3.主人公、釈放される?
私の言葉に、刑事達は凍りついた。
私は咄嗟にぷいっとテレビに目を向け、言った。
「すみません。まだ子供なので、感情の制御が苦手なんです」
もう一度視線を女性刑事に向けると、ちょっと泣きそうな顔をしていた。
もしかすると新人なのかもしれない。
…少し申し訳なく思った…けど、よく考えれば、人の領域に土足で踏み込んできたあっちが悪い。
そのまま言葉を交わすことなく、私は食事を終えた。
食器をキッチンに持っていき、洗い物を始める。
「お…おい、流石に今からは」
男の刑事が遅れてそう声をあげた。
「……今やらないとこの食器達がダメになりかねないので」
「流石にダメだ。食器に2つくらい我慢してくれ」
その言葉にイラッとくる。
「…………この食器、お母さんの形見なんだけど」
ギロッと睨み、低く言った。
刑事はすっかり怯んでしまった。
無言で食器を洗い、食洗機に放り込んで、機械にあとは任せる。
その後、タオルで手を拭き、そのまま刑事たちの前に立って、両手を軽く突き出した。
刑事たちは無言でそれを見つめる。
私は小首を傾げた。
「逮捕するんでしょう?」
思い出したように刑事達は動き出し、そのうちの一人が腕時計を見て、何やらブツブツと唱えた後、手錠で私を拘束した。
雫はそのまま覆面パトカーに乗せられ、両脇を女性警官に挟まれた。
彼女はポケットから何気なくウォークマンを取り出し、ワイヤレスイヤホンでウォークマンから音楽を流した。
その仕草が自然過ぎて、隣の女性刑事達は気づいていない。
運転席の刑事はミラー越しにそれを見て、ため息をついた。
…本当ならそういうのは取り上げなくてはいけない。
ただ、ウォークマンには通信機能なんかが付いていないし、無駄に追加の報告を書きたくはないので、刑事はそれをあえて無視した。
刑事は車を走らせる。制服姿の殺人鬼を乗せて。
街は朝日に照らされ、ゾンビのように闊歩する人間を抱いていた。
雫はそれを眺める。
何分かかったかは測っていなかったが、しばらく経った時のことだった。
突然、車が止まり、忙しなく刑事達が私を外に立たせた。
そこは東京都文京区の本郷だった。
…なぜわかるのか、それは目の前に東京大学の旧本郷キャンパスがあるからだ。
高いフェンスと鉄条網で囲われたそこには、木製の『陸上自衛隊本郷駐屯地』と書かれた立て看板が掛けられていた。
「…いきなりで、すまんが…法務大臣の命令で君を釈放する」
そう言い、刑事の突き出した書類には『特定凶悪犯釈放令状』と書かれていた。
…わざわざこんなところまで連れてきておいて…どういう了見だろう?
そのことを説明せず、刑事達は逃げるように車に乗りこみ、私を置いて去っていった。




