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2-7話:薬物入り料亭和食




二条先輩の稽古に付き合い、一汗かいたからと風呂場で汗を流したその後。俺は二条先輩と俺の部屋と化しつつある客間でユサさんが運んだ夕ご飯を食べている。



「小鉢の量多すぎません?食べ放題くらいありますやん。」



「食べ放題?何かしら、食べ放題って。」



「食べ放題ってのは、お金払ったら時間内ならどれでも無限に食べられますよって感じのシステムです。」



「そうなのね。お食事は誰かが持ってきてくれるのかしら?」



「いや、自分で取りに行く感じですよ。テーブルに並べられた物を自分が食べるだけ取って、自分の席で食べるんです。」



「それってとても汚いのでなくて?ホコリも入るでしょうし、客の手が触れているかもしれないじゃない。」



運ばれた夕ご飯には沢山の小鉢が付いており、また手のひらサイズの小さな土鍋やチーズフォンデュでよく使う固形燃料で温められた蒸籠が置かれてある。まるで部屋に運ばれるタイプの旅館のご飯だ。



「これって毎日なんです?品数凄くありません?」



「そうかしら?うちじゃ普通よ。」



「そうでしたか。庶民とはレベチですね。」



「レベチとは、何かしら?」



「レベルが違うの略です。」



手を合わせて、頂きますと言う二条先輩に合わせて同じく手を合わせる。そして二条先輩が食べた煮物みたいなやつを俺も口にした。



美味い。シンプルに美味い。今まで食べてきた煮物が偽物だったのではと勘違いさせられるほどに美味い。もう二度と他の店で食べる煮物では満足出来ないだろう。自炊なんてクソ喰らえだ、と思わされる味だ。



「煮物美味すぎません?ヤクでも入ってるんですか?」



「失礼かつ下品よ村田くん。」



しいたけに味が染みている。レンコンの歯ごたえが気持ち良く、にんじんが甘い。鶏肉は味は煮込まれているのに弾力がある。煮物だけでこんなに感情が揺さぶられるとは自分自身思わなかった。



「美味しすぎますってほんと。京都の料亭レベルです。」



「京都?あぁ旧都のことね。料亭のシェフを無理やり引っ張ってきたそうだからあながち間違ってないわよ。」



きっとその料亭を脅すなり潰すなりしてシェフを連れてきたのだろう。二条先輩の話を聞く限りそのくらいはしてきそうだ。



「ねぇ、村田くん。私の剣術はどうだったかしら?」



「そうですねー。とても上手な剣術だとは思いましたよ。綺麗でしたし、日頃の努力が見て取れた素晴らしい剣術でした。」



「でも、強くは無いと。」



「いや強くはありますよ。学生相手にならほぼ負け無しですね。」



「ならゴールディアさんと私、どちらが強いのかしら?正直に答えて頂戴。」



急にマギーの話を振られた驚きで焼き魚が箸から落ちたが、床につく前に箸で再び掴む。常人とは思えない動きをしてしまったが、きっと煮物同様破壊的に美味しいであろう焼き魚が無駄にならずに済んだので良しとしよう。きっと二条先輩には見られていないはずだ。



「なんでマギーの話が出てくるんです?」



「マギー?あぁ、ゴールディアさんの下の名前の愛称はマギーだったわね。ゴールディアさんの名前が出た理由については、彼女が貴方に教えを貰っているからよ。」



「ちなみに情報源は。」



「うちで抱えている忍びよ。」



この如何にも現代的な世界にまだ忍びがいるとは驚きだ。やはり由緒正しきお金持ちは裏の1面みたいのがあるのだろう。変なこと言ったら暗殺する。10万年前であろうと今であろうと変わらない貴族様の怖いところだ。そもそも全盛期に比べたら劣っているとはいえ、勇者であった自分でも気付かないほどの忍者が存在すること自体驚きである。



「それで、どちらが勝つのか教えて頂戴。」



「何を持って勝ちかに寄りますし、戦う背景だとか地形とかによるので何とも言えないですね。」



「そう言うあやふやな回答はいいから。正直に答えなさい。」



「マギーの方が強いですね。間違いなく。」



「そう。それは貴方の教えの賜物かしら?」



「自惚れになりますが、もちろんそれもあります。ですがそれ以上に経験値が段違いですね。」



俺がマギーに戦闘技術を教える前と後とでは実力が雲泥の差だろう。もちろん本人の元からの実力や才能、素質などはあるだろうが、事実としては俺の戦闘技術を叩き込んだことにより一層強くなった。10万年前ならBからA級冒険者くらいにはなれるだろう。



「と、言うと?」



「二条先輩は死にそうになった経験はありますか?」



「……ないわ。」



「誰かを殺したことは?」



「死刑囚を2度だけ。斬首刑の手伝いよ。」



マギーには死にそうになった経験がある。ケルベロスの1件だ。俺としては何がなんでもマギーだけは帰らせる気でいたが、それでも死にそうになった経験ではあるだろう。一歩間違えば俺もマギーも死んでいたと言う経験は間違いなく戦いでの出力を変える経験だ。



また、殺し合いの経験も勝敗を分けるポイントだろう。人間はやはり同じ人間を殺すのに躊躇いが生じ、一瞬の隙が生まれる。その隙は殺し合いの経験があればあるほど短い。故に、殺し合いの経験は大切だ。狩りを覚えている野犬と室内飼いのドックフードを食べる飼い犬くらいは違うだろう。



「マギーは死にそうになった経験も戦いの末に殺した経験もあります。その違いは圧倒的ですね。」



「そう。貴方が言うのならそうなのでしょうね。」



何かを諦めるかのようにそう吐き捨て、お茶を飲む。俺も合わせてお茶を飲み、刺身を食べる。お茶は砂糖が一切入ってないだろうに自然な甘味を感じられ、刺身は鮮度が良すぎて生きているかのようだ。



「まぁ、今のところはって話ですが。」



「と、言うと?」



「何日使えるかはわかりませんけど、お世話になっている間にはマギーと良い勝負できるくらいには強くしてみせますよ。」



「……そう。」



二条先輩は飲んでいた茶飲みに入ったお茶を置いてから興味なさげに、しかし少し希望が見えたかのような複雑な表情を見せて俺の目を見る。



「頼りにしてるわ。村田くん。」



少しだけ笑みを浮かべ肯定の言葉を述べる二条先輩に、少し心臓を跳ねさせてしまったのであった。










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