↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81(エイティーワン)  作者: 雨後乃筍
1章 甘い毒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/44

1−5 逢瀬

 暗い部屋の中に嬌声が溢れていた。どうしよう。私おかしくなっちゃったみたい……。生まれて初めての感覚、感じたことのない気持ちがとめどもなく溢れ出し、口から漏れる声を抑えることができなかった。


 その甘い声に憶俊《イージュン》が答えるように、時に激しく、時に優しく私を愛してくれた。憶俊《イージュン》に触れられるたびに、快感が体を激しく刺激し、電気が流れるみたいに反応して、憶俊《イージュン》を求めた。


 自分でも信じられなかった。今まで埃と油にまみれて、女らしい色気なんて縁のなかった体の奥底に、こんな甘く溶けるような感情が眠っていたなんて。


 初めての時からそうだった。初めての夜、憶俊《イージュン》が「まだ経験がない」って言っていたから、ちょっとお姉さんぶって、つい「大丈夫、リラックスして」とか言っちゃってたけど、私も心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしていた。


 優しくキスをして、お互いの舌を絡めた時、全身の力が入らず、何も考えられず、ただ本能の赴くままに憶俊《イージュン》を求めていた。ゆっくりとベッドに横たわって、ブラウスのボタンを外す憶俊《イージュン》の手が微かに震えていた。自分の手を重ねて、憶俊《イージュン》の仕草と息遣いを一つ一つ追っていく。甘い憶俊《イージュン》の匂いとシーツの冷たさが直接肌にあたる感触。服がはだけて、露わになった私の肌に、憶俊《イージュン》の唇が這うように滑っていくと、もう自分の意思で体を動かすことは叶わず、されるがままになっていった。憶俊《イージュン》に触れられた部分は、その度に電気が流されたみたいに激しく反応し、言葉にならない声をあげていた。


 あの時とは全然違う。


 憶俊《イージュン》が休むことなく触れ続けて、止まることのない電気が走るような感覚が全身を駆け巡り、いままで出したことがないような甘い声が漏れ、手でされるだけで大きな波が何度も押し寄せてきていた。まるで私の体を知り尽くしているみたい。


 ぐったりして、もう声も出すこともできず、ただ憶俊《イージュン》の体にもたれ掛かって荒い息遣いだけが部屋の中に響いている。憶俊《イージュン》が私の体を優しく包むよう撫でて、徐々に声が出るようになっていた。


「初めて……なんて……嘘……でしょ?」

息も絶え絶えの問いかけに、優しい眼差しを送ってくる。


「本当に初めて、美里《みさと》さんが」


「……嘘……だって……こんなに……」


「美里《みさと》さんに喜んでほしくて、勉強したから」


「……え?……勉強?」


「ビデオとか……」


 視線をシーツに落とし頬を掻く彼が愛おしくて堪らない。やっと動くようになった腕を回して、笑いながら抱きしめていた。


 可愛い。


 成人した男性がこんなにも愛おしいなんて。嘘でもいい、初めてでなくてもいい。今は私の憶俊《イージュン》、私だけの憶俊《イージュン》。


 そっとキスをして、もう一度体を重ねた。相性って言うのかな? そういうの本当にあるんだ。


 今夜も、何度目かの絶頂を迎えた後、憶俊《イージュン》の胸に抱かれながら囁いた。


「憶俊《イージュン》、愛してる。ずっと一緒にいてくれる?」


「美里《みさと》さん、僕も愛しています。ずっと一緒にいます」


 憶俊《イージュン》の胸に顔を押し付けながら指でなぞっていると、ふと指先に違和感があった。


「憶俊《イージュン》、これどうしたの?」


 何気なく触れた指先には、大きな傷があった。左肩から左胸にかけて。見た目ではわからないが、触ると皮膚が盛り上がっている。まるで作り物みたいだ……。


「これは、昔の怪我」


 なんてことないという風に憶俊《イージュン》が答える。


「こんなに大きな傷、痛かったでしょう」


「今はもう平気」


 こんな大きな傷……何か大怪我でもしたのだろうか……。そういえば、憶俊《イージュン》の昔の話って、聞いたことなかったな。どんな子供だったのだろう? どんな学生時代だったのかな? 恋人とかいたのかな?

 家族は? 親戚は? 友達は?

 どんな遊びが好きだったのだろう? どんな食べ物が好きだったのだろう?

 どんな……、どんな……、どんな……。


 色々な疑問がぐるぐると頭の中に浮かんでは消えていく。これからたくさん聞いていこう。たくさん話していこう。もっと知りたい。もっともっと憶俊《イージュン》のことを受け入れたい。

 まるで白昼夢を見ているみたい。とっても幸せで希望に満ちた夢。そしてほんのちょっとの不安。そんな思いを抱いたが、憶俊《イージュン》に優しく髪を撫でられて、腕の中に包まれている内に、満ち足りた気持ちで深い眠りへと落ちて行った。


 <つづく>



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。