第零話 冥界総合受付課、ポンコツ・モノレールを買う
【冥界交通局・車両保安規程(改訂版)】
**第七条 車両内における死者の迷惑行為への対応**
モノレールの安全かつ平常な運行を確保するため、各車両に獄卒四名を配置する。
**第一獄卒:車掌・乗車券確認担当**
乗車券、冥界行き整理券、宗派別乗車区分を確認する。
「お客様、こちらは三途の川方面です。ステュクス川へは、お乗り換えください」
「わしは生前、川など渡っておらん!」
「承知しております。では、該当する窓口をご案内いたします」
「どこだ!」
「現在、案内板を更新中です」
**第二獄卒:車内保安担当**
宗派間の口論、座席の奪い合い、死後の身分をめぐる紛争を制止する。
「閻魔大王の判決が不当だ!」
「こちらは交通機関です。判決への異議申し立ては、所定の窓口でお願いいたします」
「その窓口はどこだ!」
「現在、確認中です」
**第三獄卒:苦情対応担当**
苦情を申し出た乗客に対し、定型文を読み上げる。
「苦情は、受け付けておりません。カスタマーハラスメントに該当する可能性があります。とにかく降りてください。川の受付で、お申し出ください」
「わしは、まだ死んで三分しか経っておらんのだぞ!」
「ご逝去直後であっても、車内規則は適用されます」
**第四獄卒:運転士保護・運行正常化担当**
運転士への暴言、運転席への接近、進路への介入、宗教論争による運行妨害を防止する。
必要に応じて乗客を次の停車駅で降車させ、運転士が平常運転を継続できる環境を確保する。
「運転士さんに、直接、地獄の行き先を変更しろと要求しないでください!」
「わしは天国行きだ!」
「行き先の決定は、運転士の権限ではありません!」
「では誰の権限だ!」
「その確認のため、川の受付へお越しください!」
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### 付則 運転士の精神的安全について
運転士は、乗客の生前の行状、宗派、死因、未練、家族関係、遺産相続および死後の処遇に関する紛争について、責任を負わない。
運転士が安全な運行を維持できないと判断した場合、列車を安全な場所に停車させ、第四獄卒の対応を待つことができる。
なお、停車中に乗客が「早く出発しろ」と要求した場合、第三獄卒は次の定型文を読み上げる。
「苦情は、受け付けておりません。カスタマーハラスメントです。とにかく降りてください。川の受付で、お申し出ください」
**以上。冥界交通局長印。**
※局長は、現在、所在不明である。
『冥界総合受付課―四人のババアと、川の向こうの大問題』
冥界には、死者を受け入れ、行き先を確認し、必要な手続きを済ませる「冥界総合受付課」がある。
天国、地獄、輪廻転生、煉獄。それぞれの宗教や伝承に基づく行き先は異なるが、死者が迷い込んだり、書類を紛失したり、前世の記憶を手放せなかったりするのは、どこでも同じ。
ところが、現場は慢性的な人手不足。
そこで雇われたのが、個性の強すぎる四人の女性たちだった。
なお、これは異なる伝承の登場人物を一つの職場に集めたフィクションです。実際の宗教で四人が同じ組織に属するという意味ではありません。
【四人の主要キャラクター】
◾️一人目:孟婆
担当:記憶消去スープ課
死者に記憶を忘れさせるスープを管理する。仕事は正確だが、最近は「本当に全部忘れさせていいのか」と悩み始めている。スープの味見には異常に厳しい。
◾️二人目:奪衣婆
担当:衣類確認・持ち物検査
死者の衣服を扱い、伝承に沿って身元や罪の重さを確認する。規則第一主義。ところが、衣服のポケットから出てくる物の多さに毎日怒っている。
◾️三人目:マテルダ
担当:川向こう案内係
ダンテの『神曲』に登場する女性を、冥界の職場へ招いた創作上の設定。案内は丁寧で物腰も柔らかいが、複雑な行き先案内をすべて引き受けてしまう。結果、いつも残業。
◾️四人目:リリス
担当:苦情処理・業務改善/パート職員
サタンの妻とされる後世の伝承もある女性。だが本人は、その肩書きを履歴書に書かない。古い規則の矛盾を見抜くのが得意で、面倒な仕事を押しつけられると、必ず雇用契約を持ち出す。
※庶務担当は四人とは別にいる、疲れ切った常勤職員。
四人のババアを束ねるつもりでいるが、実際には四人に振り回されている。




