第十二話:村の過去
燃える三眼を使ってみたところ、MPが39になっていた。燃える三眼分の3ポイントを除くと、5ポイント使ったわけだ。
この【治癒】、相当燃費良くないか?手を貫通するほどの傷が一瞬で治るんだぞ?まぁなんにせよ、痛みが消えた事は非常に嬉しい。
しかし、そんなささやかな喜びも一瞬で。
「もう、帰りたい……」
ホームシックなどという可愛らしいものじゃない。ただただ死の恐怖から逃れたい。痛いのは嫌なんだ。
そもそも、異世界物の主人公が最初にたどり着くのは、それなりに栄えた町ってのが定番だろ?それで、悪漢に絡まれてる美少女をチート能力使って助けるんだ。それが主人公のハーレム生成の第一歩になる。
で、俺はなんなんだ?小汚い村にバケモンと一緒に舞い降りて、村人に崇拝されて、挙げ句の果てにはサイコ女に殺されかけて……死にたい。っていうか死ね。全部死んでしまえ。
……ダメだ。そんなこと考えてる場合じゃない。さっさとこの家から出なければ。
「はぁ……」
とりあえず村長の家に戻ろう。あそこは隣にシャンタクが控えてるから、何かあったら頼ればいい。
そんなことを考えながら家を出ようとして立ち上がると、右足部分の床板が揺れた。よく見ると、明らかにその部分だけ後から切り取られたような継ぎ目が出来ている。
「なんだ?これ」
中から出てきたのは一冊の本と羽ペン。布の様な材質でできた本だ。しかも、かなり分厚いし汚れている。小学校で使った辞書も、今頃こんな感じになっているのだろうか。
中を開いても、なんと書いてあるか分からない。明らかに文字数は多いと思われるほど、小さくびっしりと書かれている事は分かる。そこで、一つ試してみた。
「燃える三眼」
すると、先ほどまで謎めいた記号だったものが、全て日本語に書き換えられてゆく。
「燃える三眼、万能だなぁ」
そんな事を呟きながら、俺は内容に目を通した。
それには、次のようなことが書かれていた。
『過去の村の異常についての記録と考察』
『私が幼い頃、この村は盗賊たちの集団に襲撃されている。不運にも逃げ遅れた私と両親は、盗賊が放った火の中でどうする事も出来なかった。次の瞬間、私の両親の上半分が消えた。大量の血が私にへばり付く。
その時、見てしまった。
巨大な黒い翼に、太く長い胴体。手足はなく、表面には刺々しい鱗がびっしり生えている。円形に並んだ凶悪な牙を持つ口の周りには、鎌のようなものが全方位から口に向かって生えている。そこからは、先程まで人間だったモノの残骸が垂れ下がっていた。
そしてその後ろには、頭から足まで真っ黒な人影が立っていた。
物心ついたばかりだったが、今でも鮮明に覚えている。あの怪物の存在に気づいた盗賊たちは、一目散に逃げ出した。不思議なことに、怪物は盗賊達を襲わずに上空へと螺旋を描きながら消えた。その際に、突然水が降り注ぎ、家々の火事は間もなく鎮火した。
戻ってきた村のみんなは、龍神様の起こした奇跡だと騒ぎ立てた。
私は知っている。それらが祟り神の仕業であることを。
そして、私は思う。祟り神の像があるのに、なぜ龍神様の像が無いのだろうか?
もしや、本来は龍神様と祟り神は同じ存在なのでは? 「祟り神」でありながら、「龍神様」として働き、信仰を集め続けているのだとしたら……
だとしたら、私はドラゴン信仰をやめさせなければならない。なぜなら、皆が信仰の対象としている存在は、悍ましい怪物……私の両親を無残に食い殺して去って行った、紛れも無い【邪神】なのだから。
そういえば、レイモンさんは、虚空を見つめて顔を青ざめさせていた。今思えば当然だ。これから村をまとめあげることになるのはレイモンさんなのだから。
その数日後、レイモンさんの奥さんが行方不明になった。それ以降、時々村から人が消えたように居なくなる。
全て、あの祟り神、あの邪神のせいだ。それを知っているのは私だけ。私がなんとかしなければ。』
『私は人間が好きだ。特に子供は本当に純粋で、人間味を感じられる。そうでなくても村を襲った盗賊達だって、化け物に恐怖して逃げていった。そんな彼らは、紛れも無く人間だ。人間は、信じられる。感情や欲望を持つから。
あの化け物は、何を考えているのか分からない。どうしてか、魔物のように本能に従って行動しているようにも見えなかった。まるで想像もつかないような大きな何かに従っているような……こんな推測は不毛か』
『珍しく、村に来客が来た。と言っても、少し話してすぐに引き返したが。
肌は浅黒く、整った外見をしていた。自身を預言者である、と言い、私にとって聞き捨てならないことを言った。曰く、「近々この村に龍神様が降臨する。そのときにこれを渡してくれ」とのことだ。そして、【ドラゴンの書】なるものをレイモンさんに手渡した。
胡散臭い詐欺師であれば気にも留めないが、不思議と本当だと思わせる説得力があった。もしそれが本当だとすれば、ヤツがまたやって来る、ということだ。
また誰かが犠牲になるのは、嫌だ。それを防ぐために、今日まで死ぬ気で鍛えてきた。これからしばらく、寝ずに見回りをしよう』
『あの男が言っていたことは事実だった。珍妙な格好をした化身とやらを連れて、前とは違った姿で現れた。だが、私は騙されない。まずは見るからに力の弱そうな化身の様子を見よう。近々ヤツに接触する。
絶対に、私が村を守る』
『どうもあの化身には違和感を感じる。見る限りでは、言動や行動に妙なクセがあるだけの人間にしか見えなかった。
しかし、夜遅くに祟り神の像で不審な動きをしていた。やはり何をしでかすか分からない。明日、ケリをつけようと思う』
頭がおかしくなりそうだった。これ以上狂気が増すのは本当に勘弁してほしい。




