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81(エイティーワン)  作者: 雨後乃筍
1章 甘い毒

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1−6 カラフル

 翌日、キラキラとした朝日が部屋に差し込む中、憶俊《イージュン》の腕の中で目を覚ました。この部屋って、こんなにも輝いていたっけ? 差し込む光の筋が、まるで天からの贈り物のように輝いている。そんな光景を見ながら、しばらくは憶俊《イージュン》の腕の中で鼓動を聞いていた。顔を押し付けていると、リズミカルな振動が頭を揺らしている。そっと手を這わせて、憶俊《イージュン》の胸の盛り上がりをなでる。

 その手に被せるように憶俊《イージュン》の手が重なってきた。


「美里《みさと》さん、ちょっとくすぐったい」


「起こしちゃった?」


 手と手が重なり、憶俊《イージュン》の目が合った。彼の手が私の髪を優しく撫でる。


「……ちょっと前から」


 憶俊《イージュン》が眩しそうに目を細めていた。


「いい天気ね。暑くなりそう……」


「楽しみですね。お祭り……」


 今日は二人でかっぱ祭りに行く日だった。


「そろそろ起きる?」

 時計を見ると、まだ朝の五時前だった。早朝とも思えないほど強い日差しが部屋の中に差し込んでくる。


「ちょっとまだ早いですよね?」


「そうだね……だいぶ早い……ね。もうちょっと寝ていても大丈夫……」


 憶俊《イージュン》に手を回して、唇を重ねる。憶俊《イージュン》の手が、肩から腰、そして……。


「あ、ダメ、こんな朝から……」

 言葉とは裏腹に、体が憶俊《イージュン》の指を求めていた。汗ばむような日差しの中、彼の顔が徐々に下がっていった。それを狂おしげに抱きしめて、声を漏らしていた。


「憶俊《イージュン》、ダメ……、もう……また……」

 夏の日差しよりも熱いものが、体の中を駆け抜けて、また心が溶けていっていた。まるで二人の心がシンクロするみたいに。


 ◇◇◇◇◇


 普段は閑散としている表通りは、今日はムッとするような人混みと熱気に溢れていた。たくさんの屋台が出ていて、憶俊《イージュン》が子供のように「あれなんですか?」「これおいしそう」とはしゃいでいる。

 弟とかってこんな感じなのかな。いや弟とは、あんなことしないか。今朝のことを思い出して急に恥ずかしくなる。


 屋台のかき氷を買って、憶俊《イージュン》と半分こにして食べた。


 屋台のオジサンがストローを二つつけてくれたから、一つのカップにふたりでストローを入れる。暑いのに、憶俊《イージュン》と顔がくっつきそうになって食べるかき氷。


 こんな漫画みたいなこと、するなんてね。


 でも、嬉しい。想像もしなかった漫画みたいなシーン。


 そのうち、軽快な音楽と共にパレードがスタートした。


 かっぱ祭りの目玉は、かっぱの扮装、と言ってもかっぱのお皿の被り物をした参加者が、音楽に合わせて踊りながら街を練り歩くものだった。


 憶俊《イージュン》が子供のように、声をあげてはしゃいでいた。


「なんですか、あれ!?」


「面白い! 頭が禿げてる!」


「かっぱかっぱかっぱ!」


 憶俊《イージュン》がはしゃぎすぎるから、恥ずかしくなって憶俊《イージュン》の服を引っ張っていた。


 もう、恥ずかしい。


 けど、憶俊《イージュン》がはしゃいでいると、楽しくなってきちゃう。


「美里《みさと》さん、僕たちも踊りましょう!」


「え?やだ、恥ずかしいよ」


 憶俊《イージュン》が強引に手をひっぱって、パレードの最後尾についた。踊りもめちゃくちゃだし、みんなに見られて恥ずかしい。


 でも憶俊《イージュン》、楽しそう。


 それを見ていた私も楽しくなってきちゃう。誰かが、かっぱの被り物を渡してくれた。

 二人で、それを被りながら、笑いながらパレードについて行った。


 憶俊《イージュン》と、こうしてずっと笑って過ごしたい。


 パレードが一通り終わって、二人で道端に座り込んだ。炎天下で、かっぱの被り物をして歩くのは相当きつい。係の人が配るスポーツドリンクを飲んだ後、コンビニで買ったビールで乾杯した。


 私たちの手には『牛久かっぱ祭り』のキャラクターのキーホルダーが握られている。パレードの参加賞としてもらったものだった。


「こんなに笑ったの久しぶり!」


「楽しかったですね。まさか日本でかっぱになれるとは思いませんでした」


「憶俊《イージュン》、踊りめちゃくちゃなんだもん。みんな笑ってたよ」


「日本にこんな諺ありますよね。踊る阿呆に見る阿呆」


「同じ阿呆なら踊らにゃソンソン!」


 憶俊《イージュン》と声を揃えて言って、また大笑いした。


「ねえ、今夜どうするの?私は明日仕事で朝早く出るけど」


「美里《みさと》さんがよければ、明日美里《みさと》さんの家から仕事に行きたいです」


「今夜も一緒に?嬉しい!」


 人目も気にせず、憶俊《イージュン》に抱きついた。今夜また……でも明日仕事だから早く寝なきゃ……でも……。


 夜のことを考えると、お腹の下の方がキュンとした。


 急に恥ずかしくなって、思わずビールを流し込む。


 この数ヶ月、憶俊《イージュン》と出会ってから、男性と同じような感覚で油と泥にまみれていた生活が、カラフルな色彩に塗り替えられていくようだった。

 隣に座る憶俊《イージュン》の横顔を眺める。少年のような無邪気な笑顔、どこか憂いのある目、汗の甘い匂い。


 (憶俊《イージュン》、幸せ……ずっとこうしていたい)


 そっと彼の肩に頭をあずけ、街の喧騒を眺めていた。


 <つづく>


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