第九話:異世界でも雨は降る
「……ありがとうございます。お仕事中、失礼しました」
「いやいや、恐れ多い。龍神様と言葉を交わすことができ、私は本当に感激しております」
そろそろ疲れるからやめて欲しい。
そんなこんなで、早速情報集めを開始しようと思った矢先。家の隣に、多くの人の気配があることに気づいた。
「恵みの雨だ!あぁ、ありがたや、ありがたや」
「この上ない感謝を!」
「ありがたや、ありがたや……」
シャンタクのいる巨大テントの前で、村人と言う名の狂信者どもが列を作っていた。シャンタクの姿は見えないが、おとなしくしているのだろう。
まぁ、神として信仰する生物が来て、そのタイミングで雨が降ったら、さぞかしテンションも上がる。それは分かるんだ。でも近所迷惑考えろよ!
「あ、化身さまだ」
「え!?化身さま!?」
「わぁ、ホントだ!」
3人の子供たちが寄ってくる。男の子二人と、女の子一人だ。他の大人たちは俺に気づくと、俺に対しても「ありがたや」してくる。マジこえぇ。
ふと、違和感を感じる。この村は、平均年齢が妙に低い。大体、二十代後半が平均だろうか。だが、その割に子供の数があまりに少ないのではないか?
見た所、この村にいる子供はこの三人だ。この子達を除くと、最年少はシャリィさんであろう。彼女の姿は見えないが。
「この村で、子供は君たちだけなのかな?」
「う〜ん……分かんない」
「分かんない?どういうこと?」
「あのね、悪い子は、怖い祟り神に連れて行かれちゃうんだよ!」
「そうだよ!友達もホントは悪い子だったから……」
彼らがそこまで言った辺りで、列を作っていた村人の中から保護者らしき女性が急ぎ足で寄ってくる。
「あぁ、こらこら。あんまり祟り神の事なんて言うものじゃありませんよ。……すみません、龍神様」
そう言って、女性は子供達を連れて去っていった。
悪い子は祟り神に連れて行かれる……か。女性の反応からして、あの祟り神は本当に危険なものなのかもしれない。
「失礼します……少しよろしいですか?」
でも悪い子が何々にどうこうされる〜みたいなのって、大抵躾目的の嘘なんだよな。それにしても
「あの!!」
「はいっ!?え、なんすか!?」
情けない声をあげてしまった。声をかけた人物を見てみると、そこには昨日の夜にあった、村長曰くシャリィ。彼女がいた。
彼女は俺に耳打ちする。
「話を合わせてください」
「えっ?」
唐突すぎるぜお嬢さん。
「龍神様!昨晩にお頼みくださった、村の案内をさせていただきます。よろしいでしょうか?」
「え……あ、あぁ。よろしいが?」
「ありがたき幸せ。では、こちらへ」
他の大人は、深々と這いつくばって俺たちを見送った。直後に後ろから「ありがたや」と聞こえたが、精神衛生上無視だ。
「私の家に案内します。そこならゆっくりと話せるかと」
十八歳童貞、年頃の女子の家に誘われる。ここが異世界じゃなきゃ最高だった。
案内されるがまま、シャリィさんの後を着いてゆく。雨で体が濡れる。傘とか存在しないのかな?
「……私の名はシャリィです」
「あ、これはどうもご丁寧に」
ま、知ってたんだけどね。
「……」
「……」
「……」
「……」
え、何その顔。なんでこっち見てるの? この気まずい雰囲気、俺のせい?
「……いや、あなたは?」
「ん?え〜っと、龍神ですが?」
「は?」
「えっ」
「もしかして、ふざけてます?」
今思い出した。そういえば俺、龍神じゃねぇわ。




