第43話 白の恩恵
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ルベリオン王国が消滅し、ヴァランシエンヌ帝国の直轄地となってからの数ヶ月、この地には歴史上かつてない規模の劇的な大改革の嵐が吹き荒れていた。
アルチュールが真っ先に行ったのは、平民を替えのきく便利な労働力としか見ず、一方的に搾取し続けていた旧王国の体制を、帝国の厳格な法のもとに解体することだった。新たに定められた『直轄地貴族法』により、領主たる貴族たちは、領地の健全な運営と民の防衛を担うことが義務づけられた。義務を果たさぬ者はただちに爵位を剥奪される。この法一つで、貴族たちの不当な搾取は完全に禁じられた。
さらに、各領地の規模に応じた数の学校と病院の設置が義務づけられた。ルベリオン独自の歪んだ魔力交配ではなく、教育と医療による「人材育成の基盤」を整えるためだ。当然、これらをすぐに動かせる人材はルベリオンにはいないため、基盤が整うまでの間、帝国から優秀な指導者と運営の専門家が各地へと配備された。
それと同時に、国中で近代的なライフラインの整備が一斉に開始された。
旧王国の平民たちは、重い水や薪を過酷な肉体労働で運ぶ日々を強いられていたが、その環境を劇的に改善するための大工事が始まったのだ。
工事に伴い、旧体制の崩壊で職に溢れた者たちが多く出たが、帝国は彼らを使い潰すようなことはしなかった。土木建築の作業員として彼らを募り、汗に見合うだけの「正当な賃金」を明確に約束して大量の雇用を生み出したのだ。さらに、作業に馴染めない者や、新たな技術を学びたい者のために、無償で受講が可能な魔導技術の講習会までもが開かれた。
各地域には、ライフラインの開通を待つ間の支援として、帝国から直接、高位の魔導工学士と魔導騎士が派遣された。彼らは民の元へ絶え間なく清浄な水を給水し、暖を取るための火を補給して回りながら、領地の新しい管理者たちへライフラインを維持するための技術指導を懇切丁寧に執り行った。
「……本当に、蛇口を捻るだけで綺麗な水が出るのか?」
「ああ。それに、学校に子供を無償で通わせられるなんて、夢みたいだ。あの死神の国は、恐ろしい化け物ではなく、豊かさをもたらす神の手だったのだな……」
ほんの数ヶ月前まで、明日の食糧にも困り、暴動の手前まで追い詰められていた民たちの生活は、驚くべき速度で豊かさへと裏返っていった。
国中が真の平穏と生活の改善を肌で実感し、希望の光が人々の顔に宿り始めた頃。
旧王都の中央広場にて、この新たな直轄地を治める『真の統治者』のお披露目の式典が執り行われることとなった。
広場を埋め尽くした数万の民たちの間に、心地よい、けれどどこか緊張した静寂が走る。
彼らの前に現れたのは、漆黒の礼装を纏ったアルチュール皇帝陛下。そしてその隣で、陛下の大きな手に優しくエスコートされながら並び立つ、一人の美しい少女の姿だった。
民たちは、息を呑んだ。
そこには、かつて自分たちが、血も涙もない王侯貴族の一員だとして、輿入れの日に泥や石を投げつけた、あの惨めな第一王女の面影はどこにもなかった。
ブランシュは、風に優しくなびく、まばゆいばかりの純白の髪を隠すことなく堂々と晒していた。帝国の最高峰の仕立て師が誂えた、気高く美しいドレスを身に纏い、その純白の瞳には、かつてルベリオンの塔で怯えていた暗さは微塵もない。ただ隣のアルチュールを信頼し、凛とした気品に満ちた、本物の皇妃としての輝きがそこにはあった。
触らぬ神に祟りなしと、これまで恐る恐る静観していた民たちの脳裏に、凄まじい衝撃が走る。
――自分たちと同じだ。
ルベリオンにおいて、魔力を持たない平民たちに圧倒的に多かった、あの忌み嫌われていたはずの『白い髪』。
その白髪を持つブランシュが、世界最強の軍事大国の皇帝にどれほど深く、狂おしいほどに大切に寵愛されているか。そして、彼女が奪われたからこそ、あの死神の逆鱗に触れ、結果として自分たちを地獄の搾取から救い出すこの豊かな治世がもたらされたのだという真実。
彼女は呪い子などではない。自分たち『持たざる者』の苦しみを誰よりも知る、神が遣わした真の救世主だったのだ、と。
「ブランシュ皇妃殿下……ッ!」
「皇帝陛下、万歳……! ヴァランシエンヌ帝国万歳……っ!」
最初は、小さな呟きだった。それがさざ波のように広がり、やがて広場全体を震わせるほどの、狂おしいまでの歓声と地鳴りのような拍手へと変わっていった。
かつて泥を投げつけた罪悪感に涙を流し、床へ膝を突いて赦しを請うように深く頭を下げる民たち。彼らの瞳には、恐怖ではなく、心からの深い尊敬と、この二人に一生ついていくという絶対の忠誠の光が宿っていた。
割れんばかりの祝福に包まれるなか、ブランシュは隣のアルトを見上げ優しく微笑み、民たちへ向かって優しく手を振った、
ルベリオンの民たちが、ついに偽りの黒の欺瞞から目を覚まし、二人のことを「本物の統治者」として認め、魂の底から崇め奉った、忘れられない夜明けの瞬間だった。
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