2-12話:養分
「秋葉原と言えばダンジョンですけど、二条先輩は秋葉原ダンジョンにはよく行くんですか?」
「あまり行かないわ。普段行くのは高尾山ダンジョンよ。」
「高尾山ダンジョンって一般人立ち入り禁止の軍事施設ですよね?あそこってどんなモンスター出るんです?」
「ゴブリンやオークなどの基本的なモンスターと、大和猿みたいな特殊モンスターよ。」
銀座で開かれていた秘密の展覧会の後、俺らは秋葉原にあるゲームセンターに来ていた。理由は二条先輩との会話でゲームセンターに行ったことが無いと知ったからだ。どうせ二人で外に出たのだから楽しませたいと言う、俺のエンターテインメント精神である。
「大和猿って顔が赤い猿ですよね?めちゃくちゃでかいとかですか?」
「大きいは大きいのだけど、大きさは大体成人男性くらいよ。」
「じゃあちょっと強いゴブリンくらいですね。」
「それは違うわ。ゴブリンよりも遥かに知能が高くて武芸があるから、とても厄介だわ。流石に黒いゴブリンに比べたら弱いのだけどね。」
クレーンゲームのレバーを弄りながら高尾山ダンジョンについて語る二条先輩。クレーンゲームで狙っている景品はウサギのぬいぐるみだ。取り始めてから今回で30プレイ目。もうそろそろ店で買ったほうが安くなりつつある。もちろん使っているお金は二条先輩のお金だ。俺の金じゃない。俺にクレーンゲームが出来るほどの金銭的余裕はないのだ。
「ウサギちゃんを取るのとその特殊モンスターを狩るのどっちが手こずりそうですか?」
「断然ウサギちゃんでしょうね。まだ取れてないから比較できないのだけど、今の時点では間違いなくウサギちゃんよ。」
「諦めて次行ったらどうです?他の台なら取れるかもしれないですし。」
「それはダメよ。私、この台に負けたくないわ。」
二条先輩がここまで負けず嫌いだと知らず俺は驚きつつ、二条先輩に渡された千円札を100円玉に両外する。ただいまのクレーンゲーム1台に対する投入金額は3500円だ。このウサギのぬいぐるみが何円で売ってるから知らないが、オリジナルキャラクターであることを考えると3500円よりは安いだろう。
「俺もやってみて良いですか?」
「……許可するわ。」
「邪魔して欲しくないなら遠慮しときますよ。」
「そうじゃないの。ただ、もしこれで取れてしまったらどうしようと思っただけよ。」
「何も間違ってないじゃないですか。なんか申し訳ないんでやめときますよ。」
「いいえ、是非やってみて頂戴。私は貴方とこのもどかしさを共有したいわ。」
「嫌なおすそ分けですね。」
言われるがままに100円玉をクレーンゲーム台に投入し、レバーを握る。完璧な位置、ウサギのぬいぐるみの頭上にクレーンを移動させ、降下ボタンを押した。
「遠のいたわ。」
「まぁ、これ半分運みたいなものですから。」
「そうね。所詮物理的作用なのだから仕方ないわ。」
力足らずなクレーンから落ち、そのまま床から跳ね返って穴から遠のいたぬいぐるみを見つめながら、再び二条先輩はノールックで100円玉を入れてレバーを握る。
「私だってわかっているわ。あえてアームを取れそうで取れない力にする事で客を呼び止めてることくらいね。でも、ここで逃げたら失った4000円が可哀想じゃない。だからね?私。」
「手に持ってる1000円札、両外しますか?」
「お願いするわ。」
話が長くなりそうなので両外を提案して話を遮った。
「ねぇ村田くん。クレームゲームのコツって何かないかしら?」
「ないですねー。あったらとっくに教えてますよ。」
「そうよね。」
「あっ、でも宗教みたいなやつならありますよ。」
「宗教みたいなやつ?」
「はい。時間の分数の下1桁が5か0の時にやると上手くいく気がします。」
「その理論は非科学的よ。」
「それはその通りなんですけどね。なんとなく上手くいくような気がします。ルーティーンとか願掛けに近いですね。」
「ちょうど今15時15分ね。試して見ましょうか。」
慣れた手つきで100円を入れ、アームを握り、先程と同じようにぬいぐるみの頭を狙う。そしてアームがぬいぐるみに向かって下がり、ぬいぐるみを持ち上げまま穴まで持ち運ぶ。そして、そのまま呆気ないほどすんなりと穴の上まで運び終え、あっけなく穴に落ちた。
「嘘よね。ありえないわ。」
「まぁ、たまたまですよ。」
「えぇ、もちろんわかっているわ。そうよね。うん、たまたまよね。」
ウサギのぬいぐるみを抱き、困惑しながら呟く。総額4200円のぬいぐるみである。
「その何か、違うのでもします?」
「そうね。せっかく来たものね。」
ゲームセンターを気に入ってくれたのか素直に頷いてくれた。施設内を見渡し、なるべくクレーンゲームの景品に目がいかないようにして進む。どうやらクレーンゲームの景品は日本同様ぬいぐるみやフィギュア、お菓子が多く、魔道具などといったものはないらしい。きっと法律か何かで魔道具の販売店を限定しているのだろう。
「この乗り物は何かしら。」
「これはシューティングゲームですね。中に入って画面に習われる敵を銃で撃つんです。あっ、いや、これはやめときません?虫とか出てきますし。」
二条先輩の負けず嫌いを思い出し、クレーンゲームの二の舞にならないように避けようとするが、時既に遅し。彼女は機械の中に入ってしまった。
「面白そうね。これにしましょう。」
慣れた手つきで二百円を投入する二条先輩を横目に俺は備え付けのガトリングガンを握る。
「言っときますけどワンプレイまでですからね。」
「大丈夫、絶対に貴方を死なせない。だからもう百円を入れることなんてないわよ。任せて頂戴。」
「不安だ。」
この手のゲームは一回のプレイでクリアできないようになっているため死なないなんてことは不可能なのだが、それを知らない二条先輩は純粋な心持ちで挑もうとする。
「この主人公はどうしてこんな汚い神殿に入ろうとするのかしら。私は大きな虫よりも伝染病が心配だわ。」
「きっと沢山ワクチン打ってると思うんで大丈夫ですよ。」
「そうよね。でも、やはり心配だわ。」
「敵、来ましたよ。」
大きなダンゴムシのような敵が襲ってきたため、ガトリングガンで一掃する。俺の聖剣エクスカリバーで神殿ごと破壊すれば即解決なのだが、ゲームの世界には流石のエクスカリバーも対応していないため出来ない。
「火力がないわね。刀って選択肢はないのかしら?」
「ないですねぇ。そもそもこの南米風の探検家が刀持ってると思えないですし。」
「それもそうね。でもナイフくらいは持っていてほしいわ。あっ、負けたわね。」
「俺も負けちゃいました。」
「ねぇ、村田くん」
「駄目ですよ。」
「まだ何も言ってないわ。」
「お金を入れちゃ駄目ですよ、二条先輩。」
「良いじゃない、私の金なんだもの。」
「それでも駄目です。約束しましたよね?ワンプレイだけだって。」
「そうよね、諦めるわ。」
素直に諦めた二条先輩の姿がお菓子をねだったが断られた時に見せる悲しそうな目をした幼子のように見えた。俺はこの姿に弱い。正確に言うなら、この姿を見せられるとつい手を差し伸べたくなるのだ。
「もう一回だけですよ。」
「ええ!あと、もう一回で諦めるわ。頑張りましょう。村田くん。」
結局この機械に5000円を費やし、無事ゲームセンターの養分となるのであった。




