2-11話:盛りだくさんセット
この世界においても芸術を楽しむと言う概念はある。そして、俺がいた世界と似た芸術家が沢山いる。星月夜やひまわりで有名なコッホや睡蓮で有名なモネネがいたり、20世紀最大の画家であるビカソがいたりするのだ。歴史上の偉人だったり芸術家だったりが俺のいた世界にいた人間と似た名前なのは何故だろうか。聖女とやらが関わってるとは聞いたが、そうだとしても流石に出来すぎだ。それに地名だけ同じ名前なのも気になる。
「金持ちって凄いですね。世界中の芸術品を持って来ちゃうだなんて。」
「そう人のことをそう金持ち金持ち言うのは良くないと思うわよ村田くん。少し思うのだけど、貴方って私に対して躊躇いだとか気遣いみたいなものがないわよね?別に私は嫌でないのだけど。」
土曜日の昼下がり。俺は二条先輩と二人であの成金リムジンの中にいた。目的地は銀座のとあるビルだ。そのビルの中で数日間だけやっているありとあらゆる美術品を集めた招待制の展示会をするとの事。その展示会に二条家は招待され、俺と二条先輩はふたりだけで行くことになった。
二条先輩の服装は黒いサテン生地のシャツブラウスにアイボリー系の色をしたスラックス。華奢なネックレスと細身の腕時計を付け、黒いヒールブーツを履いている。華奢なのに出るところは出ている。同人誌に出てきそうな女だ。
「躊躇ってたらいつまでも会話が進まないじゃないですか。二条先輩って好きな話題とかよく分からないですし。」
「そうよね。確かに私って好きな物だとか趣味だとかは無いものね。なら貴方が多少失礼だとしても仕方がないわ。……いや、違うわね。1ミリも仕方なく無いわね。やっぱおかしいわ。理不尽よ。」
「今の見ました?24時間最大4200円だそうですよ。銀座って凄いですね。」
「華麗にスルーしてくれたわね。まぁいいわ。お金持ちネタが好きそうだから教えてあげると、私たちはわざわざ駐車場を探すだなんてしないわ。私たちが何時も使う場所には必ず駐車場を契約しているの。だからわざわざ駐車場を探す手間をしない。そこに行って停めるだけよ。まぁそもそも自分で運転なんてしないのだけどね。」
「はえー、すっごいですね。」
「貴方は単純だから助かるわ。」
相変わらず窓を眺めながらこちらを見ずに、ぼそっと言葉にする彼女に対して俺は褒められてるのか貶されているのかわからないと言う感想しか出なかった。
「窓の景色ってそんなに面白いですか?」
「面白くなんか無いわ。」
「えっ、じゃあ何で見てるんです?」
「なんとなくよ。」
「なんとなく、ですか。」
「えぇ、なんとなくよ。ただ、強いて言うなら……、そうね。きっと面白いことが起きないか期待しているのかもしれないわ。」
二条先輩につられ、窓を眺めるが何も起きずただ時間だけが過ぎていく。もうそろそろスマホでも弄っていようかと思っていた矢先、目指していたビルに着いた。車を降りるとスタッフの者が出迎えられ、案内されたままエレベーターに乗る。そしてそのまま名乗ること無く会場に入り、簡単にスタッフから説明をされたのち解放された。
「そういえば二条先輩のお父さんは来ないんですね。美術結構好きなんじゃないでしたっけ?」
「父は来ないわ。実物を見てしまうと何が何でも欲しくなるから見に行かないのだそうよ。芸術を発展させるために是非これからも来ないでほしいわね。」
渡されたパンフレットを見ながら展示されている美術品を鑑賞する。パンフレットにはこの展示会が何故可能なのかや、美術品の説明などが書かれてあった。どうやら今展示されている美術品はこの展示会の後、大和国の各地美術館に運ばれて一般公開されるらしい。展示会の共同出資者に対するサービスといったところなのだと思う。
「星夜のカフェテラスね。美術の授業で習った作品ね。」
「黒を使って夜空を書くのが普通だった当時の常識だったのに対して、コッホはあえて黒を使わなかったそうですよ。あと、この作品は最後の晩餐のオマージュなんじゃないかって説があるとか。」
