5.旧法学部3号館
雫は歩いた。
かつての東京大学の残骸、黒く焦げた跡の未だ残る道を歩き、法学部跡の立て看板のある場所に辿り着いた。
『法学部3号館』
そう書かれている古い建物が気になった。
…コンクリート製で、要塞のような…或いは戦前の建物のような印象を受ける。
雫は自然とそこに入った。
最初に見たのはバリケードの跡である。
椅子や机の積み上げられた古いバリケード…が、真っ二つに割られて、道は通れるようになっていた。
内部は意外にも綺麗で、古い印象は相変わらずなものの、不衛生な印象が感じられなかった。
…特に目を引いたのは2、3階の謎の空間だった。
かなり開放的な広々とした空間であるものの、端の方に乾いた泥水に塗れた本が大量に積み上げられているのだ。
元図書室…ということだろうか。
泥に塗れているうちの一冊を拾い上げ、開くと、すっかり泥が染み込んでいて、文字が読めなかった。
…どうせ5年ほどここで暮らすんだし、暇な時に汚れてない本でも探そうかな。
そう思った。
唐突に後ろから声が聞こえてくる。
「ね、貴女、新入りさん?もうすぐお昼ご飯の時間だよ」
その言葉に雫は振り返った。
そこにはプリンみたいに中途半端に髪を金に染めている女子がいた。
その目は私に向いている。
「…付けてきたの?」
不覚だ。推定…凶悪犯に後ろを取られるなんて。
「不快だった?」
プリン頭は小首を傾げ、そう聞いてきた。
「別に」
そこまで不快ではない。
その言葉にプリン頭は嬉しそうに顔を近づけてきた。
「貴女の名前は?」
パチンッ
私の手は無意識にプリン頭の頬を叩いた。
「あ、ごめん。近づかれるとつい」
プリン頭は頬を擦りながら、泣きそうな顔をした。
…そんな顔をされても。
雑に撫で回していると、プリン頭の機嫌は治った。
「で、貴女の名前は?」
「…『塔崎雫』」
「へー可愛い名前。あ、私『西園寺華音』っていうの。華音って呼んで!私は…貴女をなんて呼べば良いかな?」
「…雫で良いよ」
「実は私、ここに来たのすごい最近なんだよね!だから、雫は初めての後輩!」
華音は立ち上がり、上機嫌そうに言った。
私は立ち上がって、こう聞いた。
「それで…もうすぐお昼ご飯なんでしょ?」
「…あ、忘れてた〜ほら、着いてきて!」
華音は飛び跳ねながら、ダンスを踊るように歩き始めた。
「実はここに入ってからまだ友達できてないんだよね〜だから、雫が友達になってくれるのなら…今なら初めての友達になれるよ!」
それは…そうだろう。何せ凶悪犯を収容している場所なんだし、双方警戒するのが普通だ。
私も本当なら女子少年院行きだっただろうし、そんな奴と友人関係になるなんて…私ならしない。
「……華音が良いならそれで良いよ」
私がそう言うと、華音は目を輝かせた。




