2-9話:模擬戦
エルの幼なじみ兼恋人が突撃してきた日の放課後。俺とアリサ先輩、マギーと辰の4人で紅白戦の練習をしていた。練習場所は体育館。魔術を学ぶ高校である為当たり前な話なのだが体育館は壁と床どちらにも魔術対策をしており、大変丈夫だ。流石に俺が全力を出したら壊れるだろうが、並大抵の魔術ならまず壊れないだろう。
「マギーちゃんとアタシの練習に付き合ってくれるのは嬉しいんだけど。いいの?二条先輩の所行かないで。」
アリサ先輩がわかりやすく拗ねながら睨むように俺を見る。俺の家が燃えて二条先輩の家にお世話になってからずっとこんな感じだ。俺に対してわかりやすくトゲを向けている。
「今日は用事あるから先帰ってくれと伝えてあるんで大丈夫です。」
「あっそ。アタシより美人でアタシよりおっぱいが大きい二条先輩のとこ行かないで、アタシらの練習に付き合ってくれて嬉しいな。」
「そう卑下しないでくださいよ。アリサ先輩だって美人じゃないですか。それに俺、胸より足の方が好きですって。俺は好きですよ?アリサ先輩の足。」
「そっ、そうかな?へへっ、ありがと。」
「いつまでこの地獄に付き合わにゃいけねぇんだ?俺は。」
「いつまでも、だろうな。正直師匠がセクハラしている所なんか見たくない。早く練習を初めてくれないか?」
胸だ足だと下品な話をしている俺らに対して明らかにシラケた目をするふたりを横目にアリサ先輩を宥めつつ、4人分の腕輪型魔道具を調整し、お互いが魔術で怪我をしないようペアリングする。
「待ってくれよー、今魔道具を調整してるからな。」
10万年前と比べて随分と複雑な構造になった魔道具。コンピューターで制御していたり、複雑な回路で動いていたりと扱いに苦労する部分はあるが、いざ勉強していじって見ると奥深さがあり大変面白い。ジングさんの礼拝中に目覚めてから帝都高に入学するまでの1年の暇つぶしを魔道具弄りに費やしていた程にはハマっている。きっと感覚的には自作PCみたいなものだろう。
「よし出来た。これで調整は完璧かな。」
「師匠の魔道具弄りはプロの腕前だ。きっとミ大丈夫だろう。」
「そうなんだ。なら何で優希くんは生徒会の会議の時にバリバリ腕を見せなかったの?」
「バリバリ腕を見せられるってほど自分に技術があるかわかりませんが、腕前を見せびらかすのではなく、ある程度しか出来ないと思ってもらった方が楽できそうだと思ったんでそうしましたね。」
「そう言っていざアクシデントが起きたら動いちゃいそうだけどね。君、英雄願望あるみたいだし。」
「優希はカッコつけるのが大好きだからな。」
「俺は厨二病の男子中学生かよ。」
俺が調整した腕輪型魔道具を配り、腕に嵌める。魔術を使う上での違和感でしかない現代の魔道具だが、周りと馴染む為には使わざる負えない。
「マギー、俺にファイアーボールを打ってくれ。飛びきり強いやつだ。」
「何を言っているかわからんな。魔道具を使っての魔術は火力の調節が出来ない。そうだろう?師匠。」
俺がニヤリと笑い、マギーが俺の話を冗談と受け取って訂正する。マギーと知り合っての約1ヶ月半で随分と以心伝心出来るようになった気がする。
「そうだったな。じゃ、頼むわ。」
「あぁ、分かった。言っとくがもし調整ミスってて髪の毛全部燃えても文句は言うなよ?」
「もちろんだ。俺の毛根に掛けてミスはなしと保証する。だから気楽に打ってくれ。」
腕を俺に向け、そしてマギーはファイアーボールを放つ。するとそのファイアーボールは俺に当たり、その衝撃が俺に伝わった。そして腕輪型魔道具の光源部が赤く光る。つまり、ダメージが入ったと言うことだ。
「よし。上手くいったようだな。じゃ、始めるか。」
軽く腕を上げて関節を柔らかくする軽い準備運動をしながら移動する。俺の目の前には一緒に戦う辰が大剣型の魔道具を握りしめて俺に背を見せており、その正面には、マギーがこちらを向き剣を構えている。もちろんマギーの剣と辰の大剣は腕輪型魔道具と同様にペアリングされた練習用魔道具だ。そしてマギーの背後にはアリサ先輩が腕を交差させ筋肉を伸ばしていた。俺が後衛で辰が前衛。その対象に前衛としてマギーがおり、アリサ先輩が後衛をしている。
本来、紅白戦に出るのはこのメンバーだと2年生のアリサ先輩だけなのだが、マギーは成績優秀で戦闘経験豊富なため特別に出場を許されたのだ。きっとそれは表向きの理由であって、実際のところはアングロ・ドミニオンの王族だからと学校側が打診して生徒会長が了承し、特別待遇したのだろう。本人は紅白戦に出られることを喜んでいたので、紅白戦に出れるその経緯なんてどうでもいいのかもしれない。
