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第十三話:不変であり普遍の心理

 俺はもう疲れた。これ以上の狂気を脳が受け付けようとしないのか、ここに書いてあったことは全て嘘であるように思えてしまう。いや、分かっている。きっと事実なのだろう。世の中には知らないことが多すぎる。未知が多すぎる。人間はそれを知ってはならないのだ。俺が正気を保っているのは、運が良いだけなのだ。または、あの愉快犯の神に精神を弄られたか……笑えない。


 記録書類を元に戻し、俺は何も考えずに奴の家を出た。無意識に警戒をしていたのか、はたまたあの女を恐れていたのか、逃げるように村長の家に戻ってきた。


「……クソ、クソだ。全部クソだ。なんで俺が……」


 うわごとを呟き、ドアを開ける。村長がすぐに出迎えてくるが、俺はもう疲れた。


「龍神様!よくぞお帰りになられました!」


「……」


 やめろ。俺を龍神様と呼ぶな。俺は内藤 哲だ。やめてくれ。


「龍神様、どうかないまし……」


「……龍神龍神うるせぇんだよぉぉぉ!!!俺はそんなバケモンじゃねぇ!!!どう見ても人間だろうが、いい加減にしろよ本当によぉ!!」


「なっ……!?」


 感情に流される。こんなことをしたら、この村にいることは不可能になる。俺は最低の法螺吹きだ。最悪、村人に殺される。


 息を切らしながら、自室に戻った。ドアを身近にあるもので塞ぐ。そして、布団を被って一人の世界に入った。考えることを放棄したのだ。


 ドアの向こうから村長の声がする。


「……今日の夜中。祟り神の像の前で待っています。この村の未来を左右する重要な話をしたいのです。どうか、どうか私の願いを聞き入れてください。私一人で待っていますので……」


 それ以降、声はしなくなった。無理矢理にでも考えることが出来てしまい、仕方なく思考する。


 このまま、のこのこ外に出て大丈夫なのだろうか。村長がさっきの件を村人に広めていて、村人全員にリンチを喰らうかもしれない。そうでなくても、例のイカれた女に見つかったら何をされるか。


 どれだけの間考えていたのだろうか。外はもう、光を失っていた。今がいつ頃なのか、全く分からない。もう夜中なのだろうか。家の中は静かだった。村長に呼ばれている。例の像のもとに行くなら、このタイミングしか無いだろう。だが、行けばおそらく厄介なことに巻き込まれる。さて、どうしたものか。







 もう、どうでもいいや。






 これで俺が死ぬのなら、どちらにせよこの世界で生き抜くことは、多分難しい。この場で逃げてもどうせ死ぬのだ。なら、最後ぐらい勇気を持って状況に向き合いたい。

 窓から家を抜け出し、あの像へ向かう。


「祟り神の像へ行くのですか」


「……!? ま、待て!殺さないでくれ!」


 窓から出てすぐに、死角からイカレ女が声をかけてくる。


 情けない。覚悟を決めても、結局は命を惜しむのだ。結局は、何もかも恐ろしいだけなのだ。


「だから殺しませんって。大丈夫です。落ち着いてください。あなたは人間ですから殺しません」


「信じられるか!! 俺は一度殺されかけたんだぞ!?」


「信じてください。大丈夫。あなたが人間であるように、私も人間なんです。大丈夫。大丈夫ですから。信じてください。大丈夫ですから」


「付いてくるな!!」


「……そうですか」


 意外にも、引き下がった。


 この女の家で見つけた記録を見れば分かる。この女は、頭のネジが飛んでいる。今の言動も本音から言っているのだろうが、何かの拍子に手のひらを返すかもしれないような危うさを感じる。発言に、何一つ根拠がない。ああいうのは信用ではなく盲信と言うのだ。本当の狂人は、言動に芯が無いと聞く。こいつはそれだ。


 シャンタクが囲い込まれているテントを通り過ぎる。シャンタクは連れて行けない。明らかに俺が警戒している、という印象を与えるからだ。相手を刺激したくない。


 そして、祟り神の像に着く。村長が像を見つめながら佇んでいた。

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