によるもの。魔術ではない。
「私に任せてくれるのは光栄だ。バックアップは付くのか?」
「帝都高のガーディアンを三人付ける。アイニールとアバク、北西だ。プロフィールは後で送る。」
「ガキのオモリは困るのですが。」
テルツォさんが苦言を呈する。
「弾除けに使っても構わん。上手く活用しろ。」
「二条さん。俺の知り合いにそんな扱いをしないでください。」
心無い言葉に俺はつい二条さんを睨んでしまった。まともに話したことがあまりないとはいえ、アイニール先輩とアバク先輩は大事な生徒会仲間だ。そして、アリサ先輩は俺の数少ない友人であり、戦友であり、大切な仲間。自分の知り合いである三人がゴミみたいな扱いをされていては誰だって黙っていられないだろう。
「ガーディアンは命を捨てて国を守る組織だ。足手まといになるくらいなら死んだほうがマシだと本気で考えている。少なからず僕はそうだ。そしてアイツらもそう思っているはずだ。アイツらをこれ以上馬鹿にするのはやめてもらおうか。」
三好さんが俺を非難して睨むがそんなことはどうでもいい。
「星音。そこまでにしてやれ。優希はここの人間ではない。故に価値観が違う。悪かったな優希。配慮が足りなかった。」
「いえ、こちらこそ水を差してすいませんでした。」
「いやいい。話を続けるぞ。さっきの話通りベアトリーチェは大天狗を相手してもらうがいいか?」
「はい、任せてください。」
テルツォさんが胸に手を当て頷く。
「次はこいつ、付喪神だ。怪談では道具に宿る妖怪として知られているが、今回奴らが宿るのは美術館の石像。複数体で来る。現代美術が物理的に襲ってくるぞ。こいつは蘭花にやってもらう。」
「まかせて頂戴。ちなみになのだけど、壊しても良いのよね?」
二条さんの横に座っていた九十九里さんが足を組み変える。
「もちろんだ。作品の弁償費用は国が持ってくれる手筈だが、もし後々ゴネられたら儂が出してやる。」
「それはあーんしーん。竜ちゃん太っ腹ぁー。」
甘えたような笑みを浮かべながら両手の指を組ませて顔の横まで持っていき、身体と一緒に傾ける。
「順次郎。お前にはこいつを頼みたい。亡霊だ。鎧を着た侍の亡霊。奴は見ての通り刀を使う。しかもかなりのやり手。手下として様々な動物の霊も使ってくるぞ。場所は地下鉄ホーム横の長い通路。いけるか?」
「二つ返事をしたいのは山々ですが、俺光魔術いけねぇっすよ?」
「儂所有の秘蔵アーティストを貸してやる。ゴースト系モンスターに特攻があるやつだ。腕ある奴と殺るの、お前好きだろう?どうだ?」
「あぁ、それなら任せてくだせぇ。綺麗さっぱり冥土に送ってやりますよ。」
刀の柄を撫でながらニヤリと含んだ笑みを浮かべる。
「そして星音と優希!お前らはこいつと戦ってもらう、牛鬼だ。こいつ自身が殺した相手とこいつを討伐した相手を牛鬼にする呪いを持つ。解呪は優希。討伐は星音にしてもらう。」
「僕解呪も出来るんで村田いらないですよ。」
「そう言うな。ふたりでやれ。わかったな。」
「了解です。」
俺に対して嫌悪を隠さない三好さんとペアを組ませたのは若さゆえの実力不足だろうと思いつつ、三好さんに視線を向ける。壁に背を預け不服そうな顔をしていた。なんで異世界人ってのはこんな美形なんだよと、つい愚痴をこぼしたくなる。
「儂は川岡駅にて指揮を執る。各自持ち場には18時丁度に到着を目指す。全体通して質問は?」
「俺からひとつ。出てくるモンスターがやけに妖怪見てぇですけど、そこについては理由聞いてええんですかい?」
「何故妖怪のようなモンスターが沢山出てくるのかはわからんが、恐らく土地柄だろう。ダンジョンではダンジョンの内装に合ったモンスターが出てくるだろう?それと同じだと予想する。」
「そうですかい。今回の竜さんは隠し事が多そうですが、聞かんでおきますよ。例えば、妖怪ばかりで百鬼夜行みたいだ、とかね。十年前の百鬼夜行と呼ばれとるモンスターホールの大量発生の日付と今回の日付が同じってのも聞かんでおきます。竜さんはいつもそうっすからね。アンタは強引だ。俺等隊員のことを何も考えない。でもそこが、俺は好きですよ。」
「何だお前気持ち悪い。信頼してくれるのは感謝であるが、そこまでだと寒気を感じるぞ。まぁ、そうだな。聞かんでくれると助かる。他、質問あるか?」
発言権を一応自分も持っているだろうからと手を上げて質問する。
「優希、何だ?」
「もし現場に想定されたのと違うモンスターがいた時はどうすればいいですか?」
「儂に報告、その場で対処だな。なぁに、心配するな。儂が何とかしてやる。全霊をもってな。」
自らに向けた過信は自信の表れなのか驕りなのか。二条さんは淡々と答えたのであった。
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