2.主人公、逮捕される
火曜日の朝7時。
『雫』の自宅にて。
その日、彼女はいつも通り制服を着て、学校に行く準備をしていた。
ピンポーン。
その音は、なんの変哲もないインターホンの音だった。
「はーい」
雫はそう言い、トースターから取り出そうとしていたパンをそのまま放置し、玄関へ向かった。
ガチャ。
外には物々しいスーツ姿の男女がいた。
「君、『塔崎雫』さんで間違いないかい?」
男のうちの一人がそう尋ねる。
「はい。そうですけど」
私はそう応じる。
「…君に、逮捕状が出ている」
男は書類を突き出し、言った。
……前々から、こうなることは分かっていた。
警察とて馬鹿じゃない。
ただ、少し遊ぶことにした。
せっかく今日は休みになったのだ。この人達のおかげで。
「……最近、流行ってますよね。そういう詐欺」
私は気怠そうにそう言い、扉を閉めようとした。
すると男が焦ってドアの隙間に足を挟む。
仕方が無いので、また開けると、スーツの刑事さん達がみんな気まずそうな顔をした。
「…はいはい。わかりました。ただ、朝ごはんまだなので食べても良いですか?うち入ってきても良いので」
両手を軽く肩の高さに上げて、私は言った。
先程の男がまた口を開いた。
「………お前、やけに肝が据わってるな」
「子供なら誰だって妄想したことあるでしょう。ちょっとしたことで警察が訪ねてきて、逮捕される夢なんて……入らないなら閉めますけど、どうしますか?」
私がそう言うと、男が慌て気味にドアを触った。
…入るということだろう。そう判断し、家の中に入る。
雫は家の中を歩き回る。そして何気なくリビングのテレビの後ろに置いておいた何かをサッと取り、ポケットに隠した。
そのまま、キッチンに戻り、まだ熱いパンを爪で引っ掛けてトースターから取り出し、皿に載せる。
続けて、給湯器に向かい、コップにお湯を入れ、インスタントコーヒーを作った。
その頃、ぞろぞろとキッチンに刑事たちが入ってきた。
雫は両手に食器を持ち、ダイニングへ向かう。
刑事達は目配せしながらそれに続いた。
彼女は席に着き、テレビの電源を入れて朝のニュースを見ながらパンを齧った。
たまに刑事を見ながら、平然とコーヒーを啜る。
「…座らないんですか?」
雫のその言葉に、何人かが動き、彼女の向かい側に腰掛けた。
「………雫ちゃん、貴女、殺人容疑で逮捕状が出ているけれど…認める?」
刑事の1人…若い女性刑事が真剣そうに問いかける。
雫はその言葉に一瞬、眉をピクリと動かした。
「…馴れ馴れしい」
そう言い、彼女は女性刑事に目を向ける。
その目に光はなかった。




