アストレオンの決断
中央評議会の動揺と呼応するように、アストレオンの宙域でも未知の艦影が観測された。
通信を切った瞬間、サーモンは耐えきれず机に手をついた。デスクに押し当てられた指先は、微かに、だが確実に震えている。
(来たか……)
背中を伝う冷や汗が、軍服に吸い込まれていく。
あの時とは違う。今は、自分こそがこの国を、民の命を背負い、決断を下さなければならない立場なのだ。
「……俺に、越えられるのか」
これまでの選択に後悔はない。だが、ふとした瞬間に弱気な影が脳裏をよぎる。もし、あの時別の道を選んでいたら。別の答えを出していたら――。
サーモンは頭を振り、その思考を自ら切り捨てた。立ち止まる時間は、もう一秒たりとも残されていない。
その時、静寂を破るように、執務室のドアが控えめに叩かれた。
「サーモン陛下、エールでございます。陛下に早急にお耳に入れたいことがあり、参りました」
(エール……元ヘパイストスの代表か。このタイミングで直々に来るとは、穏やかじゃないな)
「ああ、入ってくれ」
重厚なドアが音を立てて開き、エールが静かに、しかし決然とした足取りで入室してきた。
「さて、話とは何かな?」
「これからお話しすることは、現在観測されている事案を打破する一助になると確信しております」
エールの言葉に、サーモンの瞳に驚きと、かすかな期待の光が灯った。
「本当か! それは……軍事に関することか?」
「ええ。歴代ヘパイストスの代表は、ある特殊な軍事施設に関する一切を継承してきました。その存在はあまりに巨大で、たとえ身内であっても決して口外を許されない秘中の秘……」
エールの表情は真剣そのものだった。サーモンは、この話が想像以上に根の深い、国家の根幹を揺るがすレベルのものだと察し、再び背中に冷たいものを感じた。
(代表一人のみが継承する秘密……。現状を覆すほどの『何か』なのか?)
サーモンはゴクリと唾を呑み、核心を突いた。
「……宇宙軍艦の建造施設だろう? だが、ただのドックならこれほどの秘密にはしない。何が違う?」
「お察しの通り、宇宙軍艦の建造施設です。ですが、その性能は既存の概念を覆します」
エールは一呼吸置き、静かに告げた。
「その施設ならば、1日に5隻の建造が可能です」
「…………なんだと?」
サーモンは絶句した。規格外の何かを期待してはいたが、その数字はあまりに現実離れしていた。
「……通常、最新鋭の1隻を建造するのに、どれほどの期間を要するか分かっているか?」
「ええ。半年はかかります」
「半年かかるものを、1日で、それも5隻だと……? つまり、我々が直面している兵数不足という致命的な課題を、即座に解決できると考えていいのだな?」
「はい。その認識で相違ありません。今こそ、その封印を解く時かと」
この瞬間、アストレオンの運命は劇的に転換した。伝説の工廠が稼働し、軍事力は爆発的な拡大へと舵を切る。
――――――――――
時を同じくして、プレイヤーたちの間でも巨大なうねりが生じていた。
主要都市に拠点を置く個人、そして有力ギルド。アストレオンの掲げる理念に賛同し、その旗の下で戦うことを選んだ猛者たちが、続々とアストレオンへと集結し始めていたのである。
戦火の足音とともに、新時代の幕が上がろうとしていた。
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