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81(エイティーワン)  作者: 雨後乃筍
3章 臨界点

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3−5 人か国か

 制御センター内では職員が忙しそうに動き回っていた。遠野とおのの叫び声が制御センターに響き渡る。

 もう十時間は経過しただろうか。職員の顔に絶望とも見える疲労が浮かんでいた。

 休憩を指示したが、誰も休憩を取ろうとしなかった。遠野とおのも同様だった。

 こんな状態で、ろくに休憩を取れない気持もわかるので、強く指示はしなかったが、このままでは皆参ってしまう。どこかで区切りをつけないと。


「片側運転にできないか? 出力が半分になれば時間稼ぎができる」


「やってみましたが、止まりません」


「フェイルセーフの再起動は?」


「同じです」


「もう前の世代のバックアップからのレストアは?」


「もうやりました。ダメです。一瞬正常になるんですが、またすぐに戻ってしまいます」


 竹川たけかわは何か自分のPCで操作しながら、他人事のように呟いた。


「多分、どこかのハードウェア上に仕掛けられて、常に上書きしているから、レストアしてもまた上書きされちゃってるんだろうね」


 この制御センターの中で、一人だけ温度感の違う竹川たけかわを睨みつけた。


「オジ〜サン」


「なんだ?」


(まだ爺さんと呼ばれる年じゃないぞ)


「電話〜」


 竹川たけかわが自分のヘッドホンを差し出した。


「電話? これが?」


「上司というか客、さっき報告入れたから。ここの責任者と話したいってさ」


 竹川たけかわから受け取ったヘッドホンを自分の耳に当てる。


「もしもし、制御センターの遠野とおのです」


「国家情報局保安部です。状況を教えてください」


「原子炉の核分裂を止めることができません。あと数時間で限界がきます」


「限界がくると、どうなりますか?」


「え?」


「原子力発電所の限界がくると、どうなるのですか?」


(何を言っているんだ?)


「それは……セシウム137からの放射能が650シーベルトで……」


「素人にわかるようにお願いします」


「……チェルノブイリの数倍規模の事故が発生します。周辺は即死レベル。最低でも半径三十キロは立ち入り禁止です」


「なるほど、本州が分断されるわけですね」


「それだけではないです。東京と近隣県への電力供給が止まります。交通機関、ライフライン全部です。完全復旧には数日かかります」


「わかりました。できる限り原子炉を止めることと時間稼ぎを最優先にしてください」


「それができれば、とっくにやっています! もう十時間以上です! もうすぐ夜が明けます!」


(そうだ、地域住民の安全!)


「住民に避難指示を! 事故を公表して!」


 だが、電話の声は無情だった。


「……できません」


「……今、なんて言いました?」


「そんなことをすれば、パニックになる。付け入る隙を作るだけです」


「何を言っているんですか!! 何万人という住民を見殺しにするつもりですか!? 即死レベルの放射線が出るんですよ!」


 思わず電話の向こうに怒鳴りつけた。


 だが向こうは冷静に言った。


「そんなものではすまない。首都、いや日本自体がなくなるかもしれない」


「……首都? 日本!? いったい何の話ですか?」


「中国の軍隊が、日本海に駐留しています。軍事侵攻です。戦争ですよ」


「なんですって!?」


「そこの原子力発電所の近くに、米軍基地がある。もし原子力事故が発生すればしばらく米軍基地は機能不全を起こす。抑止力がなくなり日本海側から首都までノンストップで来れる。それが狙いです」


「……とても信じられない。映画の話を聞いているようです」


竹川たけかわに代わってください」


 竹川たけかわにヘッドホンを差し出すと、彼女はいかにもめんどくさそうに耳に当てた。


「はあ? そんなの無理じゃん、どこにあるのかもわかんないのに」


「そんなこと言うんなら自分でやんなよ! あたしにできないもんがアンタにできるとは思えないけどね。無理なもんは無理!」


「……追加料金もらうからね! ネカフェのVIPルームぐらい用意してよね!」


 そう言いながら、ものすごい速さでPCを操作していた。


 その様子を、不気味なものを見るような目で見ていた。軍事侵攻、サイバー攻撃という今まで自分とは関係ない世界の言葉。自分の無力さに、諦めと憤りが交錯していた。


 <つづく>


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