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81(エイティーワン)  作者: 雨後乃筍
3章 臨界点

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3−8 闇の住民

 竹川たけかわはPCの画面上に流れる文字を睨みつけるように追っていた。見ているのは自分の会社の別チームとのチャットルームだった。竹川たけかわのように現場で対応する人間と、原則は表に出てこず、解析を中心に行うチームがいた。竹川たけかわも会った事はなく、チャットでのやり取りしかしたことがない。


『さっき通信のキャプチャ送ったけど、なんか分かった?』


『おおよその手口は分かった。制御プログラムにバッファオーバーフローの脆弱性があるみたいだな。安全性を重視したのだろうが、エア・ギャップを過信していたな』


『バッファオーバーフローか、定番過ぎて笑えないね』


『これを使って停止コマンドを掛ける時に、その直前まで戻るようにしてある。つまり何回停止コマンドを発行しても、コマンド発行前に戻る仕組みだな』


『その原子力発電所の制御システムは、コンソールから発行されたコマンドを元にモジュールがパッケージされ、CPUに送られる。この時にパッケージにバッファオーバーフローの脆弱性がある。これを上書きしているみたいだな。』


『へえ、やるじゃん』


『感心してどうする?』


『脆弱性がわかったんなら、パッチも作れない?』


『無理だな。仮に作れたとしてもロードする時間がない。そっちは? 場所を特定して除去するほうが早いだろう?』


『その場所の特定ができないのよ。インターフェースが多すぎてね。通信のキャプチャはできても、その通信がどこを流れて、どこで上書きされているかが特定できないよ』


『やはり難しいか』


『ケーブル一本一本引っこ抜いてテストしない限り、無理だろうね』


『こっちも脆弱性があるところまではわかったが、どうやってそれを利用しているかまではわからないな』


『……じゃあ、お手上げってこと?』


『……今のところは、そういうことだ』


『……あーあ、引きこもり生活確定か……まあいいけど。出てきた時に日本、まだ残っているかな?』


『はは、それはなんとも言えないな。オレには関係のない海の向こうの話だ』


『たく、他人事だと思って』


『……あったぞ』


『え? なにが?』


『攻撃用のライブラリ。茨城原発のコントロールシステムだ。誰かがダークウェブにモジュールごと置いていた。別の調査チームが見つけてきた。そのアドレスが公開されたらしい』


『うそでしょ? なんでそんなのがダークウェブで公開されているのよ? うまくやれば大儲けできるのに』


『それはわからんが………置き忘れたか?』


『相手は軍でしょ? そんなヘマする?』


『可能性があるとすれば………内部リークだ』


『それって信用できるの? 使ったらドカンとか勘弁』


『それはわからん。いま調査チームで解析中だ』


『間に合うの?』


『解析にそれほど時間はかからない。ただそれが分かったとしても、そっちの特定やパッチ作成までは手がまわらないな』


『……ねぇ、こういうのはどう? 脆弱性を使った攻撃をするモジュールなんでしょ?』


『…………』


『……お前本気か?』


『爆発するよりマシでしょ?』


『……できなくはないが手が足りない』


『……アイツらに頼んだら? 賞金出せば喜んでヤるんじゃない?』


『……アイツら?』


『闇の住民、ダークウェブに出入りしている、引きこもりたち。ちょっと煽ってみるよ』


『……おいおい、あんな得体のしれない奴らに、原子力発電所の脆弱性を晒すのか?』


『こっちはこっちで、パッチの作成を急ぎなよ。どうせ拠点は一つしか無いし、ネットにもつながっていない。基本ノーダメージでしょう?』


『しかし、アイツらが日本の平和のために動くと思うか? むしろ戦争になるほうが楽しくて良いって思っているような連中だぞ?』


『誰が日本のためにお願いするって言った?』


『え?』


『日本のためじゃないよ。まあ見てな』


 ◇◇◇◇◇


 いつも出入りしているダークウェブのとあるサイトにアクセスしていた。そこは、何人居るのか、国籍、性別もわからない人間が、正義も悪意も入り乱れて存在する場所だった。言語は自動翻訳されるので、元の言語が何かすらわからない。そこにメッセージを投下した。


『中国軍が作ったマルウェアのモジュール見つけたんだけど?』


『中国?軍?』

『どうせロクでもないものだろ』

『これって破れない?』

『チョロ』

『バカにしてる?』


 ものすごい勢いでチャットが流れていく。


『脆弱性自体は珍しいが、単純な仕掛けだ。三流だな』

『もう中身見たの? 仕事早!』

『トラップあるんじゃね?』


 いい感じにノってきている。


『これって、流用してなんかできるんじゃない?』


『なんかって?』

『だってさ、こんなの作って粋がっているヤツ、懲らしめたくない?』

『イイネ!』

『ワクテカ!』


 ここだ!


『例えばさ……同じ手段で仕返しされたら、悔しいよねー』

『同じ手段?』

『同じ脆弱性を利用して、無効化されちゃったらさ。だって、結構金掛けているでしょ?これ見つけるのに。それが一瞬でパー』

『オモロー』

『モジュールのリターン値を変えるだけでいけそうだな』


『例えば……こんなのか?』

 そこには、改造されたモジュールコードがアップロードされていた。

(こいつ、マジモンのバケモンかよ! こんな短時間で……まさか)


『あんた、軍の人間か? まさか……何が狙いだ?』


『…………』


 それ以降、その人物がチャットルームに現れることはなかった。


 アップロードされたコードをダウンロードし、自分のPCに組み込んでいく。チラリと時計を見た。もうあまり時間がない。


 テストをしている時間はないか......ぶっつけ本番ってことね。まあ、失敗しても、引きこもり生活するだけだし、基本ノーダメだしね。


 チャットルームでは、変わらず雑多なやりとりが続いていた。


 それにしても、あんな短時間で軍のコードを解析して書き換えるなんて……。面白半分のハッカーのレベルじゃない。背後に国家レベルの組織でも噛んでいるのか?

 ははっ! どうやら日本という国は、いろんな利権に絡んでいるようだ。攻撃したい奴、裏切る奴、その攻撃を不正で付け入ろうとする奴。


 竹川たけかわの手は、ロードが終わったPCのケーブルを乱暴に引っこ抜いて、別のケーブルに繋ぎかえる作業に移っていた。

 

 <つづく>


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