2-10話:魔道具とは
魔術の才能とは何か。何か飛び抜けて秀でた物がひとつあれば才能と言うるのか。それとも、如何なる魔術も普通以上に出来るのを才能と言うるのか。答えはわからない。何故ならそれは個人の価値観だからだ。
この場には今の2パターンの才能と言えるかもしれない者がいる。まずはマーガレット・K・ゴールディア。彼女は火炎魔術に秀でている。火炎魔術に関してのみなら高みに近く、大和国の中ではトップ10に入るであろう火炎魔術使い。彼女以上に火炎魔術を上手く扱える高校生は俺とジェヘラを除けばこの国にはいないだろう。
そして、もうひとつのパターンが北西アリサだ。彼女を一言で言うなら万能。光以外の魔術が得意で、人並み以上に扱える。マギーほどの決定打はないが、火力のサポートなら十分すぎるほど活躍するだろう。また、彼女は柔軟な思考力を持つため危機を魔術で回避してくれる。
この2パターンはお互いに補い合うことで、最強のコンビとなりうるだろう。
「つまり、魔道具は意味が無いってこと?」
「間違ってはないのですが、少し違います。魔道具は魔術の才能がなかったり心得がなかったりする人を一流の魔術師にする物なんです。あくまで俺の仮説ですがね。」
「もしそれが本当だとすりゃ、魔術研究の基礎が根本から覆るぞ。」
体育館で練習をした後、俺ら4人は俺の質問コーナーをしつつ帰り道を歩いている。汗をかいた後の身体をそよ風が冷やしてくれた。
「ちなみになんだけど、その仮説ってどうやって思いついたの?」
「聖書を読んでたら思いついたんです。ほら、勇者って魔道具無しで魔術を使いますよね。それを神の加護によるものって言っていますけど、実際は違うんじゃないかってね。神の加護なんかじゃなくても、元々人間は魔道具なんか無くても魔術を使える。そう考えたわけです。」
「熱心なニンホア教徒が聞いたらキレそうな話だな。師匠がもし赤の他人ならきっと私はキレていたぞ。師匠の理論は概ね正しいと思うが、勇者は聖剣エクスカリバーを魔道具として利用していたから魔術を使えたって意見もあったはずだぞ。そこについてはどう説明するんだ?」
「そこについては、聖剣がなくても魔術を使っていたシーンがあるから特に矛盾点は無いはずだ。」
「その仮説だとラグナロクについて説明できなくないか?ラグナロクでは沢山魔道具が出てくるじゃねぇか。」
「随分と詳しいな。辰ってニンホア教徒だったか?」
「いんや、うちは昔っから神教徒だ。ラグナロクぐらい誰でも知ってる有名な話だろ。んで、どうなんだ?」
この時代の常識が抜けているせいで知らなかったのだが、どうやら俺と魔王との最終決戦である、後にラグナロクと呼ばれるその戦いは相当有名なものらしい。きっと日本で言う星座の逸話みたいなものだろう。
ちなみにこの世界にもちゃんと神教はある。日本神教と同じで鳥居があり、鐘をならして一礼二拍手するのだ。もちろん最高司祭も存在し、この世界では天皇ではなく帝だ。帝は大和国版京都である旧都におり、大和国版東京である帝都にはいない。そこは日本と大きな違いだろう。
「ラグナロクについては恐らく、そこら辺の時期から魔道具が広まったのだと思う。戦力補充として魔術師が必要となり、魔道具で無理やり魔術師になれない者に下駄を履かせて戦えるようにした。少し強引すぎたか?」
「こじつけもいい所だな。まぁいい。とにかく魔道具は意味が無いのはわかった。んで、どうやって魔道具無しで使えるようにするんだ。」
「性能の悪い魔道具を使って徐々に慣らすとかだろうな。魔道具無しで使えるようになるまで何年もかかるだろうが、それが一番現実的だ。」
「子供だまし戦法は再現性無いからな。」
「子供だまし戦法?」
「いや、なんでもないです。気にしないでください。」
絶対なんでも無くはない誤魔化し方をするマギーに対し、アリサ先輩はじとっとした目を俺にし、再び視線を戻す。何を思ったかわからないが、きっと自問自答した上に何かを理解したのだろう。その何かを聞けるほど俺の肝は据わっていない。
「そういえば紅白戦ってどんな競技やるんです?とりあえず戦うのかなーくらいしかわからないのですが。」
「えっ、そんなことも知らないで生徒会やってるの?逆によく今まで気にならなかったね。」
「紅白戦はテレビ中継されるくらい人気なのだぞ?もしかしてお前の実家テレビ無かったのか?」
「常識知らずにも程があるぞ師匠。」
「えっ、そんな言います?」
紅白戦を知らないと言うことはもしかすると日本で言う甲子園を知らないのと同程度なのかもしれない。きっとこの世界のN〇Kが全国放送しているのだろう。
「そんな言うよー。だって紅白戦だよ?一世一代の晴れ舞台って言われるくらい有名な紅白戦を知らないなんで、優希くんはほんと俗世に疎いんだね。」
そう言いながらしたり顔でカバンから1冊の冊子を取り出す。その冊子には紅白戦2026と書かれていた。どうやらそれほどまでに紅白戦は人気らしい。やはり甲子園に近い扱いなのだろう。ビール片手に野次を飛ばす中年男性の姿が思い浮かんだ。
余談なのだが、紅白戦2026と書かれた雑誌の通り、この時代でも西暦が採用されている。そこでひとつ当然の疑問が生まれるだろう。
この時代においてのイエス・キリストは誰なのか。
西暦とはイエス・キリストが産まれてから歳月だ。なのでイエス・キリストの誕生をゼロ年として今年で2026年となる。その上で、その西暦がこの時代にあるとなればイエス・キリストもいた事になるのだが、残念ながらこの時代で1番メジャーな宗教はキリスト教ではなくニンホア教。ニンホア教版のイエス・キリストは俺なのだろうが、俺がこの世界に召喚されたのは10万年ほど前。つまり当てはまらない。
となれば、この世界でのイエス・キリストは誰か。答えは聖女である。聖女は今から数えて2026年に生まれ落ちたらしく、今も尚生きているとの事だ。つまり彼女は今2026歳なのだろう。随分と長生きなことだ。もしかすると聖女は襲名制なのかもしれないが、それは会ってみたいとわからないだろう。勇者ではあるが今現在は教皇の養子でしか無い俺に会える手段なんてないのだが。
「紅白戦ってすごいんですね。」
「凄いなんてレベルじゃないよ!もう、才能の祭典って感じだよ!」
「なんかアリサ先輩の熱量凄くありません?」
「そりゃあもう、私にとっては夢の舞台だからね。」
「今年は出られて良かったですね。」
「うん、そうだね。出られて良かった。」
遠い目をしてアリサは答える。きっと彼女は昔紅白戦に出ることを諦めたことがあるのだろう。理由は差別。テレビの中にある紅白戦と言う名の輝かしい舞台に、雑種である汚れた私がいちゃいけないと。出場する資格がないと、そう思ったのだろう。きっとその遠い過去の自分を思い浮かべてるのかもしれないと、少し思った。
「んで、紅白戦はどんな競技やるんです?」
「その質問はやめたほうが良いぞ師匠。私は紅白戦の話が始まったアリサ先輩に二時間捕まったことがある。」
「あの時はごめんって。ちょっとだけ、ちょっとだけ語らせてよ。ね?」
結局帰り道をずっとアリサ先輩の話に頷くだけで終わるのであった。
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