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ママ  作者: 真田真
8/12

ママ

妊娠したことが、私が正しかったことの証だった。


満月の日の夜明けに性交するのが一番妊娠しやすいと、私は本能的に知っていた。あの人は種を外に出したつもりだったけど、私の体は、十分に受け入れる状態になっていたし、ここしかないと思っていた。


大阪には自分も住んでいた記憶があった。



いつ頃なんだろう。そういうことを思い出そうとすると頭が痛くなる。



いや、中学生からはずっと富山だ。


中学生から?小学生まではどうしてたっけ?


その前は?思い出そうと何度もしたが、そこは赤い世界。


私は赤い世界にいたのかしら。


まあ、いい。


不自然な状況に自分の思考が置かれているが、今は、現実の私の本能のままに生きようと思った。


大阪で住んでいたというのは前世なのかもしれない。デジャブというやつなのだろうか。この西成などは懐かしい気がした。



私もあの人と同類?


いやいや、私は富山の田舎町で、生まれ育った。


いろんな思いが交互にあふれ出てくる。

決壊したダムから溢れる水のようだ。


私は何かに突き動かされ、虫か魚のように行動している。


カマキリのメスが交尾した後、オスを食べてしまうように。


蝉が生まれてから死ぬまでの間、精一杯生きるように。


ただ、目的を淡々とこなしているだけ。


目的とは???


どこにあるのだろう。野生動物が強いオスを探すように私は伴侶になりうる人を探した。最初はてっきりカズ君が私の結婚相手だと思っていた。


だから、子供の頃からカズ君の資質を探り、また、ひた隠しにしているのならばと、それをさらけ出すように仕向けた。


もしかしたら何かスイッチが必要なのかもと思って、いろいろスイッチを押してみたが、だんだん彼との付き合いが落胆に変わっていった。


中学生の頃から高校まで、6年以上そうだと信じて付き合って、一体なんだったんだろう?


遠距離になっても、もしかしたら……と思い、諦めきれずにいた。


やっぱりあの人はだめなのかしら?


何度も、進んでは引き返した。


じゃあ、私は何で今、富山にいるの?



生い立ちや、周りからの扱い、屈折するであろう状況は精神を犯し、てっきり私の欲しかった結果を与えてくれると思っていた。



ところが、あの人と出会って確信した。

この人は間違いない。



表向きは、人に対して優しく、社交性もあってごく普通に見える。


これはかず君も一緒だ。かず君はちょっとおとなしかったけど。


けど、生い立ちで子供の頃にひどい思いしたり、お母さんがいなくなったりしている。


かず君の場合は、死んだと聞かされていた。


わたしは行方不明や、言うに言えない事情でいなくなったのかと思ったけど、調べれば調べるほど、どうやら本当に死んだらしいことがわかった。



それでもあの人と知り合うまでは一縷の望みを持って、かず君をまだ運命の人だと思っていた。


表向きの人あたりの良さの中に、人に対する憎しみ、家族に対する憎しみ、が隠されている……ものだとかず君の場合は思っていた。



ところが本当に、良い人だった。


無理やりホラー映画に連れて行って、潜在意識を覚醒してあげようと思っていたのに、資質自体なかったのだ。



ところがあの人は、私が言い出さなくても、私の知らないホラー映画をビデオなどで見せてくれた。


どろどろに血があふれ出るものだ。


あの人は血の赤さ自体は気持ち悪くなるようだったが、映画の中で人が切り刻まれたり、内容によっては、食べられたりするシーンに興奮するようだった。



あの人のアパートの合鍵をもらったのは抱かれてから。


無防備なものだ。


前の女はもうアパートには来ないのだろう。


私は休みの日など、あの人が仕事に出ている間にアパートで、食事を作ったりしていた。


目的はそれだけではない。


あの人がいない間、そして気付かれないように、掃除をするふりをして、あの人の荷物などをあさった。


ゲーム機、漫画本、たばこは吸わないし、酒は常に冷蔵庫にビールが入っているような生活ではない。


ゲームソフト、漫画本ともに、目につくものは普通のものであったが、隠してあるようなものは、私の期待通りのものだった。



猟奇系。


俗にエロ本、というものも、少女ものから変態系のマニアックなものだった。


ビデオも一般には知られていないような、画像があまりきれいではないホラー、もしかしたら、ほんとうの殺人を撮影しているのではないかとさえ思わせる。


本にしても、少女が犯されて苛めいたぶられ、最後には殺されてしまう、ホラーなのかポルノなのかわからないエグイものだった。


ゲームソフトも、漫画と似ているようなものだった。やってみはしなかったけれどパッケージで想像できるようなものだった。


あの人が大阪を出た頃は歌手になりたい夢を持っていたらしいが、今では諦めてしまっているのは知っていた。


大阪の家を出る時には、ボストンバッグ一つで、中にはとりあえずの衣服と、中学くらいから書きためた、詩が散りばめられたたくさんのノートや紙切れしか手にしていなかった話を聞かされた。