「そんなことパンフレットには書いてなかったのだけど、随分と詳しいのね。」
「調べましたんで。」
「そう。」
ただただ無言の時間が続く。普通なら気まずくなりそうではあるが、美術品が目の前にあるからかそこまで気まずくはない。
「当時はこの書き方が画期的だったわけね。」
「みたいですね。生前に人気になっていたらきっと大儲け出来たでしょうに。」
「死後評価される。よくあることよ。美術家に関わらずね。」
「そうですね。」
死後評価される。その言葉を俺自信も強く実感している。俺の前で亡くなった友人、俺を逃がすために身代わりとなった仲間、そして俺が十万年の眠りについたことで会えなくなった飲み仲間。会えなくなって初めて彼ら彼女らの凄さ、そして有難さに気付いた。実際、彼ら彼女らの凄さは聖書に書かれている。俺の知らなかったことも含めてだ。
「フランク王国の南にあるカフェで、今もこのカフェあるみたいですよ。二条先輩はフランク王国行ったことあります?」
「あるわよ。フランシスガーディアンとの共同演習で一回だけね。」
「共同演習なんてあるんですね。どんなことやるんです?」
「一緒にダンジョン潜ったり、後は個人戦ね。」
「ガーディアンってかなり大きい団体なんですね。」
「そうね。各国の警察と同じくらいは権力を持っているのよ。」
「そりゃすごいですね。ちなみに俺ってガーディアンに入れないんですか?」
「なれるわよ。父の推薦があればね。お願いしたらどうかしら?推薦してくださいって。」
「推薦してもらう代わりに魂を取られそうなんで辞めときます。」
「私の親を悪魔か何かみたいに言わないで頂戴。でも、その判断は賢明よ。父は素直に頼みを引き受けてくれる人じゃないわ。」
フランク王国で起きた七月革命を題材にした絵画である民衆を導く勝利の女神と名付けられた名画を見つつ会話を進める。世界が違うとはいえ、やはり目の前に名画があるとなるとミーハーな俺は素直に興奮する。
「ガーディアンに入るのはあまりオススメしないわよ。」
「何故です?」
「妻の死に目に立ち会えなくなるからよ。」
俺はその言葉の意味を聞きたくて彼女の顔に注目するが気軽に聞けるような隙がない。彼女は無表情のまま絵画を見ているだけなのにその意味を聞くことの出来ない圧がそこにあった。彼女の語りを待つしか無かった。
「私の母は生まれつき体が弱かったの。しかも体内の限界値以上に魔力が多い。50を迎える前に死ぬだろうと言われていた人だったわ。」
彼女は淡々と。まるで赤の他人の話をするみたいに語った。
「そんな身体なのに子供なんか産んだからより寿命を縮めちゃって。」
自分の母親の話だと言うのに、そこには自分を生んだことによる怒りのようなものを感じられた。
「ある日ね?母が倒れたの。原因は衰弱。きっと3日の命だろうと医者は言ったわ。その診断をされた夜に、百鬼夜行と呼ばれるダンジョンホールが沢山現れる超常現象が起きたの。父は何の躊躇いもなく現場に行ったわ。」
妻が後3日で死ぬ。しかし百鬼夜行の対処に行かなくてはならない。その究極の二択を迫られ二条先輩のお父さんは後者を選んだ。
「百鬼夜行は三日三晩続く大災害。でも、父の活躍で無事民間人の死者は百人程度で済んだそうよ。この活躍で父は英雄と呼ばれ、二条家の名は全国に知れ渡ったわ。その代わり、母は父に会えずに死んだ。きっと、父の行動は貴族として正しかったのでしょうね。当にノブレス・オブリージュ。ガーディアンの帝都担当部長としてもガーディアンの鏡となる行動よ。母の死に目に立ち会えなかったのは仕方ない話だわ。でもね?私はそう割り切れるほど大人じゃない。仕事だから、自分が行かないと大勢の人が死ぬのだからと母を捨てていくのを納得できるほど大人じゃないわ。」
民衆を導く勝利の女神を眺め、呟く。
「ガーディアンはやめときなさい。痛い目見るわよ。」
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