帝国の脅威
サーモン率いるアストレオンが、前代未聞の1万隻規模となる『第1艦隊』を新編してから、さらに1ヶ月の月日が流れた――。
そんなある日、宇宙の深淵にて「異常な出来事」が観測されたのである。
それは、ソラリオン帝国が位置する宙域において、一部の恒星が放つ光が僅かに弱くなっているというものであった。
決して自然現象による光度の変動などではない。
アストレオン観測所のメインモニターに表示されたその数値は、ウラニアから遠く離れた星々から順に不気味な変化を見せ、徐々に、しかし確実にウラニアに近い宙域の星々へと減光が広がっていた。そして、通り過ぎた遠くの星々は、何事もなかったかのように元の輝きを取り戻していくのだ。
「っ! 南方向、4.3光年先の宙域にて恒星の微弱な減光を確認!」
「減光範囲、急激にこちら側へ拡大中! これは絶対に自然現象ではありません!」
オペレーターが切迫した表情で所長へと叫んだ。
遠く離れた恒星の光すら不気味に遮り、宇宙を暗黒で塗りつぶしていく原因――。
そう、それこそが広大な宙域を埋め尽くさんとするソラリオン帝国の艦隊群であった。
ソラリオンは先の戦いにおいて、新編されたばかりの半個艦隊をウラニアへ送り込んだものの、アストレオンの予期せぬ猛反撃に遭い敗北を喫した。
彼らはその失敗を踏まえ、当初は「1個艦隊」による再侵攻を計画していたのだが……その甘い目論みは、すぐさま根本から覆されることとなる。
――――――――
「…………これは……あくまで推測の域を出んが……ソラリオンによる『本格侵攻』の直前と見て間違いないだろうな……」
メインモニターに映し出される不気味な減光データを凝視し、サーモンは苦々しく呟いた。
「これほどの大規模な減光が観測されている以上、前回の戦いとは投じられている戦力の桁がまるで違う。……となると、押し寄せてくる艦隊が『1つ』だけとは限らん可能性が出てきたな」
1ヶ月前に結成された第1艦隊に加え、この1ヶ月で新たに建造された9300隻からなる『第2艦隊』。
現在のアストレオンが保有する全軍事力は、合計 【1万9500隻】にまで達していた。
これほどの圧倒的大戦力を揃えながらも、サーモンは安堵するどころか……
「これでようやく『絶望』から『劣勢』の段階にまで持ち込めただけだ」
と痛感していた。
すぐさまサーモンたちは、ソラリオンが複数の艦隊で襲来するマルチパターンを想定し、高精度AIによる戦術シミュレーションを実行した。
――出された結果は、冷酷そのものであった。
どれほど緻密な防衛線を敷こうとも、ソラリオン側に『全体数の2〜5割』の損害を与えるのが限界であり、【アストレオン側は全滅する】と弾き出されたのだ。
圧倒的敗北から単なる「劣勢」へと繰り上がったとはいえ、戦況が極めて絶望的であることに変わりはない。
この絶望的な戦力差を覆すには、これから構築する「戦術」の成否がすべてを握っていた。
――――――――
ソラリオン帝国――主星アウクソ。
静寂と威厳に満ちた皇帝執務室にて、宰相ヘリオス・ギルバートがホログラム上に展開されたウラニア宙域の立体図を静かに指し示した。
「陛下。先の戦役より生還した艦隊より、詳細な戦果報告が届いております。……併せて、最新のウラニア宙域データも」
玉座に深く腰掛け、書類に目を通していた皇帝クラウディアス・ソラリオンは静かに手を止めた。
ヘリオスから提出された報告書と観測データに視線を走らせると、皇帝はゆっくりと顔を上げ、低く呟いた。
「…………ふむ。先の戦いでは半個艦隊を仕向けたわけだが、4割もの損失か。……『奴』の言っていた通りであったな」
「そのようですな」
「して、ヘリオスよ。我らが後進の辺境相手に不覚を取った要因は何だ? 我はこの程度の戦力相手に善戦どころか、奴らが勝利するなど到底想定しておらなんだがな」
「………………左様でございますね。……我々がアストレオンという存在を甘く見ていたことこそが、最大の敗因と言えましょう。あの戦役において、アストレオンに与えられた猶予はたったの『3日間』でした。その短期間でこれほど異軌の軍事急成長を遂げるなど、我らの計算を遥かに逸脱しております。……陛下、今後アストレオンを生かしておくことは極めて危険であると、改めて提言いたします」
ヘリオスの忠言を聞き、クラウディアス皇帝の瞳に冷徹な光が宿る。
「ヘリオスよ、我も同感だ。……それを考慮し、再侵攻の戦力規模を全面改定する」
「戦力の変更……でございますか」
「当初予定していた『第13艦隊』に加え、『第10艦隊』および『第4艦隊』の計3個艦隊を出撃させよ! さらに、この統合遠征軍の総司令官には……我が帝国の名将『ハンニケル』を起用する!」
「――御意!!」
宰相ヘリオスは深く頭を下げ、静かに執務室を辞した。
皇帝クラウディアス・ソラリオンが、アストレオンという存在を「帝国を脅かす真の危険」だと明確に認識した、歴史的瞬間であった。
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