神託の断罪
中央評議会に属する一部の小都市群を蹂躙し、占領下に置いてから数日が過ぎた。
静まり返った司令本部の奥深く、司祭セラフィオンと軍総司令官ヴァロニクスの元に、一人の伝令が血相を変えて飛び込んできた。
「失礼します! たった今、神託が下りました!」
その報告を聞いた瞬間、二人の顔に狂喜の笑みが浮かんだ。
「ほう……ついに神託が。内容次第では、我々の進軍計画を根底から書き換える必要がありますな」
セラフィオンが、陶酔したように細い指を組む。
「全くだ。軍としても、神の意思を無視して動くつもりはないからな」
ヴァロニクスが、野獣のような鋭い眼光を伝令に向けた。
「して、その内容は?」
セラフィオンの問いに、青年は震える声で神の言葉を紡いだ。
「――『天より鋼の影が降りる。境界は揺らぎ、試練は訪れる。動かぬ者に、光は差さぬ』……以上です」
「……青年よ、大儀であった。下がってよろしい」
伝令を下がらせると、セラフィオンは独り言のように呟いた。
「『動かぬ者に光は差さぬ』……。我々に、さらなる行動を促しているということですな。そして『天より鋼の影』。これこそが我々に与えられた試練の正体か」
ヴァロニクスが、不敵な笑みを浮かべて応じる。
「『天より』、か。星雲の彼方から飛来する未知の敵……。あるいは、我々を凌駕する高度な文明を持った連中ということだろうな。なあ、セラフィオン」
「ええ、その通りでしょう。悠長に構えている時間はありません。中央評議会や、あのアストレオンでも、それらしき不穏な影を観測したという情報が入っています」
セラフィオンは、冷徹な観察者の目に戻り、ヴァロニクスを正面から見据えた。
「ところで、例の計画の進捗はどうなっていますか?」
「ああ、あれか。現在 60%といったところだ。研究フェーズは完了し、今は実働となる造船所の建設を急がせている」
「極めて劣勢ですな……。地上の施設を地下へ移送する作業は? 造船所も地下に建設しているのでしょうね?」
「当然だ。この状況で地上に晒すほど愚かではない。リスクを避けるため、地下深くで極秘に建設を進めている」
ヴァロニクスの言葉に、セラフィオンは満足げに頷いた。
「短期間でそこまで進んでいれば上出来でしょう。造船所に並行して、居住区としての都市、そして食料生産拠点の構築も急いでいただきたい」
「……欲を言うな。すべてを同時に進めるのは不可能だ。今は造船所と都市を優先する。食料については備蓄で半年は持つ。その間にカタをつければいい」
「分かりました。軍の判断に任せましょう。よろしくお願いしますよ、総司令官」
神託によってもたらされた、迫りくる破滅の予感。
彼らは着々と、闇の中で牙を研ぎ始めていた。しかし、その「鋼の影」が自分たちの想像を絶する規模であることを、この時の彼らはまだ知る由もなかった――。
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