第十話:笑えない冗談
住めば都。人間は、良くも悪くも慣れる生き物だ。人間に限った話じゃないけど。
「あ……は、ははは、冗談ですよ。はは…」
俺が自分を龍神だと思い込んだのも、慣れであると思いたい。俺は人間だ。そして、内藤 哲という立派な名前がある。
「……」
シャリィさんが睨んでる。怖い。
「俺は、内藤 哲だ」
「ナイト ウテツ……ですか?」
「あー……テツだ。ナイトウは忘れてくれ。よろしく」
握手をしようと、手を前に差し出す。シャリィさんは怪訝そうな目でそれを見る。
「……なんですか?」
「え? あっ……」
そうか。この世界では握手の文化が無いのか。失念していた。
「いや、何でもない……」
空気が、気まずい。
しばらく、シャリィさんについて行った。彼女が案内した先は、古びているがなかなか立派な一軒家だった。
「り、立派ですね。ご家族と暮らしているんですか?」
「一人です」
「……そうですか」
気まずいよぉぉぉぉぉぉああぁぁぁぁぁ助けてぇぇぇぇ!!!
「こちらへ」
彼女は、簡素な布を渡してきた。これで体を拭け、とのことだろう。
体を拭き終わり、部屋に通される。用意されていたイスは、ドア側に一つ、テーブルを挟んで、窓一つ無い壁側に一つ。
「どうぞ座ってください」
彼女は既にドア側に座っている。となると、壁側のイスに腰掛けるしかない。
正直な話、今更ながら俺は彼女を警戒している。密室で美少女と二人きり。だが、どこか対応が雑で、俺を丁寧にもてなす気は無いと見える。
なにより、彼女自身から言葉にしにくいが、嫌な物を感じるのだ。
「じゃあ、遠慮なく……」
こんな華奢な体をしているのだから、取っ組み合いになれば負けることはないと思う。
暗殺されるにしても、ドア側に俺を座らせた方が刺客をけしかけやすいだろう。飲み物も出されていないので、毒を盛られている、ということもない。多分。詳しくないけど。
多少身構えながらも、席に着く。他にどうすることもできない、と思わせる彼女の圧力を受けながら。
「……まずは世間話、と言いたいところですが、生憎今日は良い天気ではありませんね」
「……そうですね」
気の利いた返しでも出来ればかっこいいのだが、そこまで頭が回らない。
「では、早速本題に入りましょう」
さぁ、何が出てくる?
「村人を攫ったのは、お前だな?」
気づけば、俺の両手にはナイフが貫通し、家の壁に縫い付けられていた。




