21.被害者?
2階から降りてきた女を、淀川は問答無用で床に押し付け、結束バンドで拘束した。
その手際は見事なもので、さながら警官のようだった。
華音は淀川に押さえつけられた女の横にしゃがみこみ、見下ろしながら口を開いた。
「貴女、名前は?どこの人間?出身地は?」
「誰!?誰なの!?」
「……普通…質問を質問で返す?」
華音は少しムッとした顔で女の顔を掴み、ライターの火を女の前に近づけ始めた。
「華音?」
止めに入った方が良いだろうか。
「ちょっ………えっとッ…!佐々木夏子ッ!佐々木夏子!!ここの職員ッ!家は船橋ッ…!!やめッ!やめて!」
華音は息を吐いて、渋々といった表情で女の顔から手を離し、ライターを自分のところに戻した。
「ねぇ雫、眠い」
華音は光の無い目でこちらを見てくる。
「…まぁ、もう仕事終わったし、寝て良いよ」
私は華音を抱きかかえた。
華音はライターの火を消し、瞼を閉じた。
「じゃあ、車に乗せてくるから」
私は淀川にそう言い、建物を出た。
淀川は若干苦笑した後、少し頷いた。
車に乗り、後部座席に華音を降ろし、建物にまた戻る。
「ち…地下に案内します!」
淀川は佐々木を立たせていて、佐々木はそんな風に淀川に言っていた。
「…地下…ね、わかった。案内して」
淀川はそう言い、佐々木の肩を掴みつつ、彼女の後ろを歩いている。
私はその後ろに続いた。
薄暗い階段をライト頼りに降りていく。
そのうち真っ暗な1つの部屋に出た。
佐々木は壁をぺたぺたと触り、そして照明をつけた。
最初に目に付いたのは朝鮮語の書かれた赤い旗だった。
パシャッと撮って、検索にかけると、それは『朝鮮人民軍』の旗だった。
…少しゾッとした。
「ここは?」
「かつて…掃除用具入れとして使っていた地下室です。最近やってきた連中が…その…旗を掲げて…」
淀川は舌打ちした。
「これは…外事案件になるかもしれない」
部屋には他に…謎の大きめの筒のようなものが置いてあり、確認すると中身は破壊されているように感じた。
「…これ、壊れてるけど…なにかの掃除用具?」
佐々木は私の言葉に何か考えるような表情をした。
「…………えっと…どうでしょう」
佐々木は結局そう言い、首を傾げた。
…妙だ。
ただ、淀川はそう思わなかったのか、軽く頷き、スマホで写真を撮って、言った。
「…一応、警察庁に紹介を頼もう。この旗も含めて、千葉県警警備部に押収を任せようか」
「で、この女…どうします?」
「解放で良いよ。今日のことを言ってもどうせ誰も信じないだろうし」
そういう訳で、私達は本郷に帰ることとなった。
帰りは後部座席に座り、華音を膝枕していた。




