24.もう二人の模範囚
私達は今、銭湯にいた。
もっとも、銭湯と言ってもフェンスの中にあるものなのだけど。
銭湯には先客が1人いて、湯船に浸かりながら防水ケースに入れたスマホをタップしていた。
華音は朝食を食べたあと、すっかり元気になっていた。
「ね、今日も頭洗ってよ!」
「…良いよ」
この銭湯のシャンプーやボディソープは、刑務官が使うためか、結構上等な市販のものが使われている。
おかげでよく泡立つし、すぐに洗い流しても問題ない。
ただ、私にはちゃんとルールがある。
なのでそれに従い、手順通りに華音の髪を洗う。
華音は落ちてくる泡に目をやられないよう瞼をギュッと閉じていた。
その後、自分の頭と身体も洗い、華音と共にお風呂に入った。
「今日、何しよっか」
華音は先客に配慮してか小声で私にそう言ってきた。
「……うーん…スマホ手に入ったし、何かゲームでもやる?」
「それ良いね!私ゲーム大好きだよ!」
華音はニコッと笑った。
「ねぇ貴女たち、もしかして新人さん?」
先客の女が話しかけてきた。
その目はずっとスマホに向いていて、こっちを見る素振りもしてこない。
「…そうですけど」
私はそう答えた。
「へ〜可愛い…で、スマホ手に入れてるってことは外に出たんだよね?誰がお目付け役だった?あぁ、もし複数いるなら一番偉そうな人の名前を教えて」
「…別に1人でしたけど…淀川さんです」
その言葉に女は目を見開き、こちらを向いてきた。
やっと目が合った。
「淀ちゃんが…淀ちゃんが…?」
「えっと…何か…?」
「ああ…えと…淀ちゃんはいつも応援役としてくらいしか外に出てこないの。
で、これまで一度も自分から囚人を連れて外に出たことはない。
聞いてみたら『初めから私一人だけで管理できるような良い感じの…賢い子…私と合う子がいれば、もしかしたら飼うかも』って言ってたの」
「…つまり私たちが『賢い子』ということですか?」
「そう。そうなる……これはお祝い送っとかないと」
また女はスマホを見始めた。
そして途端に私達をパシャッと撮った。
…こういう場は撮影禁止じゃないのだろうか。
銭湯を出た。先ほどの女とはしばらく一緒にいたけれど、男湯の方からガタイの良い男が出てきて、女は『北原、行くぞ』なんて言われ、連れ去られていった。
女は抱きかかえられながらも普通にスマホを触っている。
「北原って言うんだね。あの人」
華音はそう言う。
「そうだね…まぁ…どうでも良いけど」
そう返す。
「ん、帰ろ〜」
華音は私の手を引いた。




