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第十一話:狂人

「村人を攫っていたのは、お前だな?」


 彼女からその言葉が聞こえた次の瞬間、俺の手はナイフで壁に縫い付けられていた。


「な、なんだ!?……ぐぁッッ!!」


 それに気づいた途端、ようやく両手に激痛が走る。日本に生きてたときには感じたことのない激痛だ。


「叫んだら苦しめて殺す」


 叫ぼうにも、口を塞がれ喉元にナイフを突きつけられてはどうしようもない。


「質問にだけ答えろ。お前が村人を攫っていたのか? 」

「ぐッッ……な、何を言って、いる、の、か、分からん」


 痛い。何故俺がこんな目に合うんだ。俺が何か悪いことでもしたか? 生憎、虫一匹殺すのも躊躇うほどのヘタレだぞ。

 何故なんだ。何故俺が、こんな理不尽な痛みを感じなければならない。


「あの化け物か?あれに、村人を食い殺させたのか?」

「知ら、ねぇよ……何な、んだ、よ……ホント……クソ……」


 ダメだ。泣くな。泣いたら何も喋れなくなる。殺される。泣くな。


 無理。涙袋が破裂しそうだ。もうどうにでもなれ。


「……泣いてる?」

「くっ……」


 ヤバい。バレた。殺さレる。死にたくなイ。


「……」


 グチュ……と音がすると同時に、両手に激痛が走る。だが、体は自由になったようだ。手を抑えながら、床でのたうちまわる。


「手荒な真似をしてしまい、すいませんでした」


 痛い。手が痛い。クソッタレのサイコ女が何か言っているが、全く頭に入ってこない。

 ふと、手を取られる。今度は関節でも決められるのか。そう思った矢先、痛みが和らいだ。右手に続いて、左手も同じく。


「あまり動かさない方がいいですよ」


 何考えてんだクソアマが。今の今まで脅してた相手を心配するだと?こいつ頭おかしいんじゃねぇの?不気味なんてものじゃねぇ。

 イカレサイコ女が口を開く。


「さて、喋ってくれますか?」

「ま、待て!殺さないでくれ!頼む!俺は何も知らない!そもそも俺は、ここに来たばかりなんだ!」


 涙を流しながら命乞いをする。情けない。だが、きっとこいつは簡単に俺を殺せる。


「殺しません。涙を流す貴方は信用できる」

「は……はぁ……?」


 手の痛みに慣れたのだろうか。先ほどよりは冷静に考えられるようになった。

 そう。だからこそ、目の前で膝をつき俺を見るシャリィという女の異常性を深く感じられる。


 涙を流す人間を、無条件で信用するのか……? 俺が村人を攫っただとか何とか言ってたな。こいつの中で俺は相当な極悪人だろう。

 いや待て。百歩譲って、俺のことを信用したとする。でも俺はこの女が信用できない。重度の精神病持ちだかなんだか分からないが、俺を殺しかけた女だぞ。


「まぁ、ゆっくりしてください。外は雨が降ってますから」


 そう言って、部屋を出て行く。その後、家の中から人の気配がしなくなった。


 気味が悪い。さっさと村長の家に戻ろう。いや待て、勝手に外に出て、あいつの機嫌を損ねたらどうする?

 そもそも、相手が気づくよりも早く両手をナイフで縫い付けるような芸当ができる女だ。下手したら、天井に張り付いてたり、屋根裏から監視してたり、はたまた壁が回転してびっくり忍者屋敷状態になるかもしれない。それ監視カメラより余程怖い。


 あんなサイコ、まともに戦って勝てるはずが無い。両手も怪我してるし……怪我?


 怪我……痛ぇ……治んねぇかなぁ……


 そう思った次の瞬間。掌からあぶくがたつような感覚がした。そして、痛みが完全に引いた。


 そう、「治癒」したのだ。


 これだ。俺にはまだ使っていない「力」があった。

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