2-8話:弁当二人前
食は心を豊かにしてくれる。甘味は心を踊らせ、酸味は脳を覚ます。スパイスの辛さはストレスの解消になり、被災地の非常食としてカレーが採用されているほど効果を出す。
要するに、食は心を豊かに、ときめかせてくれるのだ。それを踏まえてこの目の前の景色を見るとすれば、相当ときめくのだろう。
昼休みの学校。俺とエル、辰の3人は教室で弁当を食べている。エルはエルフらしい野菜中心の弁当を食べており、辰はタンパク質多めの男の子の大好物を体現するかのような大きい弁当を食べている。そして俺の弁当はと言うと、とにかく量が多い。なんせ2人から渡された弁当なのだからとにかく量が多いのだ。
まず1人目はアリサ先輩。いつも通りの桜でんぶで作られたハートを乗せた白米に、おかずは唐揚げと何かの煮物と卵焼きだ。もちろん卵焼きはハートになるよう切りそろえられている。よくある愛妻弁当と言うやつだろう。
2人目は二条先輩から貰った弁当だ。どうやら二条先輩の使用人に作らせたらしく、おせちの様な重箱に詰められている。まるで宝石箱。おかずは全てが美術品みたいに輝いている。
俺としては温かみのあるアリサ先輩の弁当の方が好きだが、二条先輩の弁当も美味しそうだ。いっぺんに貰わなければ万々歳だっただろう。
「今日の優希殿の弁当は特段に凄いでござるな。」
「俺のくらいあるじゃねーかよ。随分と食うなおい。」
既にアリサ先輩の弁当を平らげ、二条先輩の弁当を3分の1ほど食べた俺は耳を傾ける
「食べすぎて死にそう。はち切れる。」
「そりゃ幸せってもんだな。先月の菓子パン1個に比べりゃ良いじゃねぇか。」
「そりゃあそうだし、作ってくれるのは有難い限りなんだけどな。」
腹がいっぱいだと言うのにまだ美味しさを感じることのできる素晴らしい出来の二条家特製照り焼きを食べる。
「某もそんなありがた迷惑を言ってみたいでござるな。まっ!某には素敵な恋人がいるから良いのであるが。」
急に惚気を口にするエルだが、この流れは今に始まった話ではない。学校がテロリストに襲撃されてから1週間が経ったある日からずっとそうなのだ。
エルに恋人が出来たのはテロリスト襲撃から1週間後の夜。人を殺したと言う罪悪感で潰れそうだったエルに対し、支えたいと思い女の子の幼なじみが接近し、なんやかんやあり1夜を共にして、めでたく恋仲となったそうだ。ちなみにその次の日に俺はその無事彼女となったその子にグーで殴られた。
「エル思いの素敵な彼女が出来て良かったな。」
「毎日が最高でござるよ!」
しつこいまでの惚気に若干の飽きと面倒くささを感じていたのでぶっきらぼうな返事となってしまった俺であるが、我ながら仕方ないと思う。
「そういやお前って反射神経悪い方じゃねぇよな?なんでエルの彼女に殴られてやったんだ?」
「普通にまさか殴られると思って無かったからだよ。ほら、普通に考えて初対面の女の子が殴りかかって来ると思うか?ありゃ殴られても仕方ないって我ながら思うよ。」
それに、殴られるようなことをしたしな、とそう心のなかで付け加える。
「本当に済まなかったでござる。」
「そう思うなら今度カラオケ代奢れ。」
「それは嫌でござる。某金がない。」
それは彼女に払う金はあるけどお前に払う金はないの略だろうと心の中で毒づきながら弁当の具を口に運ぶ。腹いっぱいでキツイが、それでも美味く感じるのは、やはり麻薬が入っていないと説明出来ないだろう。
そんな他愛のない会話をしていたら、教室のドアが勢いよく開いた。
「アンタのデザート忘れてた。はい、デザート。」
「あっ、あぁー、ありがとうでござるよ。」
勢いよく教室のドアを開けて入ってきたのは俺を殴った張本人であるエルの幼なじみ兼恋人である女、高田タマエだ。噂をすればなんとやらだ。
「アンタまだ村田とつるんでるのね。あんだけ辞めとけって言ってんのに。」
「俺は育ちの悪いガキ大将かよ。エルのママは教育熱心だな。」
「そこは愛されてるって言ってほしいでござるよ。」
「ママって歳じゃないわよ馬鹿。」
「エルの彼女ってほんと反応良いよな。弄りたくなるのもわかるぜ。」
エルの彼女、高田が猫耳をピクリと動かして怒っているアピールをする。特に深い意味はないが、高田は面白い女だと俺は思う。いじりがいがあるし、意地悪に対してちゃんと嫌がってくれる。表裏のない性格なのもポイントが高い。俺のことが嫌いなこと以外は完璧な友人の彼女キャラだ。
「アンタってふたりと絡んでから随分と楽しそうよね。」
「気が合うし面白いでござるからな。ゲーム付き合ってくれるのも高ポイントでござる。」
「悪かったわね付き合い悪くて。」
「そうではなくてそのでござるなー、えっとー。」
高田が分かりやすく拗ね、エルが分かりやすく焦る。非常にわかりやすい2人だ。似たもの同士だからこそ引き寄せられたのかもしれない。
「まぁエルが楽しいならそれで良いわ。でも言っとくけど、エルに二度とあんな顔させないでよね?次させたらぶっ殺すから。んじゃ、私帰るわね。」
そう言い残し、足早に教室を出る。
「食べきれないな。授業の合間に食うか。」
二度とエルに、人を初めて殺した後の顔と同じ顔をさせない。その約束に答えることが出来なかった自分に対して自己嫌悪しつつその心情を悟られないように誤魔化すのであった
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