1−6 カラフル
翌日、キラキラとした朝日が部屋に差し込む中、憶俊の腕の中で目を覚ました。この部屋って、こんなにも輝いていたっけ? 差し込む光の筋が、まるで天からの贈り物のように輝いている。そんな光景を見ながら、しばらくは憶俊の腕の中で鼓動を聞いていた。顔を押し付けていると、リズミカルな振動が頭を揺らしている。そっと手を這わせて、憶俊の胸の盛り上がりをなでる。
その手に被せるように憶俊の手が重なってきた。
「美里さん、ちょっとくすぐったい」
「起こしちゃった?」
手と手が重なり、憶俊の目が合った。彼の手が私の髪を優しく撫でる。
「……ちょっと前から」
憶俊が眩しそうに目を細めていた。
「いい天気ね。暑くなりそう……」
「楽しみですね。お祭り……」
今日は二人でかっぱ祭りに行く日だった。
「そろそろ起きる?」
時計を見ると、まだ朝の五時前だった。早朝とも思えないほど強い日差しが部屋の中に差し込んでくる。
「ちょっとまだ早いですよね?」
「そうだね……だいぶ早い……ね。もうちょっと寝ていても大丈夫……」
憶俊に手を回して、唇を重ねる。憶俊の手が、肩から腰、そして……。
「あ、ダメ、こんな朝から……」
言葉とは裏腹に、体が憶俊の指を求めていた。汗ばむような日差しの中、彼の顔が徐々に下がっていった。それを狂おしげに抱きしめて、声を漏らしていた。
「憶俊、ダメ……、もう……また……」
夏の日差しよりも熱いものが、体の中を駆け抜けて、また心が溶けていっていた。まるで二人の心がシンクロするみたいに。
◇◇◇◇◇
普段は閑散としている表通りは、今日はムッとするような人混みと熱気に溢れていた。たくさんの屋台が出ていて、憶俊が子供のように「あれなんですか?」「これおいしそう」とはしゃいでいる。
弟とかってこんな感じなのかな。いや弟とは、あんなことしないか。今朝のことを思い出して急に恥ずかしくなる。
屋台のかき氷を買って、憶俊と半分こにして食べた。
屋台のオジサンがストローを二つつけてくれたから、一つのカップにふたりでストローを入れる。暑いのに、憶俊と顔がくっつきそうになって食べるかき氷。
こんな漫画みたいなこと、するなんてね。
でも、嬉しい。想像もしなかった漫画みたいなシーン。
そのうち、軽快な音楽と共にパレードがスタートした。
かっぱ祭りの目玉は、かっぱの扮装、と言ってもかっぱのお皿の被り物をした参加者が、音楽に合わせて踊りながら街を練り歩くものだった。
憶俊が子供のように、声をあげてはしゃいでいた。
「なんですか、あれ!?」
「面白い! 頭が禿げてる!」
「かっぱかっぱかっぱ!」
憶俊がはしゃぎすぎるから、恥ずかしくなって憶俊の服を引っ張っていた。
もう、恥ずかしい。
けど、憶俊がはしゃいでいると、楽しくなってきちゃう。
「美里さん、僕たちも踊りましょう!」
「え?やだ、恥ずかしいよ」
憶俊が強引に手をひっぱって、パレードの最後尾についた。踊りもめちゃくちゃだし、みんなに見られて恥ずかしい。
でも憶俊、楽しそう。
それを見ていた私も楽しくなってきちゃう。誰かが、かっぱの被り物を渡してくれた。
二人で、それを被りながら、笑いながらパレードについて行った。
憶俊と、こうしてずっと笑って過ごしたい。
パレードが一通り終わって、二人で道端に座り込んだ。炎天下で、かっぱの被り物をして歩くのは相当きつい。係の人が配るスポーツドリンクを飲んだ後、コンビニで買ったビールで乾杯した。
私たちの手には『牛久かっぱ祭り』のキャラクターのキーホルダーが握られている。パレードの参加賞としてもらったものだった。
「こんなに笑ったの久しぶり!」
「楽しかったですね。まさか日本でかっぱになれるとは思いませんでした」
「憶俊、踊りめちゃくちゃなんだもん。みんな笑ってたよ」
「日本にこんな諺ありますよね。踊る阿呆に見る阿呆」
「同じ阿呆なら踊らにゃソンソン!」
憶俊と声を揃えて言って、また大笑いした。
「ねえ、今夜どうするの?私は明日仕事で朝早く出るけど」
「美里さんがよければ、明日美里さんの家から仕事に行きたいです」
「今夜も一緒に?嬉しい!」
人目も気にせず、憶俊に抱きついた。今夜また……でも明日仕事だから早く寝なきゃ……でも……。
夜のことを考えると、お腹の下の方がキュンとした。
急に恥ずかしくなって、思わずビールを流し込む。
この数ヶ月、憶俊と出会ってから、男性と同じような感覚で油と泥にまみれていた生活が、カラフルな色彩に塗り替えられていくようだった。
隣に座る憶俊の横顔を眺める。少年のような無邪気な笑顔、どこか憂いのある目、汗の甘い匂い。
(憶俊、幸せ……ずっとこうしていたい)
そっと彼の肩に頭をあずけ、街の喧騒を眺めていた。
<つづく>