「30秒後にタイマーが鳴るからそれでスタートな。」
「了解。」
「おうよ。」
「レディに優しくしてね?辰くん。」
「そりゃ出来ねぇお約束っすね、北西先輩や。」
マギーがまるで試合前のスポーツ選手のような真剣さで集中してる一方で、辰とアリサ先輩ははニヤリと余裕を持った笑みを浮かべている。決して二人が勝負に対してやる気がないわけではない。きっとこの脱力こそが真剣勝負の前準備なのだろう。
ブザーが鳴るまであと5秒。喋るのを辞め、静寂が場を支配する。そしてブザーが鳴った。
辰が無属性魔術のソニックブーストで走る勢いを上げ、自慢の巨体による体重と獣人の腕力を乗せた一撃を大剣に乗せる。それに対してマギーは待ち構えるだけだ。
辰の大剣による一撃がマギーに迫る。自動車の追突に勝るほどの一撃に対しマギーは剣を振るい相殺し、逃しきれなかった衝撃によって2歩ほど身体が後退した。
「俺の初撃必殺を受け止める女がいるなんて驚きだ。どういう原理だ?」
「どういう原理だろうな?師匠にでも聞いてみりゃいい。」
「優希の入れ知恵っつっても小細工が通用するようなもんじゃねぇはずだがな。女に受け止められちゃあ流石の俺も少し傷つくぜ。」
大剣を横に振り、マギーを狙うが華麗に躱される。躱されたことで生まれた隙に入り込むようにマギーが剣を刺しかかった。俺が腕をマギーに向け、マジックブレットをマギーの真上から撃つ。
真上からの魔力に探知したからか地面を蹴り、辰から離れることで無属性魔術のマジックバレットを避けた。
「中々やるね、マギーちゃん。」
「感心してないで参戦して欲しいのですか。」
「私が参戦したら辰くんを倒す前に優希くんが本気出しちゃうでしょ?だから様子見してたの。」
「様子見は済みましたか?」
「うん、あの程度の手加減なら。私たちでも勝てそう。」
彼女は勝ち誇ったかのような言葉を口にしてから、腕を正面に向けて魔術を発動させた。魔道具は1度につきひとつの魔術を使うことが出来る。それに対しアリサは十数個の魔術式を俺らの上に浮かべさせた。圧倒的な数であり、普通に魔道具を使うならそんなことは不可能だ。なら何故そんな芸当が可能なのか。答えは魔術の展開の速さだ。一度につき1つしか魔術を発動できない。逆に言えば一度魔術を発動してしまえばまた魔術を使える。つまり彼女はマシンガンのように超高速で魔術を連射させているのだ。
十数個のマジックブレットが上空から降り注ぐ。
「気にせず行って!」
アリサ先輩がマギーに指示を出す。マギーは無数に振るマジックバレットの雨を気にもせず辰の方に直進した。その途中、何度もマジックバレットに当たりそうになるが、アリサ先輩がマギーの上に無属性魔術のシールドを展開することで防ぐ。
「ならばこっちも。」
アリサ先輩の戦法に習って俺も無属性魔術のシールドで辰を守る。マギーと辰は再び剣を交えて交戦を初めた。マギーが剣を振るい、辰が大剣を盾のように構えて防ぐ。
「防御だけでは勝てんのでは?」
「攻撃は最大の防御っつうだろ?その真逆だっての!」
「体力の消耗を狙っての耐えか。良い戦略だな。だが残念ながら、私の気はそこまで長くない!爆ぜろ!レッドバーン!」
聖剣レッドローズから繰り出されるローズレッドバーンの劣化版だが、それでも威力は絶大だ。勝ち誇った笑みを浮かべながらマギーは辰の四方を火の粉が包み、爆発した。威力を考えるとこの一撃が決定点となり、魔道具のダメージの入ったことを知らせる赤いランプが光るはず。だが、実際には光らなかった。
「助かったぜ、まじで。」
全身を包み込んで守ってくれる鎧のような魔術である無属性魔術ハイ・アーマーを展開させ、レッドバーンをダメージゼロに抑える。レッドバーンの威力によりハイ・アーマーは壊れてしまったが、それで良い。
そして、レッドバーンにより出来た爆炎から辰が姿を表し、そのまま突進してくるイノシシみたいに加速しながらマギーに迫った。
大剣を勢いよく振り下げる。そのままマギーの身体スレスレに当たり、練習用腕輪型魔道具に搭載されている自動防御魔術システムが作動して無属性魔術のシールドが出る。そして勢いそのまま後方に吹き飛ばされた。
辰はマギーを大剣で吹き飛ばし、マギーのいた場所に着地する。すると、辰の立っている地面が赤く光った。
「なっ!」
赤く光った地面から火柱が立ち、辰の腕輪型魔道具のランプが赤く光った。それと同時にマギーの腕輪型魔道具のランプも赤く光る。つまり、マギーは辰に倒される直前に火炎属性の罠魔術であるレッドバーントラップを敷いたのだ。
