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コモスタクト ―星々を結ぶ意志―  作者: パンチャー
第4章 第一次ウラニア会戦 後編
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決別

あの大混乱を極めた審議の停滞からしばらくして、再度会議が開かれた。


 当然、議場では激しい一悶着があったものの、最終的には双方が不満を残したまま「妥協案」という形で一応の決着を見ることとなった。

 しかし、これは決して根本的な解決などではない。


 軍事を絶対視するレグルス派と、民の生活を最優先とするマルマイン派――。両派閥の間にはもはや埋めようのない決定的な「歪み」が生じており、何かほんの小さなきっかけさえあれば、いつでも国が分裂しかねない極限状態に陥っていたのだ。


 そして――その最悪のきっかけは、皮肉にも「宙域の彼方」から訪れてしまった。

 南方向の宙域にて、恒星の微小な減光現象が観測されたのである。


 両派閥に生じた歪みは、表面上ではなんとか沈静化しているように取り繕われていた。しかし、この前代未聞の異常事態を境に、亀裂は二度と修復不可能なほど巨大に、そして深く落とし込まれていった。


 両派閥のトップであるレグルスとマルマインを筆頭に、この未曽有の脅威へどう対処すべきかの緊急審議が巻き起こる。


「今回観測された異常事態も含め、我が国がどう対処すべきかを議論の議題とする!」

 議長ルキウスが立ち上がり、議場へ向けて厳かに宣言した。

 その声が終わるか終わらないかのうちに、マルマインが勢いよく立ち上がる。


「私の意見を述べる前に…ひとつ共有しておかねばならぬ極秘情報がある!それは……アストレオン側から齎された、仮想敵国のデータだ!」


 マルマインは息を呑む議場を見回し、重々しく叫んだ。

「我が国の脅威となる仮想敵国の名は――『ソラリオン』。広大な宙域と無数の星系を支配する星間国家だ! これを踏まえた上で、私の提案を聞いていただきたい!」 


 ホログラムに展開される膨大な敵データを背景に、マルマインは言葉を強めた。


「このソラリオンの脅威に対し、我が国がどう対処すべきか……まず言わせてもらう! 現在の我が中央評議会には、ソラリオンに勝つどころか、満足に『戦い』になるほどの戦力も、高度な技術力も持ち合わせていない!」

 マルマインの悲痛かつ切烈な叫びに、議場がざわめく。


「このまま中央評議会という単独勢力として戦うなど、絶対不可能だ! だからこそ……私はアストレオンに対し、さらなる軍事・技術援助を要請すべきだと考える! ……当然、それには相応の『代償』が必要となるだろう!」


「かつてイヴリス動乱における会談の際、我々は要刺都市カーディナル・ネストを譲渡したことで、事実上アストレオンの独立を許しました。しかし! それはあくまで『事実上の独立』に過ぎず、我が国は今なお彼らの正式な国家承認を行っていない。……今こそ彼らを対等な一国家として正式に承認しようではありませんか!」


「ですが、承認だけでは彼らが容易に高度な技術提供に応じるとは思えません。ゆえに――我が国が保有する『領土の一部』を彼らに譲渡することで、喉から手が出るほど欲しい技術提供を確実に引き出すのです!」

「以上を、私の切なる提案とさせていただきます!」

 マルマインはそう言い残し、自席へと戻った。


 彼の言わんとすることは理解できても、議場の反応は真っ二つに割れた。アストレオンという新興勢力に縋りつくような真似など断じて許せぬと激怒する者たち。一方で、たとえ一度刃を交えた相手であろうと生き残るためには援助を要請すべきだと考える者たち――。


 そんな騒然とする議場の中で、マルマインの主張に異議を唱えるべく静かに手を挙げる男がいた。

――レグルス・ヴァイスである。


「たしかに、今の我が国にはソラリオンと対等に渡り合えるだけの戦力など存在せん。かつての戦いによって、戦力は低下の一途を辿っている」


レグルスは冷徹な眼差しでマルマインを見つめた。

「マルマインの言う通りだ。こんな絶望的な状況でさえなければ、私は一蹴して拒絶していただろう。……だが、はたしてその提案が『成功する』という保証がどこにある? 私は到底、アストレオンがそんな条件に乗るとは思えんが……どうだ、マルマイン」


「っ……! 民の苦境を察する彼らだからこそ、明確なメリットを提示すれば必ず交渉のテーブルに着くと確信しております!」


「そうか。……だが、彼らの目に『現在の中央評議会』という国がどう映っているか、考えたことはあるか?」


レグルスの低く重い問いかけに、マルマインは沈黙という形でしか返答できなかった。

マルマイン自身、誰よりも理解していたのだ。

 この中央評議会という国が、すでに内部から腐りきっていることを。


ごく稀にまともな志を持つ者がいたとしても、それは圧倒的な少数派。大多数の議員は、保身と汚職、利権の貪り合いに終始している。……どれほど国家の誇りを熱弁しようと、レグルス自身がこれまで手を染めてきた暗闘や汚職の過去もまた、消せはしないのだ。


(――言葉による歩み寄りは、不可能だ)


この瞬間、二人は無言のうちに『決裂』を選択した。

マルマインは即座に行動を開始した。この腐朽した評議会を完全に見切り、独自の生き残りをかけて動き出す。


だが――百戦錬磨の政治屋であるレグルスが、反分子の動きを野放しにするはずがなかった。

レグルスは秘密裏に工作員を放ち、マルマイン派に属する議員の弱みを握って失脚させ、彼らを裏で支援しようとしていた民間組織や物流ルートを徹底的に潰しにかかった。


冷酷かつ完璧な、裏からの排除工作。

――結果として、マルマインは瞬く間に政治的影響力、資金力、仲間、その全てを剥ぎ取られた。

丸裸にされたマルマインに残された道はただ一つ。

失意と絶望の中、追手の目を逃れて……着の身着のままで中央評議会の首都から逃亡することだけであった――。

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