第2話 狂王の眼差し
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ルベリオン王国の王城は、逃げ惑う貴族たちで悲鳴に包まれていた。
国境の防衛線は一瞬で突破され、黒い甲冑に身を包んだ帝国の兵たちが、すでに王都の門へと迫っている。戦う術など、最初から無かった。
謁見の間。
ルベリオン国王は、自慢の黒髪を恐怖の汗で濡らしながら、玉座の下で平伏していた。
その前に立つのは、帝国の軍を率いる若き皇帝、アルチュールだった。
彼が纏う空気は、息をすることさえ拒まれるほどの質量を持った「圧」。
漆黒の魔力のプレッシャーそのものだった。
国王は、自分が長年誇ってきた魔力など、この男の前では羽毛ほどの手応えも無いことを悟り、歯をガタガタと鳴らした。
「ルベリオン王。命乞いを聞こう」
アルチュールの冷徹な声が響く。
「へ、陛下……! 我が国は帝国の属国となり、全財産、全ての金銭を賠償として差し上げます! どうか、我が一族の命だけは……!」
「金銭は当然だ。国庫の全てを没収する。だが、それだけでは戦争褒賞(捕虜)としては足りん」
アルチュールは、ルベリオンの「魔力交配」の悪趣味な伝統を知っていた。
そして、この国がプライドだけは高く、血統を何より重視していることも。
「お前たちの『高貴なる血』を一人、人質として帝国へ差し出せ。拒むなら、この場で王族の首を全て刎ねる」
国王の脳裏に、自慢の息子や、美しい娘の顔が浮かんだ。彼らは皆、見事な黒髪を持つ、王家の「至宝」たちだ。帝国へ生贄として差し出せば、どんな惨い扱いを受けるか分からない。渡したくなかった。
その時、国王の歪んだ頭脳に、一人の少女の存在が閃いた。
(そうだ……あの『無能』がいた)
同じ王族の血を引きながら、魔力を持たず、離れの塔に隔離され、毎朝偽りの黒に染められている、王家の恥晒し。
あいつなら、死んでも惜しくない。むしろ、帝国で「白髪の無能」であることがバレて殺されれば、王家の恥が隠せて一石二鳥ではないか。
「……おります! 我が王家が誇る、う、美しい王女が……! 翌年、18歳を迎える娘を、陛下の元へ嫁がせます!」
国王は必死に頭を床に擦りつけた。
アルチュールは、その浅ましい王の黒髪を冷ややかに見下ろし、「いいだろう」と短く告げ、1年後の18歳を迎えたおりには、ヴァランシエンヌ帝国へと輿入れさせ、そのさらに1年後婚姻を結ぶことをこの場で賠償として約束させた。
こうして、ルベリオン王国は実質的に滅び、帝国の属国となった。
この国家の命運を決める大事件の最中、離れの塔でただ静かに頭皮の痛みに耐えていたブランシュは、自分が「生贄」に選ばれたことすら、まだ何も知らなかった。
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