表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ママ  作者: 真田真
7/12

ひいばあちゃん

あの子はほんに優しい子じゃよ。


息子の嫁に比べると月とスッポンじゃわい。


あの腹からあんないい子が産まれるとは……。


本当なら、あの子は家にいたほうがよかった。


みどりと嫁はどうでもええ。


あんな罰あたり、どこへとでも行ってしまえ!!


この家は息子と、その後継ぎもいるし、息子の長男がはよ、嫁もらってくれれば女手も増えるけど、まだまだのようやし……。


わしも、歳をとったら、足腰がきかんようになってしもうて。畑仕事だけで精いっぱいやわ。


わしが元気な頃は、あの子もまだ、中学生くらいやったから、そんな頻繁には家に来れんかったけど、あの子が免許とるくらいになってから、わしの身体にガタがきたんで、助かっちょる。結構、手伝いに来てくれて、料理も掃除もしてくれるし、ほんにええ子や。



これで、畑仕事に専念できる。


まあ、わしも歳やから、いつまでかわからんけんね。


葬式だけは盛大にしてほしいわ。


息子もあの時にすぐ嫁と離婚しとけばよかったものの、ここまでずるずる引き延ばしてたら、後釜も来よらせん。


これで、息子に万が一何かあった時に、嫁に財産が行ってしまうみたいな理不尽な事になったら、先祖にも、死んだ旦那にもお詫びのしようもないわ。



嫁たちが出て行った時分は……もう十年前くらいになるかのう。


あの子が中学校にあがった頃じゃった。


旦那が死んでしばらくしてからじゃなぁ。


家に変な生き倒れが転がり込んできた後じゃからよう覚えちょる。


今、思えば、あの生き倒れが不幸の元凶じゃったのかもな。まあ、嫁のことは、あんなもん現れんでも、元凶も元凶、結婚自体が失敗やったとしか思えん。



見合いじゃったから、性格まではよくわからんかったもんに。



そう、そう、生き倒れの話じゃったな。



夏も終わろうとしてたけど、まだまだ暑い日のことじゃった。


多分、9月の初めじゃろう。


ひぐらしがまだ鳴いとったもんのう、特別暑い年じゃったと思うわ。



わしは畑仕事からちょうど帰ってきたところじゃから夕方じゃった。


嫁と子供、長男とみどりは何かの集まりで、家を出とった。


学校から帰ってきてからじゃ。早く行ってたから土曜日だったんかもしれん。


うん・・・そう考えたら、あの子だけ家にいたんか。



おかしいのう。


今、考えると。


あの子はしっかりもんじゃから、留守番させたんかもしれんけど。


まあ、とにかくおったっちゃ。


畑仕事が終わって、わしが帰ったら、玄関に、みすぼらしい男が倒れちょった。


みすぼらしいって、頭の薄い、40か50くらいの男じゃったけど、現場作業員が履くようなズボンに、泥にまみれて元は何色かわからんようなシャツ。



靴も履いてたんか履いてなかったんか……。



それだけじゃなく、匂いもきつかった。こりゃ、どうしたんけーって思ったよ。玄関はいったら、便所の汲み取りと、腐ったぬか漬けが混じったようなくっさい匂いがするんじゃから。



そして、髭か何かわからんもんが、ぼうぼうに生えてる汚い顔の男が、口元から血を流しながら倒れちょる。


そりゃ、びっくりしたわ。


咳をするたびに間口の広い玄関に、血のシミが増えていくんじゃ。



わしも腰を抜かしたわい。


助けてくれみたいなことを、関西弁みたいな言葉で、その男が言いおった。


助けてっちゅうても、何で、わしん家の玄関に転がり込んで……と腹立ったっちゃ。


どうしようか、触るのも嫌やし、警察でも呼ぼうかと思っとったところへ、あの子がでてきよった。


一瞬、蛇が出てきたんかと思った。


何で、人間と蛇を間違えたんかさっぱりわからんけども、とにかくわしは一瞬、蛇かと思うた。



わしは触るのも嫌なその男に、幼かったあの子が駆け寄って、背中をさすったり、水を飲ませたり、介抱しとった。


とにかく、電話のところに行って、警察を呼ぼうとしたんじゃ。


そしたらあの子は、「ばあちゃん、お父さん呼んで!!」って叫びおった。



まあ、わしももしかしたらそのほうが……とも思っちょった。どう考えても、この男は死にそうで、危害は加えれんじゃろ。



そうなると救急車やが、わしとあの子だけでこの厄介事を抱え込むのは難しかったので息子を呼ぶのが一番やと思った。


その時間、息子は大概、公民館に行って、町のもんとくっちゃべっとることはわかっておった。すぐ公民館に電話掛けて取り次いでもらって、息子を呼び出した。



その後、あの子がどうしとったんかはもう忘れてしもたわい。


覚えちょるのは、結局、何も悪いことしとらんけど、救急車なんぞ呼んで、この男のことを説明するのが面倒臭い。ならば、息子の軽トラで病院まで運ぼうと。


総合病院ではない個人病院やったけど、息子の幼馴染が病院を隣の市に経営しておった。


大きくて、入院もできて手術もできる病院じゃった。


診療時間はもう終わっとったけど、息子の幼馴染は院長じゃったから、自宅に電話して、相談したが、そしたら連れて来いっちゅうたから、息子が連れてったが。



あの子も乗ってったかな??


そうじゃ、軽トラに乗せようとしたけど、あの子も行くっちゅうたから、軽トラは無理じゃなと思ったんじゃ。



荷台に乗せて、落としてしもうたら余計におかしなことになってしまう。


バンも持っちょったから、バンの後ろにその男を乗せて、息子とあの子が病院に行きおった。


その男のことは、そのあとどうなったか、詳しくは覚えちょらんけど、息子の話では、癌の末期だったみたいで、医者にもかかってたんか、どうかわからんけど、運んだ時にはもう手の施しようのない状態じゃったみたいで、すぐに死におった。



どう処理したかは詳しくは聞いちょらん。


それより、その夜じゃった。嫁が、子供を連れて、家を出たいと言い出したんは。


息子たちはまだ帰ってきちょらんかったけど、嫁はわしに言うてきよった。今日も、集まりとかではなく、前々から市営住宅に申し込んどったのが当たったから手続きに行ってらしい。


みどりと長男を連れてくって言いおった。わしはあの子はどうするんじゃ……って言い返したのを覚えちょる。別に嫁は出て行こうがどうでもええが。代りをまた連れてくればええんじゃけ。孫ごと連れてくっちゅうんで、わしも怒ってしもうた。それも、二人だけ。


あの子はどうする?の言葉に嫁はポカンとして、「ああ、そうですね」やて。あきれてしもうたわい。


……しばらくして結局、長男だけを置いて出て行ったが。離婚もせずに。


はがやしい!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