「これで、2人っきりだね。」
「正確にはダウンした2人が抜けて1オン1って感じですけどね。」
「もー、つれないこと言うなぁ君は。」
「今は試合中ですからね。」
「ふぅーん、そんな冷たい事言っちゃうんだ。」
戦っている最中なのに余裕を見せるアリサ先輩。可愛く拗ねているように見せてはいるが、ちゃんと隙を見せない。正確に言うなら、隙があるように見せていると言った方が正しいだろう。
「優希くんって今、無属性魔術しか使わないって縛りでやってるんでしょ?」
「さぁ、どうですかね?」
「しかも剣は使わないで、魔術だけで戦う。君の得意は剣だってのに、随分と舐められたものだよ。しかも私らにはわからないなんかしらの縛りもあるんでしょ?君が遠すぎて嫌になっちゃうな。」
アリサ先輩はまるで俺が勇者であったのを知っているかのように話す。彼女の推理力と察しの良さは卓越したものだ。
「君のその余裕。壊してあげる。」
腕を俺に向け、アリサ先輩がマシンガンのようにマジックバレットを放ち続ける。マジックバレットは文字通り魔術の弾丸なのだが、こう連射するよう現代魔術では想定されていない。10万年前でもごく一部の人間しか使えなかった芸当だ。
その連射されるマジックバレットを走り避けながらアリサ先輩との距離を詰める。アリサ先輩は動かずマジックバレットを連射するだけだ。若干の違和感を感じつつ蹴り進めると、違和感の正体が現れた。罠魔術だ。
土属性と水属性の混合属性魔術であるヴァイントラップによって生み出された無数のツタが俺を捕まえようと生えてくる。マジックバレット自体にはダメージを与える能力がないが、一度捕まってしまうと中々抜け出せず、マジックバレットの餌食となってしまう。なので無属性魔術のナイフハンドで手に魔力で剣を纏わせて、アリサ先輩を狙いつつ、マジックバレットから生えてきたツタを切れる低位置に飛ぶ斬撃を放った。
俺が飛ぶ斬撃を使えることに一瞬の驚きを見せた後、ニヤリと笑い、土魔術で土壁を作る。
「ねぇ、優希くん。アタシ思うんだけど、魔道具って枷だと思うんだよね。魔道具使って魔術使うとノイズが凄いの。優希くんだって本当は気付いてるんでしょ?魔道具が意味無いってこと。」
「さぁ、どうですかね。俺は魔道具なしで魔術使える体質じゃないんでわかりませんよ。」
「そっか、嘘つきだね。優希くんは。本当は使えるくせに。」
土壁から触手のように土が生え出てきて、俺を捉えようとする。きっと土属性魔術のアーセンウォールで土壁を作ってからアーセンバインドで俺を捉えようとしているのだろう。土壁で出来た土をアーセンバインドに使うことで魔力を節約して発動速度を上げたのだろう。
アリサ先輩は魔術に関する戦闘の才能がある。発想が柔軟で、思いっきりの良さがある。何より万能だ。攻撃防御妨害全てが得意とまさにオールマイティー。俺自信魔王討伐の最前線にいたせいで目が肥えているが、一般的に見たら十万年前含め彼女は優秀な魔法使いと言えるだろう。
アーセンバインドを回り込んで避けつつ、アリサ先輩に近づく。囲みこむように俺を捉えようとする土の触手を避け、そしてアリサ先輩の背後を捉えた。その時であった。
「我が大地と炎の精霊よ、怒り爆ぜろ。クエイク・ボム!」
自分を追っていた土の触手が轟音と共に光を帯びて爆発し、風圧と火炎と土の破片が俺を襲う。ダメージを食らうまでの猶予は二秒。避けるにも俺の周りには俺を追うのに伸び続けた爆ぜてる最中の土が沢山あり、八方塞がりとなっている。
通常なら決定打となり俺は敗北するだろう。このまま素直に負けを認めれば自分の表向きの実力以上の力を出さずに済む。大人しく負けておくのが得策なのだが、負けず嫌いではないはずなのに俺はこの瞬間は勝ちたいと思ってしまった。俺は魔道具を通さず、魔術を使用する。
「俺の勝ちで、いいですかね?」
アリサ先輩の背中をタッチして、声をかける。するとニヤリと笑いながら振り返った。
「私達の負け。降参だよ。でも、ある意味私達の勝ちなんじゃない?」
「と、言いますと?」
「今さっき、君の縛りを破った魔術使ったでしょ?だから君の縛りを破らせた私の勝ちでもあるかなーってね。」
彼女に誇らしげな笑みについ笑い返してしまったのであった。
「すいません。やっぱ引き分けでお願いします。」
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