2-19話:虎の群れ
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朝食を食べ、昼食前の稽古をした後に昼食のうなぎを腹に収めた俺はガーディアン本部の庁舎裏にある記念館のような施設に来ていた。理由は一週間後に始まる本物の百鬼夜行に向けた打ち合わせと、俺の紹介だ。
「んで、コイツか虎さんのお気に入りでっか?随分と若ぇ男ですな。君、歳いくつ?」
「15です。」
「若ぇ若ぇ。最年少じゃんよ。」
赤みがかった黒いロン毛に顎髭を軽く生やした30代くらいの男が手持ち無沙汰なのか刀の柄を撫でながら椅子に座っている。人前で刀の柄に触れるのは、いつでも戦闘できる状態を示す行為だ。相手に敵意があると思われやすい。きっとただの手癖なのだろうが、あまり良い癖ではないと思う。
ちなみに虎さんとは二条さんの下の名前である信虎の愛称だ。
「柄を触るな順次郎。すまん少年。こいつは手持ち無沙汰だと柄を触る癖がある。別に敵意はないし危害も加えるつもりはない。安心してくれ。」
「気にしてないので大丈夫ですよ。」
二条さんに渡された顔写真付きの名簿を見比べながら返事をする。
五十嵐さんを叱った彼女の名はベアトリーチェ・テルツォ。絹のような光沢のある金髪をボブカットに揃えた背の高い女だ。年齢は25くらいだろうか。エナメル素材の服と鞭が似合いそうな女だ。
そしてテルツォさんに叱られているのが五十嵐順次郎。年齢は恐らく30代前半。座っているため判断は難しいが、恐らく身長は180cmほどあるだろう。
「この子が虎ちゃんのお気に入り?私は九十九里蘭華よ。魔術が得意だわぁ。よろしくね?ゆーちゃん。」
銀髪と表現される長くて白い髪を靡かせながら立ち上がり、九十九里さんは手のひらを差し出した。彼女の華奢な指は力を入れたら折れてしまいそうだ。
「村田優希です。聖魔術が得意で、多少剣も使えます。よろしくお願いします。」
「えぇ、よろしく。」
優しく弱めに握り、手を離す。
「私も自己紹介をしよう。私はベアトリーチェ・テルツォ。銃を得意とする。射撃は任せてくれ。よろしくな。」
「はい、よろしくお願いします。」
「・・・俺か。おらぁ五十嵐順次郎。見ての通り剣術使いだ。よろしくな、村田くん。」
「よろしくお願いします。」
テルツォさんと五十嵐さんの自己紹介を聞き、同じくふたりと握手をする。もしかするとこの隊は自己紹介の後に握手をするのが定例なのかもしれない。
二条さんの隊の挨拶をしていない最後のメンバーに目を向ける。
「えっとー、三好さん。未熟者ですが、同じ帝都高同士よろしくお願いします。」
三好星音。尖ったエルフ耳をした美少年。金髪が輝いているかのような艶やかさを持ち、眉目秀麗な顔立ちをしている。その冷たい眼差しは、睨むだけで相手を凍てつかせてしまいそうだ。クール系の歌舞伎町ホストのようなイメージだ。
「……。」
「あの、よろしくお願い、します……。」
返事が来ないので、こちらから手を差し出す。こちらから握手を求めるのは偉そうな印象を与えそうではあるが、相手からのアクションがないので仕方がない。
「あぁ、よろしく頼む。」
返事が返って来たことに安堵したその時、鋭い殺気が俺に迫った。
三好が腰を落とし、吊り下げていた鞘から剣を抜いて俺の頭目掛けて剣を振ったのだ。寸止めする気配のない突然の斬撃に驚きつつ、頭を下げながら後方に飛んで避ける。
何故俺を殺そうとしたのかはわからないが、殺意があり相手から仕掛けてきたのなら敵で間違いない。もし彼が類稀なる実力者なら生かす価値はある。だが太刀筋を見るに、所詮は大和国上位レベルの実力。もちろん彼が本気を出していない可能性はあるが、後悔は後でいくらでも出来る。見逃して後に強大な敵として挑まれるよりかはずっとマシだ。これは経験則故の判断。感情論ではない。
残念ながら俺の腰に剣はぶら下がっていない。だが、それは大した問題ではない。
右手を手刀の形に整えて、サンダーランスを纏う。生身の人間の腹を突き破るならこれで十分だ。彼の着ている軍服がモンスターか何かの素材で作られた防御性能の優れたものだとしても、俺の魔術には及ばないだろう。
雷を纏わせた手刀を引き、突き刺すように腹目掛けて腕を伸ばしながら地面を蹴った瞬間、初老の声が聞こえた。
「優希!そこまでだ!」
二条さんの俺を静止させる声で我に返る。ここで彼を殺してどうしろと言うのだ。何故三好さんが俺目掛けて攻撃したのか不明だが、今は戦わないほうが良いだろう。
手刀に流れていた魔力を断ち、腕を引く。
「ウチの三好が悪かったな。許してやってくれ。すまない。」
椅子に大股広げて座っていた二条さんが両手を膝に乗せて頭を下げた。部下のために謝れる上に立つ人間としての素質を感じられる。
「いえいえ、こちらこそなんかすいません。えっとー。……寸止め、だったんですよね?」
「僕は本気でお前を殺そうとした。寸止めではない。」
「そうですか。」
何故俺が都合の良い勘違いをしていることにして話しているのに、彼は馬鹿正直に否定してしまうのだろう。嘘を付くと鼻でも伸びるのだろうか。
「僕の剣を避けたのなら足手まといにはならないな。改めて、よろしく頼むよ。」
「あぁはい、よろしくお願いします。」
謝罪すらない返事に対して呆気にとられ、出された手を握る。どうやら、あまり性格が良くないらしい。
「自己紹介はこれくらいで良いか?」
膝に置いていた手を押して体を起こし、立ち上がる。場にいる全員が二条さんに視線を向けた。
「ではこれより、作戦会議を始める。」
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