押入れの中に、そのボストンバッグなのかわからないけれど、薄汚れたバッグが入っており、私は埃を掃ってそれを手にし、ファスナーを開けた。


最初に俗に言う大人のおもちゃらしきものが押入れの隅に隠れてあったのが目についたが、まあ、いつかは私にも使うのかもしれない……と思いながらノートを開いた。



愛だの恋だのこそばゆくなる言葉が書き連ねてあった。


奥にギターもあったから、曲もつけているのかもしれないが、詩だけ読んでも特に音楽性は感じなかった。


そんなノートが何十冊もあり、それは様々な絵柄のノートで、小学生が使うようなキャラクターものもあった。


紙は変色して、角などはぼろぼろになっているところが年期を感じさせる。仕事でつかうオーダー用紙の裏から、仕事のメモ紙まで、汚い字で書き連ねてあった。



恋愛ものと混じって、自分の生い立ちを呪う詩もあった。


大阪に生まれた恨み。


幼い頃に自分を捨てた母親に対する恨み。殺すやら死やらがかなり目についた。


そしてアルコール中毒で、子供の頃からあの人を育ててきた父親に対する、感謝とも恨みとも思える倒錯した思いの内容。


「狂う」という言葉や暴力的な言葉が多かった。


この頃、結婚前だったから、大阪を飛び出して10年も経っていなかったが、父親の安否は知らなかったようだ。


結婚してから、父親の生まれ故郷……宮崎と聞いたが、そこの弁護士事務所から手紙が来たようだ。


祖父の遺産相続の件で、ずいぶん前に亡くなっているが、山やら何やらが権利者不明のため、ほったらかしにされていたのを、整理したくて、富山にいるあの人が見つけ出されたらしい。


何故、あの人の捺印が必要かと言うと、父親が亡くなっていたので、権利がその子供に受け継がれたから……それで初めて父親が亡くなったことを知ったらしい。


自分が家出して三年後に死亡と、遺産分配の内容を表す家系図に書かれていたらしい。とはいえ、遺産などはあの人には入ってこなかった。


それより、もしかしたらと思ってはいたが、父親が亡くなっていたことを何年も経ってから知ったことのほうが、あの人にとっては重要だったらしく、大阪にいる唯一の親戚である、父親の妹、あの人の叔母さんにあたる人になんとか連絡をとって、父親の死に様を聞いて、壮絶な最期だったようで、ショックを受けていた。



叔母さんもあの人の父親である兄を追いかけて宮崎の家を飛びてて大阪に出てきたらしいが、そのまま結婚するときに、兄が大阪にいるなど言えず、結婚してしまったから、死んでも葬式など出せず、かと言って宮崎の実家も頼ることができず、ひっそりとお骨を隠し持っているらしい。



「そうか……俺が二十歳くらいに死んだんだ」


と私にあの人は内容を話した。


あの人が二十歳だと私は中学生だ。自分が中学生の頃に、あの人は働いていたんだなぁ、と思うと不思議な感じがした。


いつか、大阪に供養しに行こうと言って、二人は入籍をした。

暑い夏のことだったけど、偶然にも亡くなった父親の誕生日が結婚記念日になった。


あの人が異常な性癖を持っていることもわかり、母親を含めて生まれてきたことを憎みながら生きて、その反面、表面上は良い人を演じていることが私には知ることができた。


日頃の行いや仕草、時々口に出すことばで、今まで自分の女性関係がうまくいかなかったこと、学歴がないこと、就職が困難なことなど、どうやら全て母親に捨てられたから、と思っているらしい。




その後、かつきが生まれて、おむつも替えない、世話をしない、抱っこしない……自分の子供と接することがうまくできない。それらも全て、母親に捨てられ、アルコール中毒の父親に育てられたせい。



また、時々、あの人が作った歌などを見つけて読むのだが、詩には怒りやどうにもできない葛藤などが含まれていた。



結婚してからセックスをすることがなくなった。まだ若いし性欲も強いほうだ。かつきを生んでわたしの身体が崩れてしまっているとはいえ、その後、まったく求めてこなくなったのは、愛人ができたからだ。


どうやら、わたしと知り合うと同時くらいに知り合った、わたしと同い年の女性らしい。


ことごとく、破滅に向かっていくのが好きな人だった。


とはいえ、わたしは焦った。


愛人に先を越されてはならない。


不倫の関係なんて、きれいに終わることができるわけがない。


最終的にその愛人ともめて、殺してしまったら最悪だ。


あの人のそういうシーンは私が作らなければ。


